◆美帆視点 いじめタイム♪

 唇に塗るリップに気合が入る。


 こんなの、いつ以来だろうか?


 元から美少女なのに、さらに昇華しちゃって。


 これがあたしの、ホ・ン・キ♡


 そんな超美少女のあたしは、タンタンと軽やかに階段を下りて行く。


 すると、そんな軽やかなあたし様とは対照的な、重い女がいた。


 色々な意味で。


「あれ、ママ。今朝はのんびりさんだね?」


「えっ? ああ、今日は……パートがお休みなの」


「そうなんだ。じゃあ、ゆっくり休んでね。あたしは、これから冴えないバカ幼なじみとデート、して来るから」


 デート、を強調して言う。


 すると、このホルスタインはピクッと反応しつつも、


「ええ、いってらっしゃい」


 微笑んで言う。


 はんッ、強がりが見え見えなんだよ、この。


「じゃあ、行って来るね。気が向いたら、何かおみやげ買って来るから」


「ありがとう、楽しんで来てね」


 偽善者、乙。


 本当は、あたしのことがうらやましくて、何なら憎くてたまらないくせに。


 でも、仕方ないよね。


 だって、あんたの年齢で、あたしらの年代に手を出すとか、マジギルティーだから。


 よくもあたしの一平を、性欲まみれの猿野郎にしてくれたわね。


 この淫乱ホルスタインが。


「行って来ます♪」


「いってらっしゃい」


 変わらず微笑むホルスタインに別れを告げ、あたしは家を出る。


 そして、すぐおとなりの玄関前に立つ。


 さてと、まずはあのバカのアホ面を拝みますか。


 どうしてだろう、あのホルスタインに対する悪口は、こっちも何だか胸クソなのに。


 あいつに対する悪口は、どうしてこうもワクワク、ゾクゾクするんだろう?


 ガチャリ、と目の前の玄関ドアが開く。


「はぁ~……」


 こいつ、いきなりため息つきやがって。


「ちょっと、朝から冴えないツラね」


 目の前にたつバカ男は、ハッとした顔になる。


「美帆……いつの間に」


 あたしは腕組みをしながら、瞬時にそいつの頭のてっぺんからつまさきまで見て、


「……60点」


「えっ?」


「いま目の前にいるあんたの総合点数」


「ふ、服ダサかった?」


 ぷぷ、焦ってやんの。


「服はまあまあ、80点。けど、その陰気さでマイナス20点」


「……ごめん」


 ショゲちゃって、かわ……コホン。


「まあ、良いわ。あたしが120点の美少女さまだから、ちょうど中和されるっしょ」


「さすが、だな」


「ふふん、ついてらっしゃい」


 あたしは颯爽と歩き出す。


 一平が追って来る。


 まあ、この陰気くんも、陽気なあたしちゃんと一緒なら、すぐ明るくなるっしょ。


「で、今日はどこに行くんだ?」


「街ブランチ」


「んっ? 何それ、ギャル語?」


 ギャル語てwww


「あんた、ブランチって知らないの? 朝昼を兼ねたごはんのこと。適当に街ブラしてお腹を空かせてからいただくの」


「ああ、なるほど……お前、意外と頭が良いんだな」


「失礼ね、あたしだって勉強しているんだから」


「そうなのか? じゃあ、今度のテストも余裕か?」


「ガッコの勉強じゃなくて……人生の」


 あたしはバカに振り向く。


 こいつ、理解してんのかな?


 あたしがどんだけ、あんたに苦しめられているかって。


 まあ、全ての元凶は、あのホルスタインだけど。


「まあ、美帆は昔からモテるし、友達も多いから、俺よりも人生経験豊富だよな」


「あんたも良い人生経験しているでしょ?」


 あのホルスタインと。


「えっ?」


「……このあたしと一緒にいることが」


「そ、そうだな」


「ハッキリ肯定しなさい」


「怒るなよ、せっかくのデートなんだから」


「ふぅ~ん、ちゃんとデートの自覚あるんだ」


「お前が言ったんだろうが」


「言っておくけど、本来ならあんたみたいな冴えない陰キャが、あたしみたいなモテモテ陽キャちゃんとデートできるなんて、ありえないんだからね」


「そうですね」


「このあたし様と幼なじみであることに、感謝しなさい」


 あたしは、このバカに、あたしという存在を刻み、すりこむために、言ってのける。


 けれども、目の前のバカは、どこかうわの空だ。


 この野郎……


「ちょっと、聞いているの?」


「えっ? あ、ああ、聞いているよ」


「まったく、ダメなやつね」


 こいつ、もしかして……いま、あのホルスタインのこと思いやがったな?


 ちくしょう、マジでムカつく……いやいや、落ち着け。


 気を取り直す!


「あ、美味しそうなクレープ屋さんがある」


「食べるか?」


「ううん、食べない。言ったでしょ、この後ブランチだって」


「ああ、うん。でも、女子にとってスイーツって別腹って言うし、何だかんだ女子って食べるイメージだから」


「だって、いくら食べたって、あたしは……」


 ちょい、だから、落ち込むなって。


 太陽の申し子であるはずのこのあたし様が……


「美帆、大丈夫か?」


「……あんたってバカだけど、ひどいやつじゃないよね」


「何だよ、いきなり」


「だから、女の価値を、乳のデカさだけで判断しないでしょ?」


 そう、あのホルスタインは、所詮は乳だけの女。


 あたしの方が、何倍も魅力的で……


 ギンッ!


 ……んっ?


 あれ、気のせいかな?


 バカの股間が、急に膨らんだんだけど。


 こいつ、まさか……


「……死ね」


「へっ?」


「この下半身野郎が」


 自然と恨み節がこぼれてしまう。


「お、お前の方が、よっぽどひどいやつだろ」


 うるせぇ。


「一平、そんなんじゃ女にモテないわよ?」


「…………」


 ふん、真に受けちゃって。


「はい、また暗い顔になってる~」


「お前のせいだろうが。何でそんなに俺のことをいじめるんだよ」


「んっ? 快楽だから?」


「疑問形で鬼畜さを誤魔化すなよ」


「鬼畜なのはあんたよ」


「ど、どこがだよ」


「だって、あんた……ううん、何でもない」


 あたしは苦笑する。


 だって、それくらい、パンツの上からでも……分かっちゃうから。


 こいつのアレのデカさ……


 アレで、あのホルスタインをヒーヒー言わせていたんだよね……


 やばっ、油断すると吐きそっ。


「……今の内に手ぶらさんぽを楽しみなさい」


「えっ?」


「ブランチを終えた午後からは、あたし様のショッピングにたっぷり付き合ってもらうから」


「おい、それって……荷物持ち?」


「イエス♪」


「お前……やっぱり、ひどやつつだわ」


「あんたほどじゃないよ♪」


 もし次に、あたし以外の女にそのデッカいの入れたら……


 ぶち殺す♪







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