第2話 女神

 学校に到着して廊下を歩いていると、


「ねえ、1組の柴田しばたくん、最近また良い感じじゃない?」


「うん、何かシュッとして、かっこいいよね~」


「でも、3組の白井しらいさんと付き合っているんでしょ?」


「いや、それは同じ3組の野中のなかくんじゃなかったっけ?」


「何か、別れたっぽいよ」


「てか、野中くんは最近、ちょっとダメじゃね?」


「確かに、イケメンだと思っていたけど……何かダサくなった?」


「ポキッ、と自信をへし折られた、的な?」


「サッカー部でもレギュラー落ちしたみたいだし」


「うわ、かわいそ~。じゃあ、『彼氏にしたい男子ランキング』から滑り落ちだね~www」


 女子って、残酷で正直だな。


 まあ、捉えようによっては、それが男子にとって良い緊張感になるのかもしれないけど。


 ただ、俺はそんな同年代の女子たちの声とか、あまり気にしない。


 だって、俺にはもう、愛する女性ひとがいるから。


 悠奈はるなさんと言う、誰よりも素敵な女性が。


 悠奈さんのことを想うと、胸がホッと温かくなる。


 少し前は、思い出すたびにマイジュニアが暴走気味だったけど。


 復縁してから、心に余裕が生まれた。


 それは良いことだけど……まだまだ、俺は悠奈さんという存在に、依存している。


 もう、離れないと固く誓ったけど、人生なにがどうなるか分からない。


 場合によっては、悠奈さんと別れる、という悲しい選択をしなければならないかもしれない。


 その時、決して崩れることなく、笑って見送ることが出来る。


 俺はそんな強い男でありたい。


 だから、悠奈さんと寄り添いつつも、少しずつ悠奈さん離れをして行こうと思う。


 学校の授業もマジメに受けて、清々しい気持ちをキープしたまま帰宅する。


「ただいま」


 まだ誰もいないけど、習慣でそう言ってしまう。


「おかえりなさい」


 その声に、ビクッとした。


 一瞬、また早上がりをしたクソ勝ち組キャリアウーマンな母さんが帰宅して一杯やっているのかと思った。


 けど、違った。


 そこにいたのは……


「……は、悠奈さん」


 エプロン姿がよく似合う、女神がいた。


「ごめんなさい、驚かせちゃったかしら?」


「いや、まあ……」


「ほら、前に彩乃あやのさん……いっくんのお母さんが提案してくれたでしょ? 一くんのお家で、家政婦をしないかって」


「そ、そうでしたね」


「あれから色々と考えて……試しにやってみようかなって」


「な、なるほど」


「いっくん、迷惑じゃない? こんなおばさんが、お家の中をウロウロして……」


「そんな、おばさんだなんて……悠奈さんは俺の……あ、愛する女性ですから」


 と、照れながらもそう伝えると、悠奈さんは目を丸くした後、にっこりと微笑む。


「嬉しい……私もあなたのことを愛しています……一平いっぺいさん」


「ひゃわッ」


「あ、ごめんなさい。そんな風に呼んじゃって……」


「いえ……最高です。でも、まだ慣れないから……たまにで」


「はい、分かりました」


 クソ、やっぱり悠奈さんは、最高だぜ。


 もう、すでに股間がウズウズしてたまらない。


「あ、俺ジャマだから、外にいた方が良いですかね?」


「ううん、そんなことないわ。私はお掃除しているから、いっくんはゆっくりくつろいでいて?」


「そ、そうですか?」


「そうだ、洗濯物はあるかしら? 靴下とか……」


「いえ、臭いので、結構です!」


 つい焦って、強い口調で言ってしまう。


「気にしなくて良いのに」


 悠奈さんは、なぜか少し残念そうに言う。


 その物憂げな表情を見て、また股間が……


「あの、悠奈さん、俺の部屋って掃除します?」


「そうね、ご希望ならするわよ? 契約時間は3時間で、あと半分ほど残っているから」


「いや、じゃあ……俺の部屋は、またの機会ということで」


「あら、そう……」


 また、悠奈さんは少し残念そうに言う。


 くそ、何かエロいし、あと可愛すぎる。


「お、俺ちょっと、自分の部屋にいますので」


「そう? 私に遠慮していない? リビング、まだお掃除の途中だけど、くつろいでも良いのよ?」


 ふむ、家政婦の仕事をする悠奈さんを眺めながら飲む、学校帰りのジュースはきっと……美味すぎるんだろうなぁ……って、バカ野郎!


 悠奈さんへの依存度を高めるなって、言ったそばから情けない。


「いえ、お気になさらず。悠奈さんは、お仕事に集中してください」


「ええ、そうね。ちゃんとお給料をもらっているんだから、がんばらないと」


 両手でムン!とする悠奈さんが可愛すぎて終わる。


「じゃ、じゃあ、よろしくお願いします」


「はい、かしこまりました」


 笑顔の女神に見送られて、俺は階段を上って行く。


 そして、自分の部屋に入った直後。


 ベルトを外し、ズボンを脱ぐ。


 椅子に座って、パンツを下ろした。


 マイジュニアはもう、いきり立っていた。


「……ごめんなさい、悠奈さん」


 俺はそう詫びて、鬼のように溜まった欲望を吐き出した。







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