◆悠奈さん視点 圧倒的な女(メス)

 昨晩から、眠れなかった。


 今日はデートだから。


 娘と元カレが。


 タンタンと軽やかに階段を下りる音。


「あれ、ママ。今朝はのんびりさんだね?」


「えっ? ああ、今日は……パートがお休みなの」


 休日のスーパーは忙しいから、本当は出勤するべきなんだけど。


 やっぱり、どうしても……ダメな女ね。


「そうなんだ。じゃあ、ゆっくり休んでね。あたしは、これから冴えないバカ幼なじみとデート、して来るから」


 デート、を強調して言われた気がする。


 被害妄想かしら……


 美帆はワガママだけど、そんなひどい子じゃないし。


 というか、美帆はそんな私といっくんの関係を知らないから、嫌味もへったくれもないわよね……


「ええ、いってらっしゃい」


 私は精一杯の笑顔を浮かべる。


「じゃあ、行って来るね。気が向いたら、何かおみやげ買って来るから」


「ありがとう、楽しんで来てね」


 偽りの笑顔を張り付けたまま。


 私って、ひどい女の。


 せっかく、娘がようやく幸せになれるのに。


 どうして、嫌な感情が……


「行って来ます♪」


「いってらっしゃい」


 娘は家を出て行く。


 ひとり、ポツンと残された私は、しばし呆然とソファーに佇んでいた。


 いっくんとデート、良いな。


 デート、で終わるのかしら?


 高校生の、若い男女。


 思春期まっさかり。


 元々は、思い合っていた2人。


 もしかしたら……


『一平の、すっごっ! 秀太くんよりも、おっきいぃ~!』


 ……ダ、ダメよ、そんな。


 娘と元カレの……いっくんの情事を想像、妄想してだなんて。


 私って、最低の女だわ。


 分かっているけど……


「……あうッ!」


 ……やってしまった。


 その妄想をオカズに。


 5分ほどで。


 いっくん、ひどいわ。


 私をこんな嫌らしい女にしておきながら……


 ……って、ひどいのは、私の方。


 私の方から、別れを告げておきながら。


 そもそも、高校生、しかも娘の幼なじみにあんな提案をした夏。


 あそこから、全てが狂ってしまったのだ。


 だから、そろそろ正常化しないといけない。


「はうッ!」


 ……分かっている。


 けれども、止まらない。


「いっくん……いっくぅ~ん!」


 彼のことを想うと、止まらない。


 ソファーの上で、何度も果ててしまった。


 本当に、嫌らしくて、みじめなアラフォー女ね。


 このまま、ひとりさみしく、慰める日々が延々と続くのかしら……


悠奈はるなさん』


 ……ああ、いっくん。


 私は、やっぱり、あなたのことが……


 本当なら、シャワーを浴びるべきだろう。


 けれども、そんな暇も惜しく、さっと身支度を整える。


 私は家を出た。


 まだ、そう遠くには行っていないはず。


 つば広の帽子を深めにかぶり、普段はしないサングラスまでして。


 これって、ストーカー……いえ、尾行よ。


 娘と彼が、ちゃんと健全なデートをしているか、保護者として確かめないと。


 もはや、言っていることはメチャクチャだ。


 正直、今の私は母親ではない。


 ただ、未練たらしく、別れた愛しい男を求める。


 ただの、嫌らしいメスだ。







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