新たなダンジョン世界 ドラゴニアへ

第45話

 運営から私が公式配信者として活動するという旨のお知らせが日本中に、世界中にSNSやDストで配信されていった。一躍私の配信は今まで以上の視聴者に見られるようになっていっていた。登録者はいままでにない500万を数日でたたき出した。


『というわけで、今日の配信はダンジョン情報局! 最新のイベント情報を体験しつつ、お知らせしていくね!』


私は今、大阪のダンジョンで公式配信者として最初の広報活動をしていた。

基本的には活動は自由なんだけど、定期的にこういった公式としての活動をするという契約だ。まあ、始めは不満だったけど誰もいない、最初にダンジョンへ入窟した人間というのは悪くない称号だと感じてる。


『ここ、大阪ダンジョンに新ワールド解放! 早速、今日はその世界へ行ってみたいと思います!』


唯一不満があるといえば、公式配信になるとコメントがこちらで自由に確認できないことくらいかな......。どうしても、ファンの人たちとの距離を感じちゃう。寂しさを感じつつゲートをくぐると、そこには緑豊かな大地が広がっていて、青く澄み切った青空に舞うドラゴンたちが優雅に飛び回っていた。ここが龍王国【ドラゴニア】か。


『ここは、ドラゴニア。つまり、ドラゴンが文明を築き自ら王国を建てた異世界です。ご覧の通り、あたりはドラゴンだらけ! きれいだなぁ......。ここでは、ギルドの依頼を受けるギルド報酬型ダンジョンとドラゴニアを脅かす邪龍を討伐するメインミッションがあります。どちらもかなり高難易度なので気を引き締めてね! じゃあ、今回の情報局はここまで! この後、個人で雑談と少しこの世界で配信するのでお楽しみに~!』



はぁ......。疲れる......。

私は配信を切り、なだらかな丘に寝そべった。

最近こんな感じの固めな言葉使いや配信が増えて大変。

正直、フリーだったころの好き勝手にしてたころが懐かしいわ。


「ま、気長にやるしかない。新しく管理人になったアニマスの真の目的を探るまでは......」


何も企んでない方が当たり前なんだけど、自分で決めたことだ。

そうやって自分に言い聞かせていると、ひょこっと顔の幼そうな黄色い鱗を持ったドラゴンの頭が私を覗いてきた。


「うわぁっ!?」


「うわあああああああ!?? に、ニンゲン? もしかして、ニンゲン?」


ドラゴンは飛び起きて怯える私をキラキラとした眼差しで見つめる。


「そ、そうよ。あなたは、見るからにドラゴンよね? どうして、人間のことを? この文明に人間はいないはずじゃ......。ていうか言葉わかるの?」


「わかるよ? コミュニケーションできないとでも思ったの? だって、この文明の礎を作ったのは人間なんだよ? もう、いなくなったけどね。ねえ、君はどこからきたの? この国の生き残りのニンゲンじゃないよね?」


人間といっても、別世界のニンゲンでしょ? 

そこの言語と私たちが同じなわけがない......。


「そ、そうだけど.....。ダンジョンゲートっていうんだけど」


「わあ、すごい! じゃあ、ビジーラ? ホントにいたんだ!」


「いや、え? なに?」


「ああ、そっちの次元で言うところの訪問者ってことだよ。でも、ニンゲンのビジーラは何年ぶりだろ。1000年ぶり? ねえ、行くとこないなら僕の家に来ない?」


いやいやいや、展開がついていけん!!

この子、何を言ってるんだ? こっちの次元?

もしかして、いろんな世界の人がこの世界に?


「とにかく、一旦ダンジョンから抜けるから大丈夫。ゲートはどこ? それくらい知ってるでしょ?」


「あー、それは難しいかも......」


「どういうこと?」


「見た方が早いかも。乗って乗って! 案内する」


「わかった」


わけもわからず私は、その黄色い鱗のドラゴンの背中に乗った。

そういえば、名前も聞いてなかった。羽ばたく音に遮られないよう、大きな声で彼に聞いてみた。


「ねえ! あなた、名前は?」


「ごめん! 言い忘れてた! 僕は、イェラ! 君は?」


「シオリ。宇津呂木栞。ハンドルネームはダンジョンビキニアーマー配信無双」


「シオリ! よろしくね! じゃあ、飛ばすよ!」


そう言うと、イェラの翼が羽ばたきだすとグンと持っていかれそうな感覚と共に大地の草木を揺らして加速していく。その速度は、多分自動車かスーパーカーくらいありそう。風でなにもかも持っていかれそうだ。しばらくすると、風が止み始めた。だが速度に変化はない。てことは、彼の魔法?


「どう? 少しは快適になった? 背中に乗せるの久しぶりだから、風除けの魔法つけるの忘れてた! 大丈夫?」


「うん、ありがとう。それで、ゲートは?」


「この先。あの黒い瘴気のあるところだよ」


彼が言った場所を見ると、土地全体が黒い幕のようなものに覆われているような感じだった。イェラはその瘴気を避けるように旋回し、近くで降り立った。私が降りると、彼は話を始めた。


「あの瘴域は、邪龍のすみかでね。あそこにすべてのゲートがあるらしい」


「他にはないの?」


「転送はランダムだから、入り口は使えない。それに、何人ものニンゲンがあらゆる場所を探していったけど、見つからなかったって聞いてる」


瘴気の中にゲートがあるかも怪しくなってきたな......。

ただ、可能性はあるってことよね?


「まじか......。あの瘴気の中へ進むってのは?」


「だめだよ! どんなことになるのか、見当もつかないし生きて帰れる保証がない!」


「じゃあ、あの瘴気を元凶を断つってのはどう?」


「一番の近道かもしれないけど......。......わかった! 怖いけど、僕も手伝う!」


手を震わせながら、イェラが自分の胸を叩いた。その顔はまっすぐでキラキラしていた。私は、自然と疑問が湧いた。彼のその勇気はどこからくるのかと。


「あなたが? どうして?」


「『困ってる者に手を差し伸べよ』これがドラゴニアの掟だからさ。みんな互いに支え合いながら邪龍の魔の手から守ってる。だから、キミのことも僕は守りたい。たとえ、国民じゃなくても」


「ありがとう......」


かくして、私はドラゴニアから帰還すべく邪龍討伐を目指し始めた。

ま、その様子も配信するんだけどね?



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る