◆悠奈さん視点 悶々びより

 私、白井悠奈しらいはるな、4◯歳。


 どこにでもいる、アラフォー主婦。


 ただし、バツイチ。


 そして、少し前まで、彼氏がいた。


 娘の幼なじみの、柴田一平しばたいっぺいくん。


 元夫の浮気が原因で離婚した直後は、男なんてもうコリゴリで、別に悶々とすることもなかった。


 そんなヒマもなかった。


 まだ幼かった娘と2人暮らしで、慣れないことばかりで。


 けど、おとなりの柴田さん一家が、支えてくれて。


 いっくんは、昔から可愛くて。


 でも、だんだんと彼が大人になるにつれて、忘れかけていた、女としての疼きを思い出した。


 彼が高校生になったくらいだろうか?


 本当に久しぶりに、その……自慰行為をしてしまった。


 本当に最低だと思う。


 いい歳したアラフォー女が、高校男子を相手に。


 しかも、娘の幼なじみの……いっくんのことを想ってだなんて。


 だから、彼が高2のあの夏、私はあんな提案をしてしまったのだ。


 結果として、彼も本気で私のことを好きになってくれて……


 女として、とても満たされる日々を過ごして来た。


 けど、それも終わってしまった。


 だって、仕方がない。


 やはり、罪なことだから。


 あの夏からの恋物語は、誰にも内緒の思い出。


 そう割り切って、日々を過ごして行くしかないのに……


「……はぁ、はぁ、はぁ」


 私はまた久しぶりに、自慰行為にふけっていた。


 いっくんとお付き合いしてからは、そんなすることもなかったのに。


「いっくん……いっくん……」


 今日もパート中、ずっとムラムラしていた。


 着替えの時、パンティーが濡れているのを見られないか、ひどく焦った。


 そして、帰宅してすぐにコレである。


 ああ、情けない、恥ずかしい、アラフォー女だわ。


 でも、止まらない。


 今でも愛してやまない、彼のことを想うと……


「んくッ……」


 いっくんの……元カレのことを想って……


「……はうッ」


 ……達してしまった。


 束の間の幸福感の後、すぐ罪悪感が訪れる。


「はぁ……」


 そういえば、美帆の元カレの、野中くん。


 あの時、一瞬、私のことを嫌らしい目で見た気がしたけど……気のせいだったみたいね。


 こんなアラフォーおばさん、モテる彼が本気にする訳もないか。


 もちろん、それで構わない。


 申し訳ないけど、全然タイプじゃないから。


 娘と私は母娘おやこだけど、正反対だし。


 美帆はあの人似だから……やめましょう。


 でも、美帆は本当は……いっくんのことが好きだったのよね。


 じゃあ、その点は……母娘で共通ね。


「……もう1回だけ」


 通販で購入したコレ、すごい振動で刺激だけど……


 やっぱり、本物のいっくんには……及ばない。


 でも、仕方がない。


 これが、みじめなアラフォー女の末路なのだから……


「……あっ、いっくん」


「たっだいま~!」


「ひゃわわ!?」


 玄関先で突如として響いた声に、ビクッとした。


「ママ~、いる~?」


 娘の声に、私は慌ててズボンを履き直す。


「い、いるわよ~」


 ガチャリ。


「んっ、どしたの? 何か顔あかくない?」


「そ、そんなことは……」


「まあ、良いや。てか、あたし今度の週末、予定入ったから」


「予定? 何かしら?」


「一平とデートすんの」


「えっ……」


「ハァ~、楽しみだな~」あいつを、このあたし様の魅力でメロメロにして振り回すのが」


「……あ、あまり、いっくんをイジめちゃダメよ」


「大丈夫だよ、あいつドMのザコ陰キャだから」


「そんなことないわ」


「えっ?」


「あっ……な、何でもないの」


「そっか」


「美帆、おやつ食べる?」


「ううん、良い。あたしは、どうせママみたいになれないから」


「えっ?」


「トコトン絞って……ママにはない魅力を持つ、イイ女になるからさ」


 この時、娘は笑いつつも、背後に鬼が見えた……気がした。


「ママも、調子に乗って食べ過ぎて、ホルスタイン化が進んじゃダメだよ?」


「ホ、ホルッ……」


彩乃あやのおばさんに言われたでしょ?」


「は、母親になんてことを言うのよ」


「母親……ねぇ」


「み、美帆?」


「……自分ばっかり、たっぷり栄養つけちゃって」


「えっ、なに?」


「何でもないよ、グラマーマ♪」


 美帆はニコリと笑って言う。


 でも、私はその笑顔を、言葉を、素直に受け止められない。


「シャープな美帆ちゃんは、お2階に上がりまーす♪」


 陽気な娘は、階段を軽やかに駆け上がって行く。


 そして、陰気な私は、その場に残された。







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