第5話


ナルミちゃんを病室に残してアヴィスと隣の部屋に移る。

ここからの話を彼女に聞かせるのはあまりにも酷だった。


部屋に入り、鍵を閉める。

すると椅子に腰かける間もなくアヴィスは鋭い声を投げてきた。


「ナルミさんに何をした」


振り返れば、殺気に濡れた視線に射抜かれる。

彼のこんな目を見るのはいつぶりだろうか。


「怪我をしていたからそれについて聞いただけよ」

「…」

「彼女、こことは別の世界から来たみたいね」


その言葉に彼は肩を揺らすほど過剰に反応した。


「…それを聞いてどう思った」


アヴィスは感情を押し殺した声で問いかけてきた。

その様子に思わずため息が漏れそうになるが、ぐっと堪えて口を開く。


「正直、驚いたわ。でも彼女の様子から嘘はついてないし、おそらく事実でしょうね」

「……そうか」


私は人が足りない時は外交官として他国に赴くこともあるため、人の嘘を見抜くことには長けていた。

その私の目で見ても彼女は嘘をついていない。

つまり彼女が言ったことは真実なのだ。


「記憶が混乱しているだけだとでも思ったの?」

「そんなこと、」

「少なからず期待したんでしょう」


言い訳をする隙を与えずに言葉を詰めれば彼は唇を噛んだ。

彼のその人間らしい反応にどこか安心してしまっている自分がいた。


「……」

「だんまりならそれでもいいけど、あまり彼女を悲しませないようにね」


釘を刺してから部屋を出ようとすれば、彼は呻くように呟いた。


「分かってる…けど、どうしても」


十分すぎるほど苦しんでいる彼にこれ以上追及するのは野暮というものだろう。


「…先、戻ってるわね」



それだけ言い残して私は部屋を後にした。


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