◆とあるカップルの真実
あたしにはずっと、好きな人がいる。
小さい頃から、ずっと一緒だった。
『もぅ~、いっぺいってば~! はやく、はやくぅ~!』
『ま、まってよ、みほちゃ~ん!』
ドジで、グズで、ノロマで。
『あんたってホント、あたしがいないと何もできないわね!』
『ご、ごめん……でも、おれだって……』
『おれだって……なに?』
『そのうち……みほちゃんを守れるくらい、つよいオトコになるから』
『……ふ、ふん。せいぜい、期待しないでまっておくわ』
その後も、あいつがあたしを守れるくらい、強い男になることはなかった。
いつまで経っても、ダメなやつ。
でも、それでも……
「ちっ、こいつまた、リア充アピールしてやがる」
同級生のSNSを見て、あたしはつい毒を吐いてしまう。
「はぁ~、あたしも彼氏が欲しいな~」
自分で言うのもなんだけど、すごく可愛い見た目をしているから。
今まで、何人もの男に告られて来た。
だから、彼氏を作ろうと思えば、いくらでも作れる。
けれども……浮かぶのは、あいつの顔。
あいつのせいで、あたしは……
「……いっそ、自分から告る?」
想像してみる。
すごくプライドに障った。
ダメダメ、あいつに告白させないと。
そもそも、そういうのって、男からするものでしょ?
ていうか、あいつだって、あたしのこと……好きだよね?
だって、あたしのことを見る目、ちょっと変わっているし。
小さいころとは違うし。
確実に、女として意識している。
まあ、ママに対しても、エロい目を向けているけど。
主にあのデカ乳に対して……
ふん、良いもん。
どうやら、あたしはパパ似だから、あのドスケベボディは遺伝しなかったけど。
それでもスレンダー美女ですから。
この弾ける若さと愛らしさで、一平を確実に落としてやるんだから。
って、名前いっちゃったし……
「……一平のやつめ」
あまりにも腹が立つから、しばらく枕を殴り続けた。
◇
もう、2年生か。
来年は受験だし、遊べるのは今年の内だけ。
そして、気付けばもう、夏が目の前に迫っている。
やばい、あたしもさっさと彼氏を作って、遊びまくらないと。
何度も言うけど、超かわいいあたしが彼氏を作るなんて、超イージーモード。
けど、どこかのうすらにぶちん童貞クソ野郎がいつまでもチンタラしているから、このあたしが渇きっぱなしなのだ。
まあ、昨晩はちょっと、ベッドの上で……って、言わせるな!
「なぁ、白井」
「えっ?」
振り向くと、そこにはイケメンがいた。
「ああ、野中くん? どうしたの?」
クラスメイトの彼は、イケメンでサッカー部で、まあモテる。
まあ、クソチャラ男らしいけどねwww
「ちょっと、良いか?」
「えぇ~? う~ん……分かった」
正直かったるいけど、あたしは席から立ち上がる。
そのまま、彼と一緒に教室を出て、人気のない場所に来た。
「悪いな、わざわざ」
「てか、告白じゃないっしょ? せいぜい、セ◯レの誘い?」
「お前、バカそうに見えて、意外と賢いよな」
「あ?」
「冗談だよ」
野中は苦笑する。
「で、用件は?」
「ああ。この前さ、授業参観があっただろ?」
「えっ? ああ、そうだね」
あの時は、案の定というか……うちのママに対して、オスガキどもが発情しまくってクソウザかった。
「お前のママさん、めっちゃ良いオンナだよな」
「それはどうも」
「ほら、オレってさ、モテるじゃん」
「ウザw」
「でさ、もう色んな女は抱いて来たんだけどさ……そっちの扉はまだ開いていないんだよ」
「トビラ?」
「そっ……ほら、今って熟女ブームじゃん?」
「……キモ」
「本当にキモそうな顔をするな」
「いや、マジでキモいじゃん。うちのママ、アラフォーのおばさんですけど?」
「良いじゃん、最高だよ。てか、アレは20代でも通用するだろ」
「……まあね」
「で、ぶっちゃけ言うと、お前のママさんをセ◯レにしたいんだけど、協力してくれないか?」
「はぁ~? あんた、本気で言っているの?」
「もちろん、タダとは言わない。オレも何か、お前に協力できることがあれば、するぜ?」
「協力って……」
そこで、あたしはハッと閃いてしまう。
こいつのことをディスっておきながら、我ながら悪魔的なアイディアが……
「……ハッパかけたい男がいんの」
「んっ?」
「そいつ、たぶんあたしのこと好きなんだけど……クソザコだから、なかなか告って来なくて」
「じゃあ、お前からしてやれよ」
「やだ、プライドが許さない」
「ダルw」
野中は笑う。
「ははぁん、なるほどね~……」
そして、少し考える素振りをしてから、
「……うん、良いぜ。じゃあ、オレらが付き合っていることにしよっか」
「はぁ? 何であたしがあんたみたいなキモチャラ男と?」
「てか、白井って見た目ギャルなのに、チャラい男嫌いだよな? それも、その好きなやつの影響?」
「……黙れし」
「まあ、良いけど。オレはあのドスケベ女さえ抱ければ」
「人のママを何だと思っているのよ……」
「じゃあ、交渉決裂か?」
「…………」
あたしは少し、考える。
悔しいけど、このままだと、何も出来ずに夏が終わってしまう。
一平と……
「……じゃあ、お願いしようかな」
「おっ、マジで?」
「その代わり、あくまでもフリだから。偽装だから。あんたみたいなクソ男と、キスもエッチもしないから」
「オッケー、オッケー」
こうして、あたしは野中と協力関係を結んだ。
◇
「なぁ、美帆って……彼氏とかいたりする?」
「えっ? うん、いるよ」
「はっ?」
「いや~、実はちょっと前に、告白されてさ~」
「だ、誰に?」
「おなクラの野中くん」
「野中って……サッカー部の?」
「そうそう、イケメンく~ん。まさか、あたしのこと好きだったなんてね~♪」
「…………」
むふふふふ。
これは想像以上に、効果テキメンね。
何かめっちゃダメージ受けているじゃない!
「そういえば、一平。何か、話があるって言っていなかったっけ?」
ほらほら、悔しいでしょ?
ずっとそばにいた、大好きな幼なじみが、他の男に奪われたんだよ~?
まあ、でも安心してちょうだい。
体も心も、そいつには許していないから。
今ここで、あんたがほんの少し、勇気を出してくれれば。
もう即日、ぜんぶさせてあげるから。
まあ、ママみたいな豊満ボディじゃないから、そんな遊び尽せないだろうけど……
って、誰が貧乳だ!
「いや、その……やっぱり、何でもないや」
……あぁん?
こいつ……
「あっそう? いや~、それにしても、夏休み前にかれぴが出来てよかったよ~。来年は受験だから、遊べるのは今年がラストチャンスだし」
「……そうだな」
「あれ? 暗い顔してどったの? あ~、もしかして、さみしいの~? 大丈夫だって、一平ともちゃんと遊んであげるから。幼なじみだし♪」
「……ありがとう」
ほれほれ、クソザコ幼なじみくん。
これだけ煽られたら、さすがのあんたも、ちょっとムッとするでしょ?
だったら、さっさと告れ、あたし様に!
「おーい、ミホ~!」
ちっ。
テメェがモタモタしているから……
まあ、いっか。
「あ、友達が呼んでいる。じゃあ、またね~」
「で、彼氏とはどうなの~?」
「いや~、まだ付き合いたてホヤホヤですから~」
「ちゅ~くらいはしたっしょ?」
「いやいや、あなた達みたいなギャルビッチとは違うので」
「「よく言うわ~!」」
チラ、と背後を見る。
ふふ、そんな虚ろな顔しちゃって。
まあ、今回はこれくらいで良しとしようか。
このまま煽り続ければ、その内……
◇
「なあ、美帆」
「気安く名前で呼ばないで」
「え~、良いじゃんか。オレたち、ラブラブ♡カップルだろ?」
「キモ」
野中の戯言を聞き流しつつ、よく冷えた店内で、よく冷えたジュースを飲む。
「てかさ、何かミスったっぽくね?」
「何が?」
「いや、オレたちの計画。何かむしろ、余計なことしちまったな。お互いに、損する方向に行っちまったかも」
「ねぇ、もったいぶらないで、ハッキリ言ってくれない?」
あたしは苛立っていた。
結局、夏休みの間、好きな男じゃなく、この鬱陶しい男と面を突き合わせている。
「まあ、これはモテ男のオレの勘だけど」
いちいちアピんな、クソきしょい。
「たぶん、柴田とママさん、デキているぞ」
「…………はっ?」
「てか、お前も何となく、気付いていたんじゃないのか?」
「…………」
グラスの氷をひとしきりかみ砕いてやりたかった。
「……いやいや、一平にとって、うちのママは、もう1人のママみたいなものだから。あんたみたいに、性欲が歪んで、欲情するなんてことは……」
「そうかな~? むしろ、小さい頃からずっと、憧れだったんじゃないの? 本人は自覚なくても、潜在的にとか」
「…………」
ガタッ、と椅子を鳴らして立ち上がる。
「気分悪い、帰る」
「またオレのおごりかよ。まあ、良いけど」
「……じゃっ」
短くそう言って、あたしは店を後にする。
今日で夏休みも終わりだと言うのに……
いや、だからこそ、最低の気持ちだ。
ていうか、何であたし、一平と一緒にいないんだろう?
去年は、恋人関係じゃないにしても、幼なじみとして、一緒に過ごしていた。
『一平ぇ~、あたしの夏休みの宿題やって~!』
『バカ、俺もまだ終わってないよ!』
うん、そうだ。
無理して、今すぐ恋人関係にならなくても良い。
あたし達はずっと、一緒だった。
そして、これからも、ずっと。
ていうか、あいつはどうせ、ロクに友達も彼女もいない、童貞野郎だから。
今ごろ、お家でシコシコしてんでしょ?
仕方ないから、この超美人の幼なじみちゃんが、顔を見せに行ってやらないと。
その前に、まずは自宅でシャワーを浴びないと。
そ、そんな、ワンチャンとか、狙っていないからね!
「ただいま~」
しつこい暑さを振り切って、ようやく我が家にたどり着く。
「んっ?」
そこに2つの靴が並んでいた。
1つはママの。
もう1つは……男の。
若い男の。
ていうか、これって……
ドクン。
いやいや、あたしが留守の間、あいつがお邪魔していることなんてザラにある。
だって、お互いに家族ぐるみの付き合いがある、幼なじみだから。
なぜかそっと足を踏み入れて、リビングを覗く。
2人の姿はない。
ふと、階段に目を向ける。
おそるおそる、上って行く。
その度に、心拍数が上昇していった。
「…………っ」
その時、かすかに、声が聞こえた。
落ち着け、落ち着け。
あたしはママの部屋の前に向かう。
「あっ、いっくん……」
……何で、嫌らしい声がするの?
ああ、そっか。
きっと、マッサージでもしているんだよね?
だって、うちのママ、いくら美人とはいえ、もうおばさんだから。
アラフォーの、BBAだから。
そう、だから……
「……
……はっ?
「私もよ、いっくぅ~ん! もっと来てぇ~!」
……お、おいおい。
テメェら……
マジかよ…………?
目の前の扉は、うすっぺらい。
だって、クソ野郎どもの、クソみたいな声があっさりと漏れていて。
でも、やけに重く感じる。
見るな、見るな、見るな。
そう心で叫んでいるのに……
手はそっと、ドアノブを回した。
「ああああああああああぁ! いっくううううううぅん!」
そこにいたのは、母親じゃない。
クソみたいな、メスオンナ。
そして……
「悠奈さん……! 悠奈さん……!」
オスガキというよりも……
何か一丁前に、オスと化しているやつがいた。
『ねぇ、みほちゃん』
『んっ?』
『あ、あのさ……』
『なによ? ハッキリ言いなさい』
『……ううん、なんでもない』
『ちっ』
『ひっ』
あのクソザコだったやつが……
いつの間にか、こんなたくましいオスになっていたの?
オトコになっていたの?
ていうか、男にされたの?
その女に。
「……ハァ、ハァ、ハァ」
込み上げる何かを抑えるので必死だった。
音を立ててしまったかもしれない。
でも、あのケモノどもは、きっと気付いていないだろう。
それがまた、腹立たしい。
「うっぷ……オエエエエエエェ!」
いつも、この鏡には、最高に愛らしい美少女が映る。
けど、今ここに映し出されるのは、圧倒的な敗北者の……メスガキ。
「……ちくしょう」
どうして、こうなった?
何で、あたしがこんな思いをしなければならない?
確かに、あたしは性格の良い人間じゃない。
それでも、あいつに対するこの気持ちだけは……
あたしが絶望に喘いでいる間も、上の方から声が漏れて来る。
幸せそうに喘いでやがる、あの下品な乳ぶらさげたホルスタインが……!
上は天国、下は地獄。
最高で、最低だ。
「……はあああああぁ~」
ゲロったおかげで、少しスッキリした。
こういう時って、サウナに入るとスッキリするよね。
ていうか、外がもう、天然のサウナでしょ?
とりあえず、ここから出よう。
そして、考えよう。
動き出そう。
「……壊してやる」
殺してやる、と言わないだけ、感謝しなさい。
『母ラブ』 第1部 完
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