第6話


「ごちそうさまでした」


サンドイッチを全て平らげ、両手を合わせる。

とても美味しく、また食べたい味だった。

食べ終えても2人が戻ってこないため、ルクスさんが言っていた本棚から1冊手に取る。

『世界の歴史』というタイトルのそれは、この世界の成り立ちや各国の歴史などが記されているものだった。

パラパラとページを流し読みしてみたが、何しろ基礎がないため分からない。

言語が通じるのが幸いだったか。


そんなことを考えていれば、ノックの後に扉が開く。

入ってきたのはルクスさんだった。


「ごめんなさいね。待たせちゃって」

「いえ。あ、サンドイッチごちそうさまでした。美味しかったです」

「口に合ったようで良かった」


嬉しそうに笑みを浮かべるルクスさんは私が持っている本に視線を向けた。


「それ読んでいたの?」

「はい。私の世界の歴史と全く違って面白いです」


ルクスさんは食器を片付けてから再び椅子に腰かけた。


「ナルミちゃん。ちょっと大事な話をしてもいい?」

「…はい」


真剣な声色だったため自然と背筋が伸びる。

きっと、これからの話だと自然に悟った。


「まずは確認だけど、あなたはこことは別の世界から来たのよね?」

「はい」

「元居た世界に帰りたいとは思わない?」


アヴィスさんにも同じことを聞かれた。

しかし、私の答えは変わらない。

全力で首を横に振る。


「絶対に嫌です」

「そう。じゃあこの世界で生きていくの?」

「…できればそうしたいです」

「そっか」


ルクスさんはおもむろに立ち上がると、颯爽と部屋を出て行った。

そして隣の部屋からガタガタと音がしたかと思ったらルクスさんに引きずられるようにしてアヴィスさんが戻ってきた。

一体何をしていたのだろうか。


「アヴィス、ちょっとそこに座ってくれる?」

「え?あぁ……」


アヴィスさんは戸惑いながらもルクスさんの指示通りベッドの横の椅子に腰かける。


「さて、じゃあ未来の話をしようか」


白衣を翻しながらルクスさんはアヴィスさんの正面に立つ。


「アヴィス、あんたナルミちゃんに言いたいことあるでしょ」

「え、いや…」

「ここで言わなくていつ言うのよ」


気まずそうに視線を彷徨わせるアヴィスさんを見て、ルクスさんはため息をついた。


「ったく、分かった。私が邪魔なら席を外してるから終わったら自室まで呼びに来て」

「ちょっ……」


引き留めようとするもアヴィスさんは口をパクパクさせるだけで言葉が出ないようだった。

ルクスさんはアヴィスさんを放置してこちらを向く。


「ナルミちゃん、アヴィスのことよろしくね」

「え?」


それだけ言い残してルクスさんは本当に部屋から出て行ってしまった。


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