第2話 可愛すぎる

 小さい頃から、憧れがなかったと言えば、嘘になる。


『おばしゃん、こんにちは!』


『あら、いっくん。いらっしゃい』


 悠奈さんは、今も昔もずっときれいで。


 ガキながら、ちょっとマセたことを考えたりして……


「……私で良ければ……いっくんの彼女になってあげる」


「…………………………へっ?」


 当然、すぐに理解して、飲み込めるはずもない。


 おばさんの絶品料理みたいに、スルスルと行けない。


 いや、この提案だって……


「……ご、ごめんなさい。いきなり、変なこと……ううん、気持ち悪いことを言って」


「あっ、いえ、そんな……」


「……あり得ないわよね。アラフォーで、しかも幼なじみの母親が、いっくんみたいなうら若き高校男子と……だなんて」


「お、俺なんてそんな、大したモンじゃないっすよ。ていうか、悠奈さんは、20代でも十分に通用するくらい、若くて美人だし、小さい頃から、俺は憧れて……」


「ほ、本当に?」


「あっ……俺の方こそ、気持ち悪いっすね」


「ううん、そんなことない……嬉しいわ」


 その時、悠奈さんは、頬を赤く染めて言った。


 俺は思わず、ゴクリと息を呑む。


「……恋人になると言っても、ずっとじゃないわ」


「えっ?」


「この夏休み限定で……っていうのはどう?」


「あっ……ああ、なるほど」


「それなら、お互いにラフな感じで楽しめるし……もし今後、いっくんに素敵な女子が現れても、困らないでしょ?」


「いや~、そんな女子は現れないと思いますけど……比較対象が悠奈さんじゃ、尚のこと」


「も、もう、この子ってば」


 悠奈さんは、ペシッと叩くような仕草を見せる。


「って、こういうのこそ、おばちゃんっぽいわよね。恥ずかしいわ……」


「…………」


 ……可愛すぎる。


 控えめに言って、最高かよ。


 えっ、マジでこんな最高の美女(しかも巨乳)が、俺の彼女になってくれるの?


 この夏限定とはいえ……いや、だからこそ、熱い!


「い、いっくん、ごめんなさい。やっぱり、この話は……」


「ぜひともお願いします」


「ふぇッ?」


「俺、このまま行けば、たぶん高校時代は彼女ナシの童貞くんで終わると思うので。俺に、経験を下さい」


「い、いっくん? そ、それは……」


「……あッ! ち、違くて……も、もちろん、そんなエッチなこととかは……求めないっすから」


「そ、そうよね……それはさすがに……まずいものね」


「は、はい……」


 とか言いつつ。


 俺の目線は、ついつい悠奈さんの胸元に行ってしまう。


 腰とかキュッとくびれてちゃんと細いのに。


 胸だけあんな爆裂にデカいのは、なぜなんだ?


 美人なのに、謙虚で控えめ。


 なのに、あそこだけ主張がヤバすぎる。


 マジで元夫さん、もったいなさすぎだろ。


 俺がもし、その立場だったら、絶対に手放さないぞ?


『ああああああああぁん! あなた、すごいいいいいいいぃ!』


『どうだ、悠奈ぁ! もっと、もっと感じろぉ!』


 ……って、俺はアホか!


 だから、そういうエッチなのは、ナシ!


「じゃ、じゃあ……いっくん」


「あ、はい」


「ふつつか者ですが……どうか、よろしくお願いします」


「こ、こちらこそ……よろしくです」


「って、嫌ね。また、おばちゃんっぽく……恥ずかしいわ」


「大丈夫っすよ。死ぬほど可愛いから」


「へっ?」


「ハッ、いや、その……な、鍋。冷めない内にいただいても良いっすか?」


「う、うん……いっぱい食べて」


 その後、俺は無限に湧いて来るエロ心を打ち消すために。


 ひたすら、悠奈さんの絶品鍋をかき込んだ。




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