第6話 激萎えからの……

「グッモーニン、マイサン♪」


 朝、眠気まなこをこする俺に対し、しごく陽気に言うのは母さんだ。


 そのお肌やツヤッツヤのピカッピカである。


 女って、アレをすると本当に……


「あれ、雄二ゆうじさんは?」


「もう、仕事に行ったよ」


「やだ、そんなに早く? もう、本当に社畜なんだからぁ~。まあ、そういうところも可愛いんだけどね♪」


「歪んだ趣味だな……」


「えっ、何て?」


「いえ、何も」


「ていうか、あんたは若いくせに、朝から元気ないわね~。もっと、シャキッとしなさいよ」


「……誰のせいだと思ってんだよ」


「えっ、何て?」


「いえ、何も」


「あっ、私もそろそろ行くわ」


「朝メシは?」


「行きつけの喫茶店で、優雅にモーニングを決めるわ。じゃねっ♪」


 どこまでも我が道を行く陽気な母親はリビングを後にする。


「はぁ~……」


 マジで誰かさんと似ているわぁ。


 髪型も同じショートヘアだし、全く……


 ピンポーン♪


 ……って、噂をすれば、まさか。


 俺は心底シカトした気持ちになるけど、そうすると後がより面倒だから……


「あー、もう」


 まだ寝グセが残る髪をクシャクシャと掻きながら、しぶしぶ玄関ドアを開く。


「何だよ、美帆。俺ちょっと、今朝はしんどくて……」


「……あっ、いっくん。おはよう」


「……って、悠奈はるなさん!?」


 詰まっていた喉が一気に開けた。


「ごめんね、こんな朝早くに。迷惑だったかしら?」


「い、いえ、そんな……どうしました?」


「あのね、実は今朝、美帆の体調が悪くて……」


「えっ、マジですか? 珍しい……って、ごめんなさい」


「ううん。ほら、きのうお鍋をたくさん食べて、その上デザートにプリンを3つも食べたの」


「それは食べ過ぎ……ですね」


「ええ。そのせいで、今朝から腹痛と吐き気がちょっとひどいみたいで……」


「そうですか……」


「もう学校の先生には連絡してあるけど、念のためにいっくんにも」


「そうですね……何だかんだ幼なじみとして心配です」


「うふ、ありがとう」


 悠奈さんの笑顔を見ると、それだけで疲れが吹き飛ぶようだ。


 今朝の倦怠感、憂鬱感がまるで嘘のように。


 その時、悠奈さんの視線がふいに下がって、何やら目を丸くしていた。


 俺もふと、視線を下ろして見ると……


「……あっ」


 股間がモッコリしていた。


 自分でもビックリするくらい、膨らんで。


 エロマンガの主人公かよって言うくらいに。


「す、すみません、コレは……」


 俺は慌てて両手でマッスルテントさんを隠す。


「し、仕方ないわよ、生理現象でしょうし……」


「……実はきのう、家に帰ったら、母さんが父さんを襲って……そのまま、ずっと……その……」


「あ、ああ……」


「で、さっきまでずっと、萎えていたはずなんですけど……悠奈さんの笑顔を見たら、なんだか……」


「じゃあ、いっくんのソレは……私の責任ってことよね?」


「いや、そんな悠奈さんのせいだなんて……」


「ねえ、いっくん。学校に行くまで、もう少し時間はあるわよね?」


「ま、まあ……」


「じゃあ、その……私に責任を取らせてくれる?」


「へっ?」


 目をパチクリとさせる俺の目の前で、悠奈さんは後ろ手を組んでモジモジとしている。


「えっと、その……お口とお胸……どっちが良いかしら?」


 今朝は晴天にも関わらず、雷が落ちた。


 俺の脳天に。


 思考回路が瞬時にショートする。


「い、いっくん?」


 けど、すぐに再起動した。


「……すみません、やっぱりちょっと、時間が危なくて」


「あっ……そ、そうよね。ごめんなさい、ついはしたないことを……」


「だから、その……両方でお願いします」


「へっ?」


 今度は、悠奈さんが目をパチクリとさせる。


 けど、俺がジッと見つめていると、また優しく微笑んでくれた。


 でも、先ほどよりも、口元に色気が漂う。


「……ちょっと、お邪魔しても良いかしら?」


「ええ、どうぞ……」


 俺は両親が出かけた自宅内をキョロキョロと見渡し、リビングの扉を閉めた。







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