第7話 美味いモノ

 今の俺は矛盾を抱えている。


 下はスッキリしているのに、上はぼんやりしている。


 そんな調子だから、授業中もずっとボケッとしていて。


 気付けば、昼休みのチャイムが鳴っていた。


「……購買でも行くか」


 うちの母さんは基本的に弁当を作らない。


 今日は悠奈はるなさんのお弁当もないし。


 来る途中でコンビニにも寄らなかったから。


 仕方なく。


 でも、昼休みの購買は戦争だからな。


 俺みたいな陰キャ寄りの男は、ロクに良いパンも買えないだろう。


 悠奈さんとお付き合いするようになって、少しはマシになったかもしれないけど。


 まあ、適当に腹を満たせるなら、あんぱんでもコッペパンでも、何でもいいや。


「あれ、柴田じゃん」


 と、陽気な声に呼ばれて振り向くと、まさしく陽キャがいた。


「あぁ、野中のなか


「どした、ボケッとして? エロいことでも考えてんのか?」


「いや、それは……」


「ていうか、エロいことしちゃった?」


「う、うるさいなぁ」


「ハハ」


「ていうか、その紙袋は……」


「ああ、購買の戦利品」


「さすが、陽キャは違うな」


「それほどでもねーよ。そうだ、彼女の幼馴染のよしみで、くれてやるよ」


「えっ、良いのか? じゃあ、お金を……」


「良いって、良いって。今日のところはオレのおごりだ」


「いや、でも……」


「まあその内、お代はいただくからさ」


 と、ウィンク交じりに言われる。


 こいつ男子に対してもこんなことするなんて、マジ陽キャだな。


 別にこう鳴りたいとは思わないけど……


「てか、美帆のやつ今日休みだよな」


「えっ? ああ、うん。何か食い過ぎで吐き気と腹痛らしいよ」


「珍しいな。あいつ、スレンダーだけど、よく食べるし今までそんなことなかったのに」


「確かに……そうだな」


「おっ、幼なじみとしても、何か気になるか?」


「まあ、そりゃ……あんな生意気なやつでも、心配はするさ」


「ふぅ~ん? じゃあさ、今日の放課後、一緒にお見舞いに行こうぜ?」


「えっ、お見舞い? 美帆の?」


「そっ、良いだろ?」


「まあ、それは……あいつも喜ぶだろうし。彼氏がわざわざお見舞いに来てくれるだなんて」


「じゃあ、決まりだな」


「ていうか、部活は?」


「ああ、それを口実に、サボる」


「いや、彼女をお見舞いするって理由でサボれるの?」


「もちろん、そのまま言うつもりはないよ。身内が病気しているから、そのお見舞い&看病って言えば楽勝だろ」


「なるほど……」


「じゃあ、またな」


 野中はスタコラと2年3組の教室へと駆けて行く。


 途中、陽キャ仲間たちと絡みながら教室に入って行った。


 俺は今さら、受け取ったパンに目を落とす。


「あっ、メロンパン……」


 購買の人気商品の1つだ。


 俺は教室に入り、自分の席に座って、それを割る。


 中には生クリームが入っていた。


 それを見ていると、俺は思わず、今朝の光景がフラッシュバックしてしまう。


 悠奈さん、俺のをぜんぶ……


「……って、俺はバカか」


 とついに声が出ると、近くの女子が「はっ?」みたいな顔をしたので、ひどく焦った。


 俺は誤魔化すようにメロンパンを頬張る。


「……うまっ」


 陽キャって、いつもこんな美味いモノを食べているんだな。


 そう考えると、さすがにちょっと嫉妬してしまう。


 けど、良いんだ。


 だって、俺には何よりも素晴らしい、悠奈はるなさんがいてくれるんだから。







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