第4話 自重せねば……

 何とか鼻血を出さず遅刻もせずに学校にやって来た。


「こらー、一平いっぺい。おっそいじゃないか~!」


 廊下でやかましい女に言われる。


 美帆なんだけど。


 てか、あいつ違うクラスなのに、わざわざ……


「……何か用?」


「むっ、それが長年連れ添った、幼なじみに対するセリフ?」


「あー、はいはい、ごめんね」


「全く、もう~……てか、紹介するね」


「えっ?」


秀太しゅうたくーん!」


 美帆が背後に手招きすると、スッと滑らかな歩調で1人のイケメンがやって来た。


 ほぼ会話したことないけど、顔は知っている。


 サッカー部で目立つイケメンだから。


「おっす」


「う、うっす」


 いきなりラフなあいさつに、俺は戸惑う。


「オレ、野中のなか秀太……って、知ってくれているかな?」


 はい、存じ上げております。


「ま、まあ、一応……」


「じゃあ、話は早いな。お前の大切な幼なじみ、幸せにするから、安心してくれよ♪」


「きゃん、秀太くんってば♪」


「…………」


 ごめん、マジでゲロ吐きそうなんだけど。


 いや、嫉妬というよりも、何か寒気というか、胸やけがするというか……


「ねえ、秀太くん。教室まで手を繋いで行こうよ♪」


「おう、良いぜ♪ って言っても、すぐそこだけどな(笑)」


「確かに(笑)」


「…………」


 えっ、ごめん。


 リア充って、こんなみんな頭がお花畑なの?


 夏だしもう、ひまわり咲いちゃっている?


 ひまわりって、無邪気なイメージだもんねぇ~……


「じゃあ、一平。まったね~♪」


「またな、柴田しばた


 そして、バカップルはルンルン歩調で去って行った。


「…………」


 だるっ。




      ◇




 ちょっと前の俺なら、幼なじみのクソだるカップルムーブで、色々とフクザツな化学反応が内部で起きて、そのままメンタルがクラッシュしていたかもしれない。


 けど、そんな俺が今こうして、正気を保っていられるのは……


「いらっしゃい、いっくん」


 この誰よりも素敵な女性ひとが、変わらぬ素敵な笑顔で、俺のことを見守ってくれているから。


「お、お邪魔します」


 いや、ごめん。


 ぶっちゃけ、正気は保てていない。


 だって、また胸の谷間が……


 まだ、今朝のエロキャミソールのままじゃないかぁ~!(錯乱


 しかも、何か汗かいているし……


 えっ、何か変な想像しちゃうんだけど……


「あ、ごめんなさい。今日は色々と忙しくて、汗かいちゃって。パートにお買い物にお掃除にと……」


「あ、そ、そうなんですね」


「一平くんを、お迎えするから」


「お、お迎え……」


 俺は旦那さまかよ……たまらん。


「ちなみに、あの子……美帆は今日も帰りが遅くなるみたいだから」


「ああ、はい……今朝、学校で彼氏くんを紹介してもらいました」


「そうなの?」


「はい、俺とは違って、爽やかなイケメンくんで……」


 って、いかん。


 ついつい、愚痴っぽいことを言ってしまった。


 悠奈さん、幻滅まで行かなくても、ゲンナリしちゃうかな……


「……ここにもいるじゃない、イケメンくん」


「はい?」


 戸惑う俺は、そっと手を握られる。


「私にとっては、他の誰よりも……」


「は、悠奈……さん?」


「……ご、ごめんなさい」


 パッ、と手を離される。


「そ、外暑かったでしょう? シャワーでも浴びる?」


「い、いえ、そんな……悠奈さんの方が、お先にどうぞ」


「うーん……」


 あっ、やべ。


 何か嫌らしい風に思われちゃったか?


「……じゃあ、一緒に浴びる?」


「……はい?」


「小さい頃を思い出して……どう?」


 確かに、小さい頃は、悠奈さんと一緒にお風呂に入ったりした。


 もちろん、その時から悠奈さんはずっときれいで、スタイルも抜群で。


 でも、子供の時は、『おばちゃん、すごいおっぱいおおきいな~』くらいにしか思っていなかった。


 けど、今はもう……メチャクチャにしたいって、思っちゃうから。


 あ、あかん、それは超ギルティーだ……


「……え、遠慮しておきます」


「あっ……ご、ごめんなさい。アラフォー女が出しゃばったことを……」


 確かに、謙虚な性格に反して、その乳は出しゃばりすぎですけども!


 あと、お尻も!


「いえ、本当は死ぬほど悠奈さんと一緒にお風呂に入りたいです」


「へっ?」


「ただ、そうすると、とんでもない過ちを犯してしまいそうなので……勘弁して下さい」


「い、いっくん……ごめんなさい、私の方が大人なのに、自重できなくて……」


「お、お気になさらず……」


「そうね。汗だくのまま、いっくんの前にいるの、見苦しくて申し訳ないし」


 いえ、むしろ最高です(おい


「ちょっと、お色直しもしたいから……ハッ……な、何でもないの」


 もう、何でこんなに可愛いの、この女性ひと


 美貌と巨乳と優しさと美貌と巨乳と料理上手さとエロさと美貌と巨乳と巨尻とエロスとエロスとエロスを兼ね備えた上で何でこんなにも可愛いの?


 マジで人間じゃなくて女神なんじゃないの?


 そうか、この人は幼なじみをNTR(ていうか、BSS?)された風の俺に同情して、天から舞い降りた女神なんだ。


 うん、そう思わないと、辻褄が合わない(いや、むしろメチャクチャだろ


「いっくん」


「あ、はい」


「悪いけど、飲み物は冷蔵庫から自分で好きなのを選んでちょうだい」


「う、うっす」


「……あまり期待しないでね」


「えっ?」


「お色直しなんて言ったけど……そんな変わらないから」


「……はは」


 いや、もう変わらないで、むしろ。


 ずっと、このままでいて。


 てか、悠奈さんならワンチャン、おばあちゃんになってもこのレベルの美貌と巨乳を保っている可能性がある。


 あと、巨尻も。


「じゃあ、ごゆっくり~……」


「そ、そちらも……」


 パタン、とリビングのドアが閉じる。


 俺はスッと冷蔵庫に歩み寄り、ドアを開く。


 そこに頭を思い切り突っ込んだ。


 ごめんなさい、ちょっとだけ、頭を冷やす時間を下さい!





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る