第46話

『というわけでさ、帰れなくなっちゃったみたい......。どうしよ~!?』


私はおどけつつも配信に来てくれた人たちに状況を説明した。

いろんな世界を一つのダンジョンとして開放してるのはオープンマップみたいで楽しいんだけど、出口が見つからなかったり今回みたいに原住民さえも近づけないところに配置するのは勘弁してほしい。


【ころころころね】『え~? まじ?』

【ふくろうだいすき】『運営に問い合わせてみるとか?』

【ほんで】『救助機能ってあったっけ?』

【ほーれんそう】『一回死んだらw』


『そんな簡単に言わないでよ。それに、せっかく来たのにそんなことで死ぬなんて面白くないじゃない』


【ドエロ将校】『そうやぞ』

【紅蓮の刃】『配信で援助は呼びかけた方がいいと思う。他にも来てて帰れない難民いるかもしれんし』


『そうね。とにかく、これを見てたら運営の方はすぐに緊急転送できるよう手配ねがいます! よろしく~! それはそれとして、あの闇黒瘴域をどうにかする方法も同時に進めておくか』


「じゃあ、ギルドに行ってみる? もしかしたら情報交換系で依頼があるかも」


【ころころころね】『えっ? ドラゴン!?』

【ジョニー・チップ】『しゃ、しゃべったーーーーー!?』


『わかった、行ってみる。あんたも来る?』


「うん! 行く! あ、ねえねえシオリ」


『ん?』


「今、”配信”?してるんだよね? 僕の事、言わなくていいの?」


【ドエロ将校】『そうだよ』

【ふくろうだいすき】『そのドラゴンかわよ......。舐め回したい』


『ごめん、忘れてた。この子はイェラ。まあ、この世界の相棒って感じかな』


「やあ! ニンゲン! こんなのでほんとに別の世界の人たちが見れてるの?」


『コメントも聞こえてるし、多分大丈夫。私が発信さえしてれば、今後ここ来ちゃって帰れないって人はいないはず......』


まあ、それは私のこの配信を観てくれてたらの話なんだけど......。

とにかく、今はギルドに向かうしかない。イェラに乗り、私はギルドのある街の方へと向かった。その街並みは西洋風で古風な雰囲気のものだった。その一角にあるこじんまりとした家へイェラが入っていった。


「こんにちは! マスターいますか?」


「ようこそ、ギルドへ。ギルド会員証をお持ちでしょうか?」


『会員証? そんなのいるんだ......』


イェラの後ろにいた私が出てくると、ギルドの受付をしていたドラゴンが目を見開いた。


「珍しいものを飼っているな。おまえ」


『飼う? 私が、この子を?』


そう言うと、受付のドラゴンがこちらを見つめて睨みつけて来た。


「そんなわけがないだろ。希少種レアの分際で」


「まあまあ......。この子は飼ってるわけじゃないんだけど......。訳あって一緒に行動してるんだ。それで、会員になるにはどうしたらいい?」


イェラがその受付のドラゴンをなだめてくれたおかげで場の空気は和んだものの、やはり私はこの場ではイレギュラーらしい。ドラゴンばかりの国というのは、伊達ではない。


「そうだな。入会のための試験をうけてもらう。試験も別に簡単ではないがな」


そう言うと、ドラゴンはイェラに一枚の紙を渡した。そこには、ドラゴンの絵が描かれていた。おそらく、手配書のようなものだろう。


「指名手配かな? この人はだれ?」


「盗賊団のヘッド、隻眼のモールだ。略奪、強奪などあらゆる犯罪はお手の物って野郎だ。こいつを捕まえてほしい。できれば生け捕りでここに持ってきてほしい。それが、我々の最初の依頼だ」


「ふーん。ま、いっか。じゃあ、いこっか。シオリ」


『え、ええ』


そう言って、私達はギルドを後にした。

街に出た後、また私たちは受け取った手配書を見つめた。


『どうやって見つけるの?』


「うーん。地道に聞くか、あるいは盗賊団が次に狙いそうな場所の張り込みかな」


『次に狙いそうな場所は検討ついてるの?』


「それも聞いてみるしかないね......」



結局は聞くしか選択肢ないじゃない。でも、ここでは私が前に出て情報を聞き出せるような世界じゃないし、イェラに任せるしかないか......。


『まずは街で聞き込みね。被害があった人の特徴で共通点があるかもしれないし』


「そうだね」


私たちは、その小さな街にいるドラゴンたちに聞き込みに回った。もちろん、話をしていたのはイェラだけど......。だけど、彼らからは盗賊団のまともな情報を得られなかった。というより、ここでは被害はないらしい。


『被害がない街もあるんだ』


「それも変だね。手配書があるからもっと名のあるヤツだと思ってたけど」


村を歩いていると、とあるバーから酒を浴びる一匹の龍が出て来た。

その龍は、片目がつぶれていて傷のようなものがあった。


「あ」


「あ?」


片目に傷のある龍がこちらを向くと、その黒い中華風な衣装といい折れた角などの仔細が手配書と一致していた。まさか、こんなところにいるとは......。


『うそやん......』


「か、確保~!!」


『イェラ!?』


「チッ......!!」


イェラの唐突な叫び声に、手配書の龍『隻眼のモール』は翼を広げて逃走を図ろうとした。私は駆け寄り、モールのしっぽめがけて魔法を繰り出す。


『アイヴィ・チェーン=シャックル!』


ツタを伸ばしていき、鎖のように強固に、そしてそれをそのまま彼のしっぽに巻き付かせた。そのまま手繰り寄せようとするも、彼の力は強く中々引きずり落とせない。


「僕も手伝う!」


イェラも一緒に引っ張ると、さすがの隻眼のモールも翼に余力がなくなって地面に落ちていった。


『手こずった......』


私はモールが逃げ出さないように、さっきの魔法で生成したツタを利用して彼を拘束した。


「ごめん、僕が余計な事言ったから......」


『まあ、こうして捕まえられたんだし......』


\7,000【ドエロ将校】『やったぜ。ナイスドローン』

【紅蓮の刃】『今のは、かなり刺激が、強いです......』


急にどうしたんだろうと、思っているとドローンがかなり下の方でカメラを機動していた。ドローンはオート操作だから、私が指示しないと勝手に取れ高のある場所へ移動する。それが、よりによって私の下半身だったとは......。


『不覚! しっしっ!! 今大事なとこなの!』


「おい」


1人で小芝居をしていると、隻眼のモールが睨みつけてこちらを向いていた。


『なに?』


「こいつをほどけ。どうせ、ギルドの手先だろ。悪いことは言わない。ギルドはやめとけ」


「何言ってんの? ギルドは公共機関だよ? どうせ、逃げの口実でしょ?」


そういうと、モールはため息をつきながら拘束をほどいて見せた。

うそでしょ......。そうそう解ける品物じゃないでしょ、あれ。


「俺は、いつでも逃げれる。じゃ、忠告したからな」


そういうと、彼はとぼとぼと歩いて行こうとした。


『待ってよ』


「あ? なんだよ」


『あなた、意外と素直で真面目ね」


「なにがだよ」


『盗賊っていうから、もっと荒々しく振りほどいて逃げればいいじゃない』


そう言うと、彼は押し黙ってしまった。

それから、深く息をした後彼は口を開いた。


「俺は、強盗でも盗賊でもない。探偵をやっている。俺を見逃して、何も言わずについてこい。そうしたら、ギルドよりも耳よりな情報を提供してやるぜ」


そういうと、彼は日本式の名刺を渡してきた。あ、こんなのあるんだ。

というか、ほんとに探偵事務所立ち上げてるし、隻眼のモールは本名なのかよ!

この怪しげな竜についていくべきか、それともこいつをギルドに連れて行くか

迷いどころだな......。








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