ダンジョンリスタート

第34話

 動画配信ってのは、結構体力も人気もいる。大学卒業してから7年経った今、痛感してる。特にダンジョン配信でのコメントはただ読むだけにとどまらず、配信のコメント数、スパチャ数が魔力量を左右する。ただ、いつからそんな仕様になったのか、はっきりとは思い出せない。


「前にも同じことを考えてたような......。まあ、いつものことか」


フリーとしてずっと活躍してるけど、それゆえ中々バズらない。登録者もまだ5000人ほどしかないし......。え? こんな少なかったっけ? 


「ダンジョン配信するしかないのよね......。それしか、もう仕事がないんだし」


私はドローンを立ち上げて、配信の準備を整えていく。


「さて、今日はどこに行こうかな」


東京にある高層ダンジョン「バベル」は地上90階、地下90階で構成されている。

高輪駅の近くにあることから、通称高輪ダンジョンと呼ばれている。

私は、ダンジョンの中心にあるエレベーターを使用して44階に向かった。


「確か、このあたりに中ボスがいるんだっけ?」


ドローンが動き出し、私を映し出すとコメントがイヤホンから聞こえてくる。


【ジョニー・チップ】『おつでーす』

【ローコスト】『オモシロそー』

【袋】『めちゃくちゃ露出高い服着てて草。痴女かよ』


『これ? なんか、家にあったんだよね。ビキニアーマー。まあ、ネタ装備だし沢山みてもらうには手段は選んでらんないんだよねぇ~』


【常連】『ただ、ビキニアーマーでエロサムネ狙いの人増えてるよね~。最近は男もいるし......。おとこのビキニアーマーとか見たくねえし』


『へぇ、男の人のビキニアーマー装備いるんだ。いたら声かけて見よ』


少ないコメントとやり取りをしながら44階、茂みのダンジョンを進むとそこには4体ほどのスライムが私を睨みつけていた。しかも、そのうち一体は0.01%の確率で出現する色違いだ。普段のスライムが青色なら、そのスライムは赤色だ。これは、討伐しないと!!


『やったーーー!! 色違い! 色違い出たよ!!』


【ふみえと】『おお......』

【丹羽元】『まあ、スライムなら......。いつか出るっしょ』

【袋】『そんな雑魚キャラで、はしゃがれてもなぁ』


ええ......。こんな殺伐とした配信だったっけ?

まあ、いいや。まずは、手始めに魔法を出しますか。魔力も溜まって来てるし......。


『ファイア! ファイア、ファイア、ファイア!』


いくつもの火の玉を両手から互い違いに投げ飛ばしていると、スライムはパンという破裂音とと共にドロップアイテムを落として消滅していく。


『スライムの粘液かぁ。お金にもならないし、クラフト生成のアイテムとしても使いづらいしなぁ......。どうしよう』


コメント欄に意見を聞くも、こういうときに限ってコメントが少ない。

こっちからしたらコメントが一番の生命線だっていうのに......。


『なんか面白い事おきないかなぁ......』


さらに茂みの中を歩いていると、このフロアの中ボスであるサンダードラゴンが天井から姿を現した。あれ、サンダードラゴンってあんな派手なピンク色だっけ?


【通せんぼ】『はぁ!? またレア?』

【袋】『連続で運良すぎぃ!』

【ころころころね】『やってる? チート』


『いや、チートなんてできるわけないでしょ!? ゲームじゃないんだから......』


それにしても、派手なドラゴンね。そう感心しているのも束の間、ドラゴンがうなり声をあげると雷がこちらに向かって落雷してきた。私はその着地点を予測して回避していった。こんな中ボスに50%の魔力量じゃどうにもならない!


『一回あのドラゴンを地上に下さないと! ガイア・メテオ!』


ドラゴン頭上から、岩石が雨のように降り始めてドラゴンはその量に負けて一度地面に落ちて行ってしまう。


『よし! 行くぜぇ!!』


ドラゴンの元へ向かうと、その下敷きになってしまっている人を見つけた。

......やっべ! 周りに気を使ってなかった!


『ごめんなさい! 大丈夫ですか!?』


「い、いえ......。僕もぼーっとしてたので......。あれ、もしかしてダンジョンビキニアーマー配信無双さん?」


その人は髪の毛もボサボサで、ちょっと間の抜けた好青年って印象の男性だった。

にしても、私の事よく知ってるわね。


『え、ええ。よく知ってるわね。チャンネル登録者数少ないのに』


「え? やだなぁ、フリーで登録者100万人突破してたじゃないですかぁ」


この人は何を言ってるんだ?

困惑していると、ドラゴンが起きだしてしまった。

やばい、忘れてた!!


『最悪!!』


「なんかすいませーん!!」


ドラゴンがくねくねと飛び上がり、宙を舞っていくと雷が天井に溜まっていった。

フロアの中に人より高いものはない。つまり、あの雷はまっすぐこちらに向かってくる。ここは水魔法を使って防御を!


『アクア・ベール!』


呪文を唱えるその一瞬で、ドラゴンは雷を吐き出していく。雷は光だ。こちらの詠唱が間にあう気がしない!!


「バリア・カウンター!」


見ると、さっき助けてくれた男性が防御魔法を先に繰り出してくれていた。その防御魔法は、相手の攻撃を跳ね返すようになっていたのだが、雷の魔法はそのドラゴンには通じなかった。まあ、当たり前か......。


『とにかく、ここは二人で行くわよ!』


「わかりました! クラフト! 先輩、これ差し上げます!」


そう言うと、ボサボサ髪の男はボウガンを繰り出した。


『ちょっと、矢がないじゃない!』


「あれ? 前もってませんでした? というか、錬成魔法で何とかしてくださいよ! こっちだって、相手の注意惹きつけてて大変なんすから!!」


そうはいっても、矢を作るだなんて......。

あれ、でも前に作ったような気がする。とにかく、リストを確認しないと。


『ステータス・オープン!』


アイテム一覧を見ると、矢がいくつか残っていた。

じゃあ、この矢にスライムの粘液を混ぜて毒矢にしてみるか。


『やったぜ! ポイズンアロー、いっちょ上がり!』


【シーランド】『お? ドラゴン弱点の毒を矢に塗ったのか。うまいね』

【酒バンバスピス】『ん? ドラゴンって前倒してなかったっけ?』

【大手れんちん】『は? 何言ってんだ?』


『ん? 他の人の配信で見たんじゃないの? とにかく、毒が弱点なのね? じゃあ行くぜ!!』


私はそのままボウガンに矢を乗せて引き金を引いた。矢はたまたまドラゴンの目に当たり大ダメージを与えていった。


『うぇ?! え、お、よし! 狙い通り!!』


「まだ、体力残ってますよ! トドメ刺しちゃってください!!」


『わ、分かってるっての! クラフト・コピー!』


私は、さらに魔法で複製した毒矢をボウガンで放ちながらドラゴンに近づいていく。ドラゴンは鈍いものの、こちらに攻撃しようとする意志はあるようだ。

その鋭い爪や翼の羽ばたきで起こる風を回避して、短剣をドラゴンの首元にある宝石に突き刺した。この感覚、なんか覚えてる気がする......。そうだ、ドラゴンはこの首元の宝石が弱点なんだ。でも、なんでそんなこと知ってるんだ?

ドラゴンは初めてのはずなのに......。


「やりましたね! ビキニ姐さん!!」


男が駆けつけてきたころには、ドラゴンはドロップアイテムとなり果てていた。


『やったね。えーと......そういや名前聞いてなかったね』


「僕、新人のビルドマスター・キルトと申します! 先輩に会えて、光栄です!」


『あ、ああ......。うん』


彼の言っている言葉に、違和感と納得感が両立して気味が悪い。

これは、彼と行動を共にしてこの気味悪さの正体を解明するしかないかも。













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