第32話
『配信してんだ、負けられるわけがない!』
「ちょうどいい。貴様を殺して、希望はないとこの場で示してやる! ライトニング・デストラクション!」
ネクロマンサーが雷を纏って走り出す。私たちは、二手に分かれて挟み撃ちの形で魔法を打ち込んだ。
『ライトニング・スパイラル=クラッシュ!』
「アクア・スコール=サウザンドニードル!」
まずお母さんの水の魔法が針のように鋭い水滴がネクロマンサーに突き刺さっていくと、その水分に反応して私の雷の魔法がドリル状になってネクロマンサーの身体を突き抜ける。
「ぐっ! ......くくく。 最速で決着しようという算段か。 だが、大丈夫か? 魔法石は強力な魔法を打ち込めば打ち込むほど体力を消耗する。命が尽きても知らんぞ」
『どれだけダンジョン潜ってると思ってんだ......! それに、私のチャンネル名を知ってるか? 【ダンジョンビキニアーマー配信無双】......』
私は、着ていた服を脱ぎ捨てる。その下には、ダンジョンでいつも装備している引きアーマーを着ていた。これで私は、完全にいつもの調子を取り戻す。まあ、気合の問題なんだけど......。
『つまり、今の私は最強ってことなのよ!』
「根拠がない! それに、上級魔法はそんな薄っぺらなアーマーで出せるわけがない!」
『知るかボケェ! ビキニアーマー着て、配信してるから無双できんだよ! 食らえ! フレア・ナックル=バースト!』
「脆弱装備に倒されてたまるかぁっ!! アクア・ナックル=カウンター!!」
私達の拳と拳がすれ違い、私の拳はネクロマンサーの顔面にストレートに当たりネクロマンサーの拳は私の腹部に当たった。
「うわぁっ!?」
『ぎゃあっ!?』
二人は後からやってきた爆発に吹き飛ばされてそれぞれ違う方へ倒れていた。
「栞!!」
『お母さん......。ありがとう』
「しゃべらないで。今治癒してるから......」
お母さんがいないと、詰んでた場面も今思い返せば結構ある。
本当にこの人、最近ダンジョン始めたくせに私より全然慣れてる。
やっぱり、年の功ってやつなのかな......。
『よし。これでまた戦える』
「埒が明かないわ。栞、二人の魔法を合成するわよ!」
『前やったあれね。じゃあ私の掛け声で行くからね!? せーの!』
そう言って、私達は嵐を起こす魔法『ストーム・インパクト=テンペスト』を繰り出した。その呪文を唱えるとすぐに大空の雲が雨雲に変わり、竜巻に近い大嵐がドリル状になってネクロマンサーを襲う。
「合成魔法の最上級かっ!! ならばこちらも! ストーム・インパクト=テンペスト!!」
すると、ネクロマンサーの真上から私達の嵐とは逆回転をしている嵐が空から吹き荒れて来た。そして、私達が頑張って生成した嵐を相殺してしまった。
「ふぅ......。中々面白い! であれば、私も面白いものを見せてやろう! ネクロ・バース=スケルトン」
そう言うと、地面からガイコツの騎士であるスケルトンたちが、槍や剣を持って現れて来た。あいつは、仲間を引き寄せるタイプの上級モンスターかよっ!
「キリがないわ!」
『ネクロマンサーにさえ、たどり着ければ!!』
【袋】『今こそ、配信者が集う時!』
【和藤開運】『がんばってくれぇ!!』
みんながコメントし始めた瞬間、屋上の階段から足音が聞こえた。
足音は増えて、私達の周りにいたスケルトンをバタバタと討伐していった。
「その衣装、ビキニアーマー無双さんですね! 助太刀します!」
「雑魚狩りは私たちにお任せください! お母様も、こちらで保護します!」
『みんな......。ありがとう! お母さん。私、行ってくる! お母さんも、みんなと一緒に!』
そう言うと、お母さんは顔を背けた。多分、自分も一緒にネクロマンサーを倒したいのだろう。でも、これ以上はお母さんの単一魔法では厳しい戦いになる。
だから、ここは耐えて戦線を離脱してほしい。
「分かったけど、一つだけ。必ず、生きて帰ってきてね。......なんだか死亡フラグみたいだけど」
『それ言わないでよ、お母さん......。 フッ、フフフ。 まあ、緊張解けたからいいけど』
お母さんもスケルトン討伐組に加わっていくのを見届け、私は単身ネクロマンサーに向かっていく。
『これで、あんたと私の間に阻むものはなにもないわね』
「小賢しい人間どもめ。私の楽園を荒らすなぁ!! アイヴィ・バインド!」
植物のツタが私の目の前に生え始め、私の手足を掴もうとする。だが、私も炎の魔法で迎え撃つ。
『ファイア・サークル=ストーム!』
私が体ごと回転させると、その勢いで炎が竜巻状になってネクロマンサーを襲う。
だが、ネクロマンサーはその炎を吸収して自分のへと変える。
「言ったはずだ! 私は不死身だと! こんなぬるい攻撃で倒せると思っているのか! 貴様の魔法、すべて無効化して吸収してやる!」
『サンダー・スパイラル=インパクト!』
『アイス・エッジ!』
『ガイア・メテオ=シュート!』
私はただひたすら、呪文を唱えた。
ネクロマンサーが私の魔法を吸収したとしても、続けていった。
たった一つの勝ち筋に賭けて。
「無駄だと言っているだろ!! 頭がおかしくなったのか!? こっちその力で最上級魔法を放つことができるんだぞ!!」
そう言うとネクロマンサーは私に近づき、私のお腹に手を当てた。
『は、早い!!』
「死ね! エクスプロージョン・デストラクション!」
『この時を待ってた! お返ししてあげる! リバーシ・プロトコル!』
お腹に手を当てていたネクロマンサーの手を取り、握手するような形で魔力を逆流させる。さっきまで吸収された分も含めて、今の呪文をそのまま相手に返す魔法だ。
「しまった! ぐぎゃああぁあああああ!!!」
ギリギリのところで退けれたからよかったものの、ネクロマンサー自身が爆発に巻き込まれていたら私もひとたまりもなかったと思う。爆風で外に投げ飛ばされるかと思った......。スケルトンは皆吹き飛ばされたものの、助太刀に来た配信者たちは地面にうつ伏せになって無事だった。
『これで、お終いかな......』
ホッと一息つくのも束の間、爆風の煙からボロボロになったネクロマンサーが性懲りもなく自己再生をしながら私の前に現れた。
「ま、まだだ! これからが、本番だ......。私は、不滅で永遠なのだ! ドラゴライズ=カース!」
『それってまさか......竜の呪い⁉』
竜の呪い......。凶悪な竜へと変身する代わりに、命を奪うという呪いだったはず。
たしか、上級の中でも一部のモンスターが持つ第二形態用の魔法と聞いていたけど、本当に存在してたのね。だけど、逆を言えばこのまま倒してしまえば二度とネクロマンサーは蘇ることはない。
『あんた、バカね。魔王ってのはね、竜に変身した瞬間負けなのよ。これ、ファンタジーの常識』
「ぐあああああああああああああ!」
意思疎通することもできず、竜となったネクロマンサーはただ私を見つめて黒い炎を吐き出していく。私は、それをかわしつつ水の魔法で彼の大きな翼を切断しようとした。
『アクア・カッター!』
ドラゴンは、翼を失い地面に墜落していく。屋上が彼の体重に耐え切れず数フロアが潰されていく。私もそのまま落ちて行く。
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