幼なじみに失恋したらその母親とラブコメることになった

三葉 空

第1部

第1話 幼なじみのお母さん

 幼なじみって、それなりに固くて、他のやつらは割って入れない。


 特別な関係だと思っていたんだけど……


「なぁ、美帆みほって……彼氏とかいたりする?」


「えっ? うん、いるよ」


「はっ?」


「いや~、実はちょっと前に、告白されてさ~」


「だ、誰に?」


「おなクラの野中くん」


「野中って……サッカー部の?」


「そうそう、イケメンく~ん。まさか、あたしのこと好きだったなんてね~♪」


「…………」


「そういえば、一平いっぺい。何か、話があるって言っていなかったっけ?」


「いや、その……やっぱり、何でもないや」


「あっそう? いや~、それにしても、夏休み前にかれぴが出来て良かったよ~。来年は受験だから、遊べるのは今年がラストチャンスだし」


「……そうだな」


「あれ? 暗い顔してどったの? あ~、もしかして、さみしいの~? 大丈夫だって、一平ともちゃんと遊んであげるから。幼なじみだし♪」


「……ありがとう」


「おーい、ミホ~!」


「あ、友達が呼んでる。じゃあ、またね~」


「で、彼氏とはどうなの~?」


「いや~、まだ付き合いたてホヤホヤですから~」


「ちゅーくらいはしたっしょ?」


「いやいや、あなた達みたいなギャルビッチとは違うので」


「「よく言うわ~!」」


 楽しそうな声を響かせて、彼女たちは去って行く。


 一方、1人残された俺は、夕日が照らす廊下で呆然と立ち尽くしていた。




      ◇




 心の傷口に、なおも夕日が染みる。


 あぁ、目にも染みる。


 ていうかこれ、何か涙が出てたりしない?


 あぁ、すごくみじめな気分だ……


「……いっくん?」


 ふと、背後から柔らかな声が聞こえて、俺はハッと振り向く。


 夕日に浮かぶのは、美しい女性のシルエット。


 実際に、その顔立ちは美しい。


「あっ……おばさん」


 美女に対してそんなことを言うのは、俺とこの人が顔見知りだからだ。


 長いことの……


「美帆は一緒じゃないの?」


「ええ、まあ……」


「いっくん……どうしたの? 何だか元気が……」


 言われて、俺は慌てて目元を拭う。


「い、いや、何でもないっすよ」


 慌てて誤魔化す俺に対して、それ以上は詮索することなく、微笑んでくれる。


「ねぇ、一平くん。今晩、お鍋するの」


「へ、へぇ~、そうなんですか」


「良ければ、一緒に食べない?」


「良いんすか? あっ、でも……」


「んっ?」


「美帆が……」


「……さっき、あの子から連絡があって。今日は帰りが遅くなるみたい。まあ、もう高校生だから、多少は大目に見てあげないとね」


 ウィンクして言う。


 可愛いな……


「もっと言うと、彩乃あやのさんにも、お願いされているから。今晩は、旦那さんとデートだから、一平くんの夕飯をよろしくって」


「あの母親は……ごめんなさい、迷惑かけちゃって」


「ううん、そんなことないわ。だって、一平くんは、私にとっても息子みたいなものだから」


「はは、嬉しいっす。あ、それ持ちますよ」


 俺はおばさんが持っていたスーパーの袋をサッと持つ。


「あら、ありがとう。やっぱり、男の子って頼りになるわ」


「これくらい、お安いご用っすよ」


「じゃあ、行きましょうか」


 その微笑みは、夕日によってよりよく映えた。




      ◇




 俺、柴田一平しばたいっぺいと、白井美帆しらいみほは家がとなり同士の幼なじみだ。


 小さい頃から、家族ぐるみの付き合いである。


 ただし、白井家に父親はいない。


 この町に引っ越して来る前に、離婚したらしい。


 どちらから別れを切り出したのか、分からないけど。


 その元夫さんは、もったいないことをしたと思う。


 だって、美帆のお母さん、悠奈はるなさんは、本当に美人で。


 おまけに、スタイルもすごいから。


 もし、俺が旦那さんだったら、手放さないけどな~……なんて。


「いっくん、何か嫌いな物あったっけ?」


「いえ、基本的にないっすよ~」


「あら、偉いわね。美帆はワガママだから、あまりお野菜を食べないのよ」


「ああ、あいつ肉食系なんすね(笑)」


「ふふ、面白いこと言うのね、いっくんは」


 そんな風に、和やかな会話をしている内に……


「おまちどうさま」


「うわ、美味そう」


 ダイニングのテーブルに、ほかほかと湯気が立つ鍋が置かれた。


「今日はスーパーでサケが安かったから、石狩鍋いしかりなべでーす」


「わぁ~、すごい」


 俺が小さく拍手している間に、おばさんはサッとよそってくれる。


「どうぞ、召し上がれ」


「いただきます」


 ずずっ、パクモグ……


「……うまっ」


「本当に?」


「はい。おばさんの料理、久しぶりに食べたけど、やっぱり美味いっすね」


「あら、嬉しいわ。美帆はスマホばかり見て食べているから、味の感想をあまり言ってくれなくて」


「ザ・現代っ子っすね。まあ、あいつは悪いやつじゃないですから……」


 と言いかけて、俺は声のトーンが落ちてしまう。


「……美帆と何かあった?」


「へっ?」


「あの子の名前が出ると、何だか元気が……ごめんなさい、余計なこと聞いちゃって」


「いえ……」


 俺は箸を置く。


「……実は、美帆の彼氏が出来たんすよ」


「えっ? あら、そうなの?」


「最近、告白されたっぽくて……俺がモタモタしている間に」


「いっくん、それって……」


「2年生の夏休み、最後に思い切り遊べるチャンスだから、告白しようと思ったら……サッカー部のイケメンに先を越されちゃいました」


「……そうなの」


「まあ、でもコレで良かったんですよ。俺とあいつは、あくまでも幼なじみだし。仮に告白できたとしても、付き合えたか分からないし。ていうか、フラれただろうし。あいつ、何だかんだおばさんの娘で見た目が良いから、モテるし」


「いっくん……」


「って、すみません。鍋、いただきますね」


 と、俺が自分でよそおうとした時、そっと手の甲に触れられる。


「……おばさん?」


「……あっ、ごめんなさい、つい」


「もしかして……慰めようとしてくれています?」


「そ、そうね」


「はは、ありがとうございます。けど、この美味しい鍋を食べたから、もう元気いっぱいっすよ」


「本当に?」


「はい。ていうか、あいつ夏休みは彼氏と遊びまくりで、家を留守にしがちだろうから。俺、毎日のようにこの家に来て、おばさんの美味しい手料理をいただこうかな~……なんて」


 さすがに、調子に乗り過ぎたかな、なんて不安になって表情を伺うと……


「……おばさん?」


 何だか、顔をうつむけていた。


 まずいことでも言ってしまったか?


「あ、いや、冗談っすから。そんな真に受けないで……」


「……む、娘の不始末は、母親の責任よね」


「はい?」


「あの子、我が子ながら、ちょっとおバ……あけすけな所があるから。そのせいで、いっくんを傷付けて来たと思うの」


「まあ、否定……しづらいところがありますね」


「だから、その、今回の件……私が責任を取ります」


「と、言いますと……?」


 俺が聞き返すと、おばさんはしばし、間を置いてから、


「……私で良ければ……いっくんの彼女になってあげる」


「…………………………へっ?」







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