第33話
『いてて......』
瓦礫を押しのけ、起き上がるとダンジョンは荒れ果てた姿になっていた。
屋上から5階くらいは落ちてきたのだろうか......。見当たらないけど、お母さんや他のみんなは大丈夫かな......。
『他のみんなを探さないと......』
不安を胸に、私は夕暮れが照らすダンジョンを歩いていく。
だが、そこに駆けつけてくれた配信者はいなかった。
『みんな、どこに行ったの?』
【ドエロ将軍】『みんな、飛行魔法で安全地帯に避難してた』
【酒バンバスピス】『大丈夫そうだよ~!』
【元冒険者】『地上に降りてます! お母さんも無事です』
【user-70668turee】『宇津呂木 舞です。私は無事だから心配しないで』
『そっか......。よかった、少し寂しいけど......』
ただ、問題はあのドラゴンをどう攻略するかだ。ああ、考えてる間に起き上がっちゃったよ......。
『とにかく、ここは魔法で押し切る! フローラル・ポイズン!』
瓦礫の下の芝生から、紫色の花が開花していく。それをドラゴンが踏みつけると毒素のある鱗粉が宙を舞う。私はそれを吸わないようにしながら、ドラゴンの懐に踏み込んでいく。
『スパイラル・ショット!』
短剣を取り出して、その剣先に魔力を込めてドラゴンの腹部を切り裂く。
腹部にはさっきの毒素が付着していく。これで、毒素の進行が早まるはずだ。
「ぐあああああああ!? があああああ!!」
苦しみだしたドラゴンが地団駄を踏み出すと、周りが地震のように揺れ始めた。
私は一気に空中に飛び上がりそれを回避して、そのまま脳天に短剣を突き刺す。
『さっさと倒れろ! いけええ!!』
だが、ドラゴンは私を
勢い余り、ダンジョンから離れていってしまった。地面に吸い寄せられていく感覚が体全体に広がっていく。ドラゴンは疲弊した目でこちらを覗いてくる。
『こんなところで、死んでたまるかぁっ!』
あいにく、飛行の魔法は持っていない。
だが、落ちていく途中で私は止まった。
『あ、あれ? 私、生きてる......』
「90階から転落して死ぬ配信なんて、誰も見たくないですからね。屋上まで送ります! お姉様!」
ショートボブの髪を揺らす少女が、屈託のない笑顔でこちらに挨拶してきた。
その背中には大きなハンマーを背負っていた。
『あなた、もしかしてナナフシギチャンネルの?』
「はい! ナナです! 覚えててもらえて光栄です!」
ナナちゃんの肩を借りて宙を舞い、ドラゴンがいる元へと戻ると彼女はとっさにドラゴンを指さした。
「私、今魔法石使えないしドラゴンは魔法でないと倒せないから情報だけ託します。 ドラゴンの弱点魔法、それは神聖魔法です。さらにいうと、首元にある宝石見えますか?」
ナナちゃんの言う通り、目を凝らしてドラゴンの首元を見ると、禍々しい光を放つ宝石がドラゴンの身体の一部として存在していた。
『ああ。あれって、龍の宝珠ってレアアイテムになるやつだっけ。まあ、今の状態だとアイテム化できないけど......。それが弱点なのね』
「あそこに呪いが溜まっているので、光や聖なる祈りで浄化するのが盤石かと。じゃあ、私は地上隊の加勢にいってます。よろしくです~」
そう言うと、ナナちゃんは壁が破壊されたダンジョンからパラシュートを使って飛び降りていった。いや、すげーなあの子......。
『でも、有力情報も手に入れたことだし。本格的に倒しますか! じゃあ、試しにホーリー・スピア=レイン!』
ドラゴンの周りで光が明滅して、その後ドラゴンの頭上から槍状の光が雨のように降り注いでいった。ドラゴンはその光によって、禍々しい紫や黒の瘴気を出しながら苦しみだした。そして、ドラゴンはまたも黒い炎を口から吹きだした。
『ワンパターンな技構成ね。すぐに対応できるタイプでよかった。これで、終わらせてやる! ホーリー・スパイラル=アロー!』
弓矢に自分が注げる最大の神聖魔法を付与させて弦を放すと同時に放出する。
矢は弧を描いていき、ドラゴンの首元にある宝石に命中した。
「がああああああああああああっ!?」
頭を振り、悶絶しながら黒い瘴気を放つドラゴン。それは、しばらくして静かになっていった。そして、ドラゴンは消えていった。
『あっけない最期だったわね......』
\4,000【シーランド】『泣いた』
\5,000【酒バンバスピス】『いやぁ、すごいなぁ』
【名古屋こーちん】『外のモンスターが消えていってる!』
\30,000【元冒険者】『勇者ダンジョンビキニアーマー配信無双の誕生だ!!』
多くのスパチャと、たくさんの地域からの感謝のメッセージが流れてきた。
どうやら、事件は丸く収まったようだ。ネクロマンサーが討伐された証拠ともいえる。一人、ダンジョンの地に腰を落としているとスーツを着た人間が6人ほど飛行を使ってこちらまでやってきた。
『ん? なんだ......!?』
「配信を止めろ」
『え?』
「配信を止めなさい!!」
スーツの人たちは私から強引にドローンを奪い取り、強制的に配信を終了させた。
「え、な、なんなんですか?」
「我々は、ダンジョン協議会のものです。国土交通省ダンジョン開発庁の命によりこのダンジョンを封鎖しに参りました」
ダンジョン協議会、つまりこのダンジョンを運営してるかなり上の立場の人たちだ。
今更何をしに来たって言うんだ......。
「封鎖? でも、ダンジョンの異常事態の原因は排除しましたよ?」
「それでまた、非常事態がおきたらどうするんですか? あなたが責任、取れるんですか? 一国民に、それができるはずがない。ここは、我々が後始末をつけますので今後の展開についてはまた追ってご連絡します。では、こちらのカメラであなたを転送しますので、こちらに立ってください」
いかにも役人仕事と言ったパワープレイと、有無を言わせないしゃべり方。対話すらままならない。私は多くのスーツの人間に囲まれて無理やり立たされて、カメラの画角に体全体が映る距離まで運ばれていった。ぼおっとしていると、カメラのシャッターが押された。
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