ダンジョンの謎と真の目的
第26話
大阪ダンジョン近くには、探索者たちが泊まれるホテルがあるみたいだ。名前は『サロン・ド・和鮮』。そこには、私以外にも探索者が宿泊していた。そこは、ダンジョンで一定の報酬を受付に渡している限り宿泊できる。外出も可能で、全部探索免許証が管理している。これ、便利アイテムすぎない?
「初めての大阪だし、ダンジョンばっかり行くってのも目が疲れるし観光にでも行くか」
ドローンもなく、ビキニアーマーもない。ダンジョン以外で外に出ることなんて想像もできなかった。旅行なんて行くことないし、ここは楽しまないとね。
「大阪と言えば、やっぱ食い倒れっていうくらいだし食べ物のイメージかな。後は、なんかあるっけ......」
とりあえず、面白そうな道頓堀ってところに行ってみよう。
道頓堀にいくには、なんばっていうとこが一番近いらしい。いいじゃん、大阪っぽくなってきた。
「こういうのも、ちょっとダンジョンみたいね」
地下鉄に乗り、なんば駅に降りて数分。テレビでよく見たゴリコのマークが私を出迎えてくれた。さてと、じゃあお好み焼きでも食べようかな。
「いや、タコ焼きもありだな。やっぱたこ焼きにしーよう!」
私は、タコ焼き屋に思考を変えて近くのチェーンっぽくなさそうな屋台の中に入った。時間はちょうどお昼時。楽しみだな。
「たこ焼き10個! ソースでお願いします!」
「はいよ!!」
タオルを巻いた笑顔の似合うお兄さんが爽やかに対応してくれた。
もっと強面のおじさんが出てくるかと思った。お兄さんは綺麗にタコ焼きをひっくり返していっていた。屋台の中の椅子に座り、タコ焼きが上がるのを待つ。
「あいよ、姉ちゃん。たこ焼き10個ね」
「あれ、1個多い気がするけど」
「いいの、いいの。可愛いから1個サービス」
マジでこういうことあるんだ。私は可愛く感謝を伝えて、手を合わせた後割り箸でたこ焼きをつつく。たこ焼きなんて、いつ食べただろうか。もしかしたら、初めてかもしれない。
「うほぁあ~。うめええ!」
柔らかい生地の中におおぶりのタコが入っていて、それが歯ごたえがあっておいしいんだけど一番不思議なのは紅ショウガだ。ピリッと主張していても、他の味を崩さないでいる。やっぱ、本場ってすげえ!!
「おいし~」
感傷に浸っていると、何やら外が騒がしくなってきた。火事やらなにかだろうか。
そのざわつきは、このたこ焼き屋についたテレビを見てなんとなくわかった。
『明日リニューアルオープンを控えていた東京ダンジョンから、突如としてモンスターが脱走しました。これは、異例の事態だとし政府は緊急会議を開いているようです』
テレビの生中継だろうか。東京のダンジョンが映っているけど、受付へ向かうゲートがボロボロになってる。一体どうやって抜け出したんだ。たしか、ダンジョンの中って巨大な防御魔法が張ってあって、それのおかげでモンスターが外に出れないって言ってたような......。でも、それって東京の話でしょ? 大阪は関係なくない?
「う、うああああ!!」
引き続きたこ焼きを端の擦るも、今度は外から悲鳴が聞こえ始めた。
もう、なんなのよ......。
私は、呆れてたこ焼きを持ったままようやく外の様子を見始めた。
すると、そこには血相の悪い人間が他の人間を襲っている光景が広がっていた。
「え? なにあれ......」
困惑するも、うまいたこ焼きの前には箸は止められずにいた。しばらくすると、血相の悪い人間は増え始めて人間を襲っていった。もしかしなくても、これってゾンビってやつじゃ......。
「ゾ、ゾンビだー!!!」
「ぎゃああああ!!」
「け、警察!!」
「慌てず、避難してください!! とにかく、あの襲ってくる人間の居ない方へ!! あ、ああ!! うあああああ!!」
様々な阿鼻叫喚が、大阪を包み込んでいた。そして、ようやくさっきのニュースの続報が駅内の画面から音だけが洩れてきた。
『速報です。先ほど、ダンジョン外における探索許可証の持っている冒険者、探索者の帯刀と魔法の使用許可が閣議決定されました。探索許可証の持っている方は、市民避難のためご協力を要請すると防衛省より通達がありました。これは、日本の歴史上異例の事態と言うことになります』
音の方へ向かいテレビを見つけて確認すると、政府の偉い人が会見を開いてる様だった。実感湧かなかったけど、これは本当に起きていることのようだ。
私は、急いでダンジョンホテルに戻ろうと、地下鉄を利用した。よかった。まだ交通機関は麻痺してないみたいだ。臨時運転だけど......。そのままゾンビの軍団をかいくぐってホテルに置いていた魔法石のついたガントレットと短剣を取り出して外へ繰り出す。
「よし、まずはこのあたりのゾンビを倒したら道頓堀に......。行けたらいいけど」
ホテルの外には逃げ惑う人たちと、それを追いかけるゾンビたちでカオス状態になっていた。私は、他の探索者や冒険者と同じように剣や魔法でいつもの調子でゾンビを討伐していく。
「他の人に迷惑をかけない。これがダンジョンの嗜みだもんね。それが、ルールだもん」
自分に言い聞かせながら、短剣で梅田駅のリアル地下迷路の中にいるゾンビを沈黙させていく。その中で、他人も助けていく。それが今、私のできることだ。
「早く逃げて!」
「で、でもどこに......」
ゾンビに襲われていた人は涙ぐみながら吐露する。
私だってわかんないわよ。この辺よく知ってるわけでもないし......。
「いいから、ここじゃないとこによ! 私らは消防隊とか自衛隊じゃないから、避難所はプロに聞いて!!」
「は、はい!!」
ちょっと、言い方キツすぎたかな。でも、今はもうそんなこと言ってられない。
私はゾンビたちをなるべく他の人たちを襲わないように短剣や小規模な魔法を使って討伐していく。当然、ダンジョン外だからアイテムがドロップするわけもなくゾンビたちは消失していく。
「一体、何が起きてんのよ......」
地下街のゾンビを退治しながら、地上へ登っていく。
地上のあらゆる電子広告はテレビのニュースに置き換わっていて世界の終わりかのようだった。所々火事みたいなこと起きてるし、リアル世紀末ってやつね。
地上の探索者たちと合流しつつ、ゾンビたちを討伐しようと人の群がっている方へ向かおうとしたら、またニュースが流れた。ただ、今度の画面は東京のダンジョンのように見えた。そして、そこに映っていたのは青白い肌に赤く鋭い目をした男が立っていた。誰だ......。
『ダンジョンという異物を受け入れた諸君。私が開催した大規模イベント【人類殲滅ゲーム】をお楽しみいただけているかな? 私はダンジョンの管理人、ネクロマンサーという。以後お見知りおきを』
「ネクロマンサー!? あのひょろガリおじさんが? 耳も尖ってるし、全然容姿違うじゃん!! あいつ、マジで上級モンスターだったのか」
唖然としている中、ネクロマンサーは魔王のごとく禍々しい座椅子に足を組んで座り再び語りだした。
『まず初めに言おう! ダンジョンは、君たち人類を楽しませる娯楽ではない!
私の楽園なのだ! 私が異世界で生きるため、他の魔族を増やして環境を私の世界になるよう整えてきた。 それが、君たちの言う高輪ダンジョンだ』
それって、少なくともネクロマンサーは異世界から来た生物ってことか?
他のモンスターも、私達のこの力も異世界のものっていうことでいいのか?
かんがえているうちに、またネクロマンサーは一方的に話し続けた。
『だが、我々は繁栄しすぎた。だから、私は人間の侵入を許した。私は、同胞を見殺しにしていたのだ。だが、それは間違いだと悟った。ダンジョンの中で暮らすのはもう終わりだ。今、この時を持って宣言する! 我々魔族は、この世界の侵略を開始すると!! 今こそ立ち上がれ、我が子たちよ! 憎き、悪しき人類を! 探索者を! 冒険者を! すべて、滅ぼせ......』
プツリと画面が途絶えたかと思うと、頭上からものすごい速さでドラゴンが上空を飛び立っていった。何か持っていたような気がするけど......。
瞬間、ドーン! ドーンという爆発音と共に、火の粉が舞い散ってくる。
「やっば......」
上空のドラゴンが持っているものを落としていくたびに、大阪の街は火の海になっていった。ってことは、あれは爆弾? まじか......。
「戦争じゃん......。こんなの」
私は、地上のゾンビの掃討を諦めて人命を優先して地下へと逃げていった。
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