第5話 母親ってすごい(エロBBA)

「ふぅ~、食べた、食べた。もう、お腹がぽんぽこりんだよ~」


 と、美帆はお腹を撫でながら言う。


「ママ~、食後のデザート!」


「冷蔵庫にプリンがあるわよ」


「持って来て」


「自分で行きなさい」


「ちぇっ」


 こいつは本当にワガママだなぁ……


「いっくんも、プリンいる?」


「あ、いえ……俺はもう、帰ります」


「そう……じゃあ、お見送りするわね」


 俺は頷く。


「あれ、一平もう帰んの?」


「ああ、じゃあな」


「てか、いつもあたしん家でごはん食べてばかりなんだから、たまには恩返ししろ」


「ああ、そうだな。いつも美味しいごはんを作ってくれる、おばさんに対して」


「あたし様にもだよ、バカ!」


 誰が様だよ、ボケ。


 これ以上、あのワガママすぎる幼なじみと絡みたくないので、俺はサッと廊下に出た。


 玄関先にて、靴を穿き替える。


「いっくん」


「……悠奈はるなさん」


 気付けば俺たちは見つめ合う。


「今日は美帆が色々と、ごめんね」


「いえ、そんな……悠奈さんがいてくれれば、問題ないです」


「ふふ」


「今日も、ごちそうさまでした。あの、このお礼は……」


 その時、ふっと間近で、良い匂いがした。


 柔らかく、しっとりと、唇が覆われる。


 束の間、俺は全神経を唇に吸われるようだった。


 けどそれは決して、俺の魂を搾り取るような、悪質なモノではない。


 ただひたすらに、優しく、温かく、身を委ねたい存在。


 やがて、スッと離れる。


「……また、ね」


「……はい」


 お互いにぎこちなく微笑みつつも、確かに想いが繋がっていることを感じていた。


「おやすみなさい、悠奈さん」


「おやすみ、いっくん」


 そして、俺は白井しらい家を後にする。


 我が家はすぐとなりだから、徒歩数十秒でたどりつく。


 カギで玄関ドアを開けた。


「ただいま~……んっ?」


 ヒールがある。


 母さんのモノだ。


 どうやら、帰宅しているらしい。


 割と珍しいな。


 バリキャリでシゴデキな母さんは、遅くまで仕事だったり、会食をして来るのに。


 リビングには灯りがついている。


 俺はそのドアを開いた。


「ただいま……」


 そこには、スーツ姿のまま、ソファーにもたれる母親がいた。


「おっ、帰って来たか、息子くん」


 その手には缶ビールが握られている。


「珍しいね、この時間に帰っているなんて」


「まあ、帰ろうと思えば、いつもこれくらいに帰られるから。あたし、仕事デキるし、残業せずともイケちゃう口だから、お父さんと違って(笑)」


 確かに、父さんは典型的な社畜だからな……


「ていうか、また白井家にで晩ごはん食べたの?」


「うん、まあ」


「ホント、あんたって、悠奈さんのこと好きよね~」


 ギクリ!


「まあ、あたしも大概イイ女だけど、下手すりゃそれ以上だからねぇ~。男好きするって言うかさ~、爆乳だし」


「べ、別に俺は、は……おばさんのことを、そんな風には……」


「嫌ね、冗談よ、マジに取らないでちょうだい」


「……ああ」


「でも、ちょっとは憧れるでしょ? ていうか、だからあんた、高校生にもなって彼女の1人もいないんでしょ~? 全く、ある意味で不幸ね~」


「よ、余計なお世話だよ。俺だって……」


「俺だって、何?」


「いや……」


「もしかして、彼女できたの?」


「…………」


「沈黙は肯定と受け取るけど?」


「……母さん、ちょっと酔っているんじゃない?」


「そんなことないわよ、これしきのお酒で」


「じゃあ、早口ことば言ってみてよ」


「良いわよ。なまむぎ、なまごめ、なまたまぎょッ!」


「噛んだし」


「い、いた~い、ふえ~ん」


 この人、本当にシゴデキのバリキャリなのかよ……


「……ただいま~」


 と、玄関先から、いかにもフラフラな声が聞こえて来た。


「あ、雄二ゆうじさんキタ!」


 良い歳した泣きべそかいていた母親が立ち上がり、ダッと迎え撃つ。


「トリャッ!」


「ゲフッ!? あ、彩乃さん?」


「ねぇ~、雄二きゅ~ん、久しぶりに……ねッ?」


「ひ、久しぶりにって、きのうホテルでシたばかりじゃないか……僕が残業でヘトヘトだったのに」


「えへへ、おかげで元気でたでしょ?」


「いや、でもやっぱり、お互いにもう歳だし……」


「ほら、レッツゴー! 久しぶりに、お家でおせっせよ~!」


「い、一平がいるんだけど……」


「大丈夫、大丈夫。一平だってもう、子供じゃないんだし、ねっ?」


 ねっ、じゃねーよ、エロBBA


「ほらほら、早く行くわよ~!」


「あ、明日も朝が早くて……」


 そんな父さんの訴えなど、聞き入れてもらえるはずもなく。


 ほどなくして……良い歳した女の声と、ベッドの軋む音が聞こえて来た。


「……マジかよ」


 そう言えば、母さんが言っていたっけ。


 父さんは、会社の後輩で、本当に冴えない仕事が出来ないくんだけど。


 セックスがすごくて、落とされちゃったって……


「あああああああああああぁん! 雄二くううううううううううううぅん!」


 普段は妻として、一応は夫を立てる意味でも『さん』づけだけど、こういう時は『くん』づけに戻るんだな……って、言っている場合か。


「……はぁ~」


 とりあえず、俺はテレビの音量をマックスにした。







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