第4話 辛み好き(デンジャラス)

「はふっ、はふっ……」


 としながら、ズゾゾ、モグモグ、と。


「……う~ん、おいちい♪」


「女子って、辛いの好きだよな」


「まあね~。ほら、美容にも良いし。どうしよう、これ以上プリチーになったら♪」


「はいはい、そうだね」


「ハァ~? 一平の分際でクソほどムカつくんですけどぉ~?」


「悪かったって」


「あまり調子に乗ると、この辛いスープ目にかけるよ」


「お前、こわっ」


「こら、美帆。やめなさい」


「何よ、ママってば。一平にだけ優しくしちゃってさ~」


「そ、そんなことないわよ。あなたがいつもワガママなこと言って、いっくんを困らせるのがいけないんでしょ?」


「ちっ、ワガママなのは、ママのカラダでしょうが。このドスケベボディが」


「ちょっと、母親に対して何てことを言うのよ」


「でもママってほんとドスケベボディだけど、純情だからさぁ。経験人数はさほど無いでしょ?」


「なっ……」


「ちなみに、何人? まさか、今は亡きパパとだけ?」


「あの人は死んでいないわよ……」


「で、何人? 後学のために、聞かせてよ」


「この子は、母親に対して何て質問を……」


 と言いつつ、悠奈はるなさんはチラッと、俺の方に目を向けた。


 俺はドキッとしてしまう。


「……1人よ」


 と答える。


「なぁんだ、やっぱりパパだけか~、もったいな。あたしがママなら、余裕で3ケタ行くけど?」


「あなたの将来が心配だわ……まさか、今の段階で……」


「いや、あたしこう見えて、処女だから♡」


 と、可愛い子ぶって言うけど、ぜんぜん説得力がない。


 お前はどうせ、野中とヤリまくりだろうが……


「そういうことをするな、とは言わないけど……避妊だけはしっかりとしなさい」


「ママもね」


「な、何で私が……」


「だって、ママってこんなに魅力的だからさ。新しい彼氏なんて、すぐ出来るでしょ? 何なら、現在進行形でいるんじゃない?」


 美帆は相変わらず、こちらを弄ぶように、ニコニコと笑っている。


 悠奈さんは、ひどく赤面していた。


「…………」


「黙秘は肯定と受け止めるから」


「……美帆、お願い。少し黙って食べてちょうだい」


「はいはい、分かりましたよ~」


 と、言う。


「てか、一平はどうなの?」


「はっ?」


「いい加減、彼女とか出来た?www」


「いや、俺は……」


「まあ、出来っ子ないか。永遠のチェリーボーイだもんね」


 飛び切りの笑顔で言われる。


 悠奈さんとの関係を疑われるよりマシだけど……さすがに腹が立つな。


「……お、俺だって」


「おっ?」


「ちょ、ちょっとくらい、そういった経験は……」


「えっ、何それ、マジで?」


「あ、いや、その……」


「ねえ、相手は誰よ? あたしより可愛い? てか美人? スタイルは? 巨乳? 爆乳?」


 美帆は前のめりになって、質問の連打をして来る。


「お、落ち着けって。鍋がこぼれるだろうが」


「ケケケ、正直に話さないと、お前を血染めにしてくれる」


「だから、怖いって」


「で、ぶっちゃけ、どうなの? ちょっとくらいって、どれくらい?」


「そ、それは、その……」


 お我は思わず、悠奈さんにチラと目を向けてしまう。


 悠奈さんは頬を赤らめたまま、同じように俺を見た。


「……ああ、なるほどね~」


 美帆が何やら頷く。


「一平の相手って……ママでしょ?」


「「…………えっ?」」


 俺と悠奈さんは、同時に動揺が走った。


「一平、正直に言いなよ」


「い、いやいや、俺は、そんな……」


「いつもママでシコってんでしょ?」


「……はっ?」


「ねぇ、ママ、どう思う? 近所の冴えないモテない童貞くんが、自分のことをオカズにしているっていうのは。しかも、まだチ◯毛も生えていない頃から知っているやつだよ?」


「お、おい、美帆、お前は……」


「……私は」


「うん?」


「いっくんなら……許せるわ」


「は……おばさん」


「ほぉ~ん? これはまた……ドスケベ発言だねぇ~?」


「だって仕方ないでしょ。思春期の男の子だもの……妄想でオカズにされるくらいなら……仕方ないわよ」


「なるほど、モテない内は自分を妄想のオカズにさせて……いずれは、ちゃんと同年代の若い女と結ばれなさいと、そういうことね?」


「…………」


「ママ?」


「……ええ、もちろん、そうよ」


「だってさ、一平。分かった~?」


「…………」


「ちょっと、返事は?」


「……分かっているよ」


「てか、オカズにするなら、あたしにしなさいよ。ママみたいな豊満ボディも良いけど、若いスレンダーさも魅力的でしょ~?」


 と、美帆は座ったまま両手を組んで背伸びをし、そのボディラインをアピールして来る。


 確かに、魅力的じゃないと言えば、嘘になるけど……


「……悪い、遠慮しておくわ」


「って、何でやねん!」


 ベシッと、関西人ばりのツッコミを食らう。


「いてっ!」


「はぁ~、一平がマジでムカつくから、余計に食べ過ぎちゃうわ~」


「俺のせいにするなよ」


「何か言った?」


「……いえ、何も」


 本当に、ワガママなやつ。


 俺はうんざりしつつ、またふと、悠奈さんと目が合う。


 その目は申し訳なさそうに、俺のことを見つめていた。


 だから、悠奈さんは悪くないですよと、微笑んであげる。


 すると、彼女もまた、優しく微笑んでくれた。







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