第29話
新幹線はやっとのことで東京都、品川駅に到着した。自由席も満杯で、指定席まで通勤ラッシュみたいに人がいてかなり疲労したけど……。
東京駅で降りちゃったし、もう高輪まで行ってしまおう。
「どうせ新幹線以外の電車もろくに運転してないだろうし、タクシーで行くか」
タクシーをなんとか捕まえて、高輪まで運転してもらう。だが、タクシーや車の横行をユニコーンが邪魔をしていた。道路は完全に渋滞してしまい、立ち往生。
「ちょっと待ってて。すぐ、発進できるようにするから」
タクシーの運転手にそう言い残し、私はタクシーを降りた。そのまま短剣を取り出してユニコーンに投げつけた。ユニコーンの足元に刺さり、ユニコーンはこちらを振り向いた。
「ハイドロ・スマッシュ!」
拳を振りかざしたと同時に、濁流がユニコーンを襲った。ユニコーンは足元を掬われて流されていった。当分、これでユニコーンと会うことはないだろ......。
「お待たせしました~。じゃあ、引き続き高輪ダンジョンまでよろしくお願いします......」
「え、ええ」
タクシーの運転手は怯えたような声で車を走らせていく。
それから数十分、高輪ダンジョンの手前あたりでまた渋滞の列に妨げられた。
「今度はなに?」
「う、うわああ!!」
タクシーの運転手の叫び声に驚きながら、後部座席から身を乗り出してみて見ると巨大なゴーレムが道の先でこちらの方角に方向を変えて向かって来た。
「まじかっ!!」
タクシーの運転手は私を置いて、車を乗り捨ててしまった。
ちょ、ちょっと料金どうすんのよ! これで、私未払いで訴えられるの嫌だからね!?
「踏みつぶされる前に、討伐しておくか......」
タクシーを降りてゴーレムの方へ向かおうとすると、ゴーレムの注意を引き付けている人に気付いた。あの人、なにやってるの?
「え、お母さん?」
ゴーレムに手を振り、なにかものを投げながらこっちに向かって女の人が来ていた。白い肌に薄化粧。美人そうなのに大きくハートマークの付いたダサいパーカー。あのファッションセンス、どう見ても私の母親である宇津呂木 舞だ。それに母親は困ってる人を助けたりする性分だし間違いないけど......。
「お母さん、こっち!!」
「え!? しおり!? ひさしぶ」
「挨拶は後! 伏せて! エアロ・カッター!!」
お母さんを私の方へ下がらせて、私は風の魔法をゴーレムに当てて後退させようとした。だがゴーレムはのけぞりながらも、まだ歩みを止めなかった。
「しおり、あんたもダンジョン探索者なの?」
「あなたもって......。まさか!?」
言いかけると、お母さんは自分のバッグから探索許可証を取り出してきた。
さらには、折り畳み傘のようなピンク色のなにかを取り出した。
「そうなの! 私も最近ハマってるの! ダンジョン探索! だから、私も戦えるわよ! 折り畳みマジックステッキ! からの~、ファイア・ボール!」
平成アニメから飛び出してきたような、コテコテの可愛げな魔法の杖から巨大な炎の弾が発射される。だが、目の前のゴーレムには炎耐性があったようでビクともしない。硬いモンスターにありがちなのよね。最大火力を出せる火属性魔法に耐性を持ってるの。
「もう、お母さんは下がってて! 私がやるから!」
「娘だけを危険にさらす親がどこにいるってのよ!」
「そう言うことじゃなくて! 観たでしょ? こいつ、火属性耐性があるの! その魔法石じゃ倒せないっての」
すると、お母さんはバッグをごそごそと探し始めた。その間も、ゴーレムは私達にむけて頭部から破壊光線を発射する。
「あっぶね!! ちょっと、お母さん!?」
「待って......。あった! 水の魔法石! ストーンチェンジ! ミラクル・ヒーリング=バリア!」
お母さんは魔法の杖に着いていた魔法石を取り換えて、今度は水属性の魔法を繰り出した。その魔法は私たちをベールのように覆っていた。その中にいると、なんだか元気が湧いてくる。魔法石の魔力も回復してる気がする。
「大丈夫? そんな上級の魔法使って」
「大丈夫。お母さん、魔法には自信あるんだから」
話していると、ゴーレムがこんどは腕をこちらに向けて岩石をミサイルのように打ち出してきた。だが、お母さんの張った水のベールによって防御されていた。これって、防御結界と回復魔法を同時にこなしてんの? めちゃくちゃやりこんでるよ、この母親よ......。
「お母さんばっかりに、いい顔させられないな。これは」
私はバリアの外に出て、先ほど溜まった魔力を使って右拳にその大半を注いだ。
魔力を握るイメージで、そのまま私はゴーレムにとびかかる。
「スパイラル・インパクト=ナックル!!」
ゴーレムの頭部に思いっきり拳を突きつけた後、魔力を一気に解放。貫通魔法を付与した影響もあり、ゴーレムの頭部は完全に破損した。だが、頭部のほとんどを失ってもゴーレムは動き出して私の身体に向けて腕を振り下ろしてきた。
「ぐはぁっ!!」
地面に叩きつけられたのか......!
一瞬水の魔法で衝撃を吸収したから意識は持っていかれなかったからよかったけど......。動けそうにない......。ゴーレムの腕が私の頭に確実に近づいているのが見える。
「しおり!!」
母親の声が響くとともに、彼女は私の前に飛び出して水の魔法を使ってゴーレムの攻撃を阻止していた。さらに、水の張力を使って跳ね返して見せた。こんなの『自信がある』レベルじゃねえよ。私より使いこなしてんじゃないの?
「栞、大丈夫?」
「う、うん......。なんか、かっこ悪いとこみせちゃったね」
「そんなことないわ。あんたは、いつでもかっこいいわよ。親バカだからね」
おでこを小突かれ、互いに微笑みあった。お母さんのその時してくれた魔法は少し暖かかった。
「さて、親子二人であのクソでかゴーレム倒すわよ!」
「うん。でも、まだちょっと立てないからこのままで」
座り込んだ私は、右手を挙げた。それに添うようにお母さんが手を伸ばす。
二人で合わせて、ゴーレムを倒す。
「嵐を起こす魔法を使うから、お母さんは水の魔法を思いきりやって! 私が残りを担当する!!」
「大丈夫?」
「大丈夫。魔力は半々ずつだから! いくよ! せーの!」
『ストーム・インパクト=テンペスト!!』
二人の息の合った呪文で、晴れた空は途端に雨雲に変化していった。雷がゴロゴロとなり始め、小さな嵐がゴーレムに向かっていく。まるで削岩機やドリルのような鋭さとパワーで動き続けるゴーレムを砕いていく。そのせいか、小石や雨粒がこちらにも飛んでくる。しばらくすると、ゴーレムが消失して嵐もやんだ。
「やった......。これで、ダンジョンにいける」
「おつかれ、しおり」
もぬけの殻になった車両が並ぶ道の真ん中で、私は子供の頃のように母親の膝の下で眠った。
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