第4話 パパ

 何か、探偵ごっこみたいで楽しい、なんて心境にはなれない。


 だって、幼なじみが、犯罪行為に走っているかもしれないから。


 JKが、おじさんと、パパ活だなんて……


 でも、おじさんと言えども……かなりイケメンだよな。


 すれ違う女子たちがみんな、キャッキャと色めいているし。


 前を行く2人は、オシャレなカフェに入った。


 正直、男1人で入るには、抵抗がある。


 でも、幼なじみのことを思い、何とか勇気を振り絞った。


「いらっしゃいませ」


「あ、すみません、1人なんですけど……」


「はい、どうぞこちらへ」


 案内された席に、スポッと身を収める。


 美帆とイケオジの2人組がちょうど見える位置なのは、ラッキーだ。


 それにしても、尾行を始めたは良いものの……これから、どうしようか?


 俺が2人の前に出て、こんなことやめるんだって、止めるべきか?


 それとも、警察に通報とか?


 いや、娘が警察沙汰になったら、悠奈はるなさんが心配するし、悲しむ。


 となれば、どうするべきか……


「……あのぅ、お客さま」


「は、はいッ?」


「ご注文は、いかがなさいますか?」


 店員さんが、曖昧な笑みを浮かべて、遠慮がちに聞いて来た。


「あ、えっと……オレンジジュースで」


「かしこまりました。以上でよろしいでしょうか?」


「あ、はい」


「では、失礼いたします」


 店員さんが去ると、俺はため息をこぼす。


 一方で、美帆はパパ活相手の(?)イケオジと楽しそうに話している。


 恐れながら、俺は美帆からの告白を断った身。


 だから、いくら幼なじみとはいえ、その後の彼女の恋路に口をはさむのはお門違いかもしれない。


 それでも、やはり悪いことは止めないといけないから。


「お待たせしました」


「あ、どうも」


 届いたオレンジジュースをストローですする。


 濃厚な果汁の美味さに驚きつつも、やはりあの2人から目が離せない。


 それから数分後、チャンスが訪れた。


 美帆が席を立ったのだ。


 恐らく、トイレに行くのだろう。


 俺もスッと立ち上がり、コソリ、コソリ、と美帆に接近する。


 きっと、いまの俺は挙動不審だ。


 下手すれば、こっちが逮捕案件。


 まあ、学校帰りで制服を着ているから、私服で挙動不審なやつよりは、マシかもしれないけど……


「……美帆」


 と、声をかけると、ビクッとその華奢な肩が震えた。


「……って、一平? あんた、何でここにいんの?」


「いや、それは……たまたま、だよ」


「……ふぅ~ん?」


 美帆はスッと目を細めた。


 俺はまた冷や汗をかいてしまう。


「ちょっと、待っていて」


「あ、うん」


 また数分後、美帆はトイレから出て来た。


「お待たせ。じゃあ、こっち来て」


「ああ、うん」


 俺は美帆と一緒に店内を歩く。


 やって来たのは、彼女たちの席だ。


 そこには、例のイケオジがいる。


「んっ? 美帆、誰だその坊ちゃんは? ナンパでもしたのか? 俺という男がいながら」


 と、余裕の笑みを見せて言う。


「パパ、こいつ、一平。ほら、前に話した、幼なじみ」


「ああ、君か」


「……あの、すみません」


「んっ?」


「美帆は、俺の……大切な幼なじみなんです。だから、その……」


「あれ? 美帆、お前この子にフラれたんだろ? 何か、娘さんを下さいって言われそうな雰囲気なんだけど」


「いや、違うでしょうが。てか、一平、どした?」


「おい、美帆」


「な、何よ?」


「幼なじみとはいえ、あまりとやかく言いたくないけどさ」


「うん?」


「パパ活なんて、やめろよ」


「……ハッ?」


 美帆の目が、スッと冷めた。


 でも、俺は怯まない。


「だって、そんなことしたら、は……おばさんだって、悲しむだろうが」


「ねえ、一平。あんた、すごく勘違いをしている」


「えっ? 何が?」


「この男性ひとは、あたしのパパよ」


「うん、だから、お金をくれる、ふしだなら人なんでしょ?」


「そうじゃなくて、実のパパ」


「……はっ?」


 俺は目をパチクリとさせる。


「やあ、一平くん、だったかな? 初めまして、正真正銘、美帆の実のパパです」


「……マ、マジっすか?」


 ていうことは、この人が悠奈さんの……


「娘から、色々と話は聞いているよ。母娘おやこともども、お世話になっているみたいで」


「あ、いえ……お世話になっているのは、こっちの方と言いますか」


「へぇ、それはどういう意味で?」


「はっ?」


 美帆のパパさんは、微笑みをかましつつも、どこかこちらを見透かすような目を向けて来た。


 真綿で首を絞められるというか、心臓を鷲掴みされるようで、また冷や汗が噴き出す。


「一平、うちのママの料理をよく食べているから。一平のママはバリキャリで、手料理とかしない人だからさ」


「ああ、そういう意味ね」


 美帆パパは、ニコリと笑う。


 それでも、俺の不安感は拭いきれない。


「一平くんも、ティーブレイク中かい?」


「あっ……そ、そうですね」


「じゃあ、良ければ一緒にどうだい? 君からも、美帆のことを聞きたいんだ」


 変わらず笑顔で言う。


 正直、逃げたいけど、踏ん張りを利かせたのは、悠奈さんの顔。


 だって、この人は、悠奈さんの……元夫。


 つまり、悠奈さんと、そういう関係だった人。


 そう考えると、見過ごす訳には行かない。


「……じゃあ、せっかくだから、お邪魔します」


「じゃあ、おいで」


 どこまでも余裕の姿勢を見せる美帆パパに対して、俺は同じオスとして、本能的に脅威を感じていた。







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