第15話 怖い笑顔

 俺ぐらいの歳頃なら、女の子とデートするってだけで、ウキウキ、ワクワクが止まらないものだと思う。


 けど、それなりにオシャレな服に袖を通す俺の顔は、ひどく冴えない。


 せめてもの救いは、我が家のハイスペ陽キャ性欲モンスターが、午前様の社畜をさらって朝からラブホにGOして不在ということだけ。


 これから、陽キャに会うのに、成分過剰摂取で倒れちゃうから。


「はぁ~……」


 俺はため息まじりに家を出た。


「ちょっと、朝から冴えないツラね」


 すると、すぐそこに立つ女がいた。


 腕組みをして、相変わらずの偉そうな目つき。


「美帆……いつの間に」


「……60点」


「えっ?」


「いま目の前にいるあんたの総合点数」


「ふ、服ダサかった?」


「服はまあまあ、80点。けど、その陰気さでマイナス20点」


「……ごめん」


「まあ、良いわ。あたしが120点の美少女さまだから、ちょうど中和されるっしょ」


「さすが、だな」


「ふふん、ついてらっしゃい」


 揺れる彼女のショートヘアを追う。


 確かに、空はデート日和で晴れているから、余計に俺の陰気さが目立つな。


 せっかく、幼なじみが誘ってくれた訳だし。


 少しは、元気を出しますか。


「で、今日はどこに行くんだ?」


「街ブランチ」


「んっ? 何それ、ギャル語?」


「あんた、ブランチって知らないの? 朝昼を兼ねたごはんのこと。適当に街ブラしてお腹を空かせてからいただくの」


「ああ、なるほど……お前、意外と頭が良いんだな」


「失礼ね、あたしだって勉強しているんだから」


「そうなのか? じゃあ、今度のテストも余裕か?」


「ガッコの勉強じゃなくて……人生の」


 振り向いた美帆の表情に、少し切なげな陰が見えたのは気のせいだろうか?


「まあ、美帆は昔からモテるし、友達も多いから、俺よりも人生経験豊富だよな」


「あんたも良い人生経験しているでしょ?」


「えっ?」


「……このあたしと一緒にいることが」


「そ、そうだな」


「ハッキリ肯定しなさい」


「怒るなよ、せっかくのデートなんだから」


「ふぅ~ん、ちゃんとデートの自覚あるんだ」


「お前が言ったんだろうが」


「言っておくけど、本来ならあんたみたいな冴えない陰キャが、あたしみたいなモテモテ陽キャちゃんとデートできるなんて、ありえないんだからね」


「そうですね」


「このあたし様と幼なじみであることに、感謝しなさい」


 目の前で自信たっぷりに言う美帆を見て、俺はふと悠奈はるなさんの顔が浮かぶ。


 悠奈さんが、美帆の母親だったおかげで……いや、ダメだ。


「ちょっと、聞いているの?」


「えっ? あ、ああ、聞いているよ」


「まったく、ダメなやつね」


 こいつ、本当に俺のことが好きなのかよ?


 なんか、それ自体が嘘で、ドッキリなんじゃないかと思える辛辣さだ。


「あ、美味しそうなクレープ屋さんがある」


 街に来ると、美帆が言う。


「食べるか?」


「ううん、食べない。言ったでしょ、この後ブランチだって」


「ああ、うん。でも、女子にとってスイーツって別腹って言うし、何だかんだ女子って食べるイメージだから」


「だって、いくら食べたって、あたしは……」


 そこで、美帆は顔をうつむけて押し黙った。


「美帆、大丈夫か?」


「……あんたってバカだけど、ひどいやつじゃないよね」


「何だよ、いきなり」


「だから、女の価値を、乳のデカさだけで判断しないでしょ?」


 乳のデカさ……


『いっくん、しゅきっ♡』


 ばくぎゅっ♡


 ギンッ!


「……死ね」


「へっ?」


「この下半身野郎が」


「お、お前の方が、よっぽどひどいやつだろ」


「一平、そんなんじゃ女にモテないわよ?」


「…………」


 確かに、俺は所詮、フラれた男だけども……


「はい、また暗い顔になってる~」


「お前のせいだろうが。何でそんなに俺のことをいじめるんだよ」


「んっ? 快楽だから?」


「疑問形で鬼畜さを誤魔化すなよ」


「鬼畜なのはあんたよ」


「ど、どこがだよ」


「だって、あんた……ううん、何でもない」


 美帆は苦笑する。


「今の内に手ぶらさんぽを楽しみなさい」


「えっ?」


「ブランチを終えた午後からは、あたし様のショッピングにたっぷり付き合ってもらうから」


「おい、それって……荷物持ち?」


「イエス♪」


「お前……やっぱり、ひどいやつだわ」


「あんたほどじゃないよ♪」


 もう、この幼なじみの笑顔が怖いです。







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