第35話
まだ配信も続けられそうなので、私は謎の青年キルトと共にダンジョンを巡ることにした。彼の言動は、意味不明なのに少し真実味をも感じる。それは、彼が嘘を付いているようには見えないと言うのもあるのだろうか......。
『ねえ、キルト。あなたの言ってたこと、もう少し詳しく話してくれない? 私のチャンネル登録者は今、5000人しかいないのにどうして100万なんて突拍子もないこと言ったの?』
「突拍子も何も、配信見てましたもん。でも、この話しても先輩と同じように、誰も信じてくれないんですよね。一部の人は配信を観たって言ってるんですけどね?」
『何の配信?』
「そりゃ、ダンジョンの管理人を討伐するっていう激熱イベントですよ。いや、実際にヤバいことになってたような気がするんですけど、その辺僕もあいまいで......」
『そんなのやったことないわよ? ねえ?』
コメントに聞いても仕方ないけど、なんとなく聞いてみるとほとんどの人は知らないと言っていた。だが、数人はなぜかその存在しない記憶を持ち合わせていた。
【酒バンバスピス】『俺もその配信どこかで見た気がする。このチャンネルかどうかまではハッキリ覚えてない』
【ころころころね】『やっぱ違う人のこと言ってるだけだって』
「みなさんも、そう思いますか......。じゃあ、他にも僕と同じように記憶を持っている人がいないか探してみましょう! いいですよね? 姐さん」
『私はいいけど、みんなついてきてくれる?』
【シーランド】『面白くなってきた』
【ジョニー・チップ】『悪くないだろう』
【ローコスト】『いいんじゃね? 別に俺らは面白いもんみれたらいいし』
『じゃあ決まりね。早速、他の配信者たちに聞き込みに行ってみましょ』
とりあえず、私達は今いる44階のまわりを探索しては近くにいた配信者に声をかけて回っていった。だけど、そこにいた人はすべて首を横に振って知らないと言った。
さらには、私達をイタい配信者かのように見つめる始末だった。これ、私にとってだいぶマイナスなんじゃね? いや、でもこのモヤモヤを抱えたまま、またダンジョン配信するのもいやだ。
「上の階に行ってみましょう。とりあえず、大ボスのいる90階にいけば人もたくさんいるでしょうし」
『そうね。賛成』
まあ、うまくこの企画が回らなかったら90階のボスを倒せばいい話だし......。
まあ、倒されてなければいい話だけど。取れ高のない配信に不安を感じながら、私はエレベーターのボタンを押した。
『あなたの話だと、私が強敵との闘いを配信してたって話だけど......。どうしてその記憶が無くなってんの?』
「それは、わかりませんけど。とにかく、90階に着いたんで話聞いてみましょう」
90階にたどり着くと、急に音楽が鳴り響き始めた。
こんなダンジョンあったっけ? 音楽は人一人の声を遮るほど強く、大きくそして踊り狂えと言わんばかりのリズムが響き渡る。天井にはこれみよがしにミラーボールが設置してあった。
『あー、なんか会場間違えてない? ここ、ダンスフロアだけど?』
「ここでは! ダンスミッションで大ボスを倒すんです!!」
私が耳元で何とか囁いて話すと、キルトは周りで聞こえる音楽に負けじと大声で返してきた。......うるせぇ、と思いつつもダンスミッションか。面白そうなダンジョンだ。フロアを歩いていると、派手なサングラスやアクセサリーを付けたオークがこちらに歩み寄ってきた。
「YO☆! また新たなダンスパフォーマーが来たみたいだぜメーン☆!?」
うわ、なんだこいつ。陽キャの化身か?
こんなん、人間でも声かけられたくねーよ。
『いや、私達知りたいことがあって』
冷静にかつ相手に伝るように大声で返すと、私の声量の3倍くらいの大きさで返してきた。
「なら、うってつけだZE☆! このフロアのダンスパフォーマーたちを負かしてフロアマスター『ロッキン・コング』を倒せば、願いを一つ叶えてくれるZE☆!」
なるほど、尚の事このダンス対決を受けるしかないってわけね。
中々配信向きのコンテンツになってきたじゃない!
『わかった。このダンジョン、受けてたとうじゃないの! さあ、そのドッキリコングとやらを出してきなさいよ!』
【ジョニー・チップ】『ロッキン・コングな』
【ころころころね】『ドッキリコング......wwww』
「HEY! ただでキングに合わせられないぜ? 俺達ダンス四天王を倒してからじゃないと、合わせてやれないZE!!」
キングの前に4人も倒さないといけないのかよ! めんどくさ!
ここは、一人倒して残り3人は配信外でやるか......。
『わ、わかった。じゃあ、その四天王とやらを出してきなさいよ』
「OK! まず初めは、こいつだ! さすらいのタップダンサー! ケンタウロスのクレイジー・プルバック!」
オークが紹介すると、オークの背後から上半身にタキシードを着たケンタウロスがハットを持ち上げてこちらを睨みつけて来た。
「ボクの、フォース・フィート・タップについてこれるかな」
『なんかクセ強そうなやつでてきたな......』
「姐さん大丈夫ですか? タップダンスなんて。そもそも、ダンスやったことあるんです? 僕はやったことないですからね!?」
『キルトの出番はないから、安心しなさいな。私、こう見えてダンス......小学生の体育で習ったから』
【シーランド】『そのレベルで自信満々とは......』
【袋】『義務教育のやつじゃねえか』
【ころころね】『配信終わりかぁ?』
「あ、もう駄目だ......。おしまいだぁああ!」
キルトの叫びをよそに、私とケンタウロスはダンスをするため特別ステージまで行った。そこで私たちは向かい合わせになった。その瞬間、周りの音楽が消えて別のダンスミュージックが聞こえ始めた。
「これはフリースタイルだ。だから、お互いに全力でぶつかり合おう!」
話している間も、ケンタウロスは自分のひづめをリズムに合わせて打ち鳴らして華麗に舞っていく。対して、私は体を揺らすので精一杯だ。
『そのフリースタイルってのがわかんないけど、要は踊ればいいのよね? 別にあんたのタップに合わせなくていいのよね?』
これでまったく知らないタップをやらされるだなんて不利だ。
頼む。フリースタイルっていう意味がそういう意味であってくれ!
「いいよ? でも、ボクをアッと言わせてね?」
ケンタウロスは私の踊りを一通り見ながら鼻で笑いながらタップのリズムを加速させていく。私も、なにかやらなくちゃ......。踊り......。いや、これはダンジョンだ。実際の踊りでなくていい。私は、武闘スタイルでこのステージを攻略してやる!!
『ファイア・スピン=タイフーン!!』
ダンジョンで鍛え抜かれた体幹で、私はステージ上を回転した。その腕には炎を纏い、演出として煌びやかに舞っていく。そして、ケンタウロスに攻撃を仕掛ける。だが、それも見抜いていてケンタウロスは飛び上がって私たちの立ち位置を無傷で入れ替えた。
「面白いねぇ。ダンスの知識がない分、武闘演舞スタイルに変えたってことだね。でも、他のダンジョン配信者も同じようなことをやってきた。だから、あまり新鮮さはないねぇ~。さぁ! ダンスを続けようか!!」
くそ、他にもいたのかよ! このスタイルは......。
だけど、さっき彼は面白いって言ってくれていた。だから、もうこのままこのスタイルで攻めまくるしかない!!
『なら......。私もタップダンス、やるしかないなぁ!』
ダンスのリズムに合わせて、私は履いていた靴でステージを踏み鳴らす。
リズムをきざみ、腕を振り足を軽快にあげたりしてみた。
「ほう、意外とやるじゃない......。なら、これならどうだ! ジャックナイフ!」
ケンタウロスは四つの脚をすばやく打ち鳴らしていった。すると、その音が衝撃波の刃となってこちらを攻撃してきた。私はすぐさま前方へ宙返りしてケンタウロスに短剣を振りかざていく。
『あんたも攻撃してくんのかよ!!』
「君が攻撃を仕掛けてきたのが悪いんだよ? でも、こういうバトルも楽しいねぇ!」
『いい加減、認めたらどう? 私のダンス、案外イケてると思うけど?』
「まだだ! いや、正確には合格だがもう少し君の成長を見届けたい! 初めてにしては筋があるからねぇ!!」
え、じゃあクリアでいいじゃない!!
私、いつまで踊らされんのよぉ~!
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