第5話 ガキじゃあるまいし……
もうガキでもないのに(中身はまだガキかもしれないけど)、この夏限定で彼女になってくれた幼なじみの巨乳美女な母親と危うく混浴してしまうところだった。
とりあえず、いま俺が持てる最大限の理性をフル活用し、大いなるエロサル心を封じてその事態は回避することが出来た。
これでひとまず安心……かと思ったけど。
「……お風呂って、こんな良い匂いしたっけ?」
悠奈さんの残り香が……ヤバイ。
ていうか、この湯船も、悠奈さんが浸かって……
ま、まずい、また脳みそが火照って来た。
「うおおおおおおおおおおおおおおぉ!」
俺はシャワーを冷水に変えて浴びまくった。
そして、湯船に浸かることなく、速攻で浴室を後にする。
「お、お風呂いただきました」
「あら、随分と早いのね?」
キッチンで料理をしていた悠奈さんが目を丸くして言う。
「ま、まあ、他人様のお家のお風呂なので」
「もう、今さらそんな遠慮する間柄じゃないでしょ?」
「そ、そうっすね……けど……いえ、何でもないっす」
「んっ?」
口ごもる俺に対して、悠奈さんは小首をかしげつつ、
「今お夕飯の支度をしているから、適当にくつろいで待っていて」
「あ、俺も何か手伝いましょうか?」
「う~ん……じゃあ、このお鍋を見ていてくれるかしら?」
「はい」
俺はキッチンに入る。
「おっ、カレーだ」
「うふ、好き?」
「はい、好きっす」
「焦げないように、かき混ぜてくれる?」
「了解っす。それくらいなら、俺でも出来ますよ」
「その間、私はサラダを作っているから」
「うす」
俺が鍋のカレーをかき混ぜている横で、悠奈さんはまな板の上でトントン、と小気味の良い音を鳴らす。
ていうか、これって何かカップルっぽいって言うより……
「……夫婦みたいね」
「へっ?」
「こんな風に、一緒にキッチンに立ってお料理するなんて」
「そ……そうっすね」
「まあ、あの人は、料理なんて少しも手伝ってくれなかったけど」
あの人、とは。
もちろん、離婚した旦那さんのことだろう。
何だか一瞬、モヤッとした気分になった。
「だから、いっくんが手伝ってくれるって言ってくれて、嬉しかったわ」
「はは……まあ、大したことは出来ないですけど」
「良いの、その気持ちが何よりも嬉しいんだから……それに、こうして一緒に並んでいられる時間が……」
ふわっと、良い香りがする。
それはカレーの匂いではない。
強いその匂いさえも凌駕するくらい。
優しく、温かで、ほんのり色気が乗った。
悠奈さんの香りが、俺の鼻先をくすぐる。
これは決して、同年代の女子からはして来ない。
しっかりと年齢を重ねて、経験を積んだ。
大人の女性が醸し出せる味わい……
「……っくん? いっくん?」
「はい?」
「カレーが焦げちゃうわ」
「ハッ……ご、ごめんなさい!」
俺は慌ててまたかき混ぜだす。
「どうしたの、ボーっとしちゃって?」
「いや、まあ……ハラ減ったなぁって」
「うふふ、そっか。たくさんあるから、たくさん食べてね?」
「良いんですか?」
「もちろんよ。若い男の子にたくさん食べてもらえるのが、すごく嬉しいから……って、ごめんなさい。また、おばさん臭いことを言っちゃって」
悠奈さんは照れたように舌をぺろっと出す。
だから、その仕草がいちいち、可愛すぎるんですけど?
「いっくん、そろそろ味見してみて?」
悠奈さんは俺にスプーンを渡して言う。
「了解っす」
受け取った俺は、早速ひとくち分すくって、カレーの味を見る。
「……あっ、うまっ」
「本当に? 良かったわ」
「これ、隠し味とか何を入れているんですか?」
「う~ん……秘密」
「え~、教えて下さいよ」
「……いっくんへの、愛情かな?」
「へっ?」
「ご、ごめんなさい……恥ずかしい」
悠奈さんの頬と胸元がほんのり赤く染まり、手でパタパタとあおぐ。
ねぇ、このおばさん……いや、女神さま。
何で死ぬほど可愛いの?
あぁ、女神だからか。
「わ、私も味見しようかな」
「ど、どうぞ」
「ありがとう」
俺が渡したスプーンで、悠奈さんもサッと味見をする。
「うん、美味しいわ」
「ですよね」
「……あっ」
「えっ? どうしました? やっぱり、どこか納得いかないところでも?」
「いえ、その……」
悠奈さんは、何だかモジモジとしている。
「……い、いっくんが口にしたスプーンを、そのまま……私もくわえちゃった」
「……あっ」
えっ、つまりそれって……
間接キス?
よくある高校生の青春模様だと、ペットボトル飲料だったりするけど。
カレーの味見のスプーンとか……その感じがまた、絶妙に若い女たちとズレていて。
とにもかくにも、俺の内なるリビドーが大いにうねってしまう。
落ち着け、静まれ!
「……お、俺は気にしないっすから。そ、そんな、ガキじゃあるまいし」
「そ、そうよね……ごめんなさい、良い歳した女の私が、動揺してしまって」
「お、お気になさらず」
だって、クソほど可愛いから。
俺が今まで見て来た、同級生の女子たちよりも。
ずっと、ずっと、魅力的すぎた。
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