第3話 最高かよ……

 柴田一平しばたいっぺい、高校2年生。


 別に陰キャって訳じゃないけど、決してクラスの中心人物ではない。


 もちろん、学園全体で見ても。


 普通にモテない部類の男子。


 このまま、高校生活は彼女が出来ず。


 何とか、大学生で出来るか。


 あるいは、大学生も出来ず、社会人になって、仕事が忙しくて、結局ずっと彼女ナシの童貞のままで……行くことも覚悟していた。


 けど、そんな俺に彼女が出来た。


 この夏限定で、そんな童貞を卒業させてもらえる間柄じゃないけど。


 それでも構わない。


 なぜなら……


「ちょい、一平。早くしてよ~、朝からダラしないな~」


「うるさいなぁ~。ていうか、お前こんな朝から元気ちゃんだっけ?」


「それはもう、めでたく彼氏持ちになった女ですから♪」


「……うざッ」


「何よ、まだ嫉妬しているの~?」


「いや、別にしていないから……」


「てか、一平のチンタラペースに合わせていたら、あたしの高ぶるハートが爆発しちゃいそうだから。先に行くね~!」


「あ、おい、美帆みほ


「バイバーイ!」


「あまり慌てると、転ぶぞ……ってもういねーし」


 俺は決して陰キャではない。


 ただ、いつも一緒にいるあいつが陽キャすぎるから、相対的にそう見えてしまうだけなのだ。


 はぁ、やるせない……


「――いっくん」


 落ちかけたテンションが、スッとすくわれる。


「……あっ」


 そこにいたのは、巨乳美女。


 圧倒的な、巨乳美女。


 ていうか、あいつが将来的に、このおっとりしっとりした、最高の巨乳美女になるなんて。


 まるで想像できない。


 ていうか、ならないだろ。


 あいつはたぶん、父親似だ。


 母親から、美貌は幾分かもらっているけど。


 美人というより、可愛い系というか、騒がしい系だからな。


「お、おばさん……」


 俺が半ば動揺しながら口にすると、彼女は小さく眉尻を下げた。


「ねえ、2人だけの時は……名前で呼んで?」


「はうッ!?」


 な、何だ、この異次元の可愛さは……


 マジでこの人、アラフォー、俺の母さんと同じ世代かよ?


 信じられない、マジで20代の愛らしさだ、コレは……


「……は、悠奈はるなさん」


「ふふ、嬉しいわ」


 その微笑みを見ていると、こちらまで嬉しくなる。


 ていうか、興奮しすぎて心臓が爆発しそうだ。


 ていうか、ていうか……何か露出が多くないか?


 ノースリーブというか、女性の場合はキャミソールかな?


 で、胸元も開いているから、その豊満なお乳のラインが……


 ゴクリ、と生唾を飲みつつ、


「あ、あの……」


「んっ?」


「い、いつも、そんな格好でしたっけ……? い、いくら夏で暑いとはいえ、それはちょっと……刺激が……」


 俺がどもりつつ指摘すると、


「……安心してちょうだい。他の人に見せるつもりはないから」


「へっ?」


「いっくんにだけ……ね?」


 人差し指を口に添える。


 簡単なポーズだけで、現実でしている女子を見たことがない。


 ていうか、このポーズは、ガチの美少女、美女にだけ許されるポーズ。


 悠奈さんは、易々とそれを使いこなしている。


 しかも、気持ち前かがみになることで、胸の谷間がさらに強調されて……


 俺まで前かがみに……!


「……お、お気遣い、ありがとうございます?」


 あまりの不意打ちエロスで脳がバグり、意味不明なことを言ってしまう。


 けど、許してくれ。


 童貞男子高校生にはあまりにも無理シチュ過ぎる!


「……いっくん、こういうの嫌い?」


「へっ?」


「よ、喜んでくれるかな~って、思ったんだけど……ハレンチだったかしら?」


 悠奈さんは恥ずかしがるように、口元に手を添える。


 どこまで可愛いんだ、この女性ひとは……


「いえ、むしろ最高ですから、これからもドンドンお願いします」


 って、俺はキメ顔で何を口走っているんだ~!


 さすがにエロガキ、いやエロサル過ぎてドン引きされんだろ~!


「あ、いや、悠奈さん、これは……」


 慌てて俺が誤魔化そうとすると、


「……良かった。いっくんが、ちゃんと思春期男子くんで」


 口元に手を添えながら言うのは、先ほどと同じ。


 けど、全く毛色の違う発言をなさる。


 控えめに言って……最高かよ、このおばさん。


 いや、おばさんとか、呼んだら失礼なレベルの。


 最高のアラフォー美女……いや、本当にアラフォーか疑うレベルだ。


 若々しい美貌はもちろん、肌ツヤとか胸のハリとか……


 とにかく、ヤバすぎる。


 例えエッチなことが出来なくても……夏限定だとしても……


 自分の彼女としてそばで拝めるだけで……神。


 いや、女神ってる。


「お、俺もそろそろ、行きます」


「あ、うん。気を付けてね」


 本当はもう少し、この場に留まって、悠奈さんの極上エロスを堪能したい。


 けれども、夏の暑さも相まって、ガチで鼻血が出そうだから。


 俺は前向きな逃亡を図った。




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