第23話

「さて、配信続行と行きますか!」


車どおりも、人気もない。それに、いつまで経っても落ちない夕陽から見るに、このダンジョンは時間が止まっているのかもしれない。駅から離れ、あぜ道をまっすぐ歩いていく。例のダンジョン案内犬のコマイヌも一緒だ。


「配信というのは、いつやるのですか!?」


コマイヌは不思議そうな目でこちらを見つめる。

言われなくても今準備してるっての。私は、ドローンを飛ばし始めた。


「これからやるのよ」


「へー、これで世界中の人に配信しているのですね!!」


『こら! 画角に被らないの!!』


【寺井戸麗】『もどして』

【おふとりさま】『こま犬アップもっと見せろ』

【袋】『言われてるゾ』

【ドエロ将軍】『小生このままで! このままで! あああああ!!』

【酒バンバスピス】『俺達は姐さん見に来たんだよ(憤怒)』


「く~ん......。こめんととやらは怖いです」


『え? なんでわかんの? 私のイヤホンからしかコメントは聞けないはずだけど?』


「コマイヌはかしこいので、配信のこめんとは理解できるのです! いつでも読み取れるのです! あ、スパチャありがとうなのです!」


『あああああ! それ、私の台詞!!!』


こ、この犬に配信が乗っ取られる!! は、早く勾玉を探さねば!!

私は走り出し、山の方へ向かった。山の方へ行けばなにかしらの怪異と遭遇するでしょ!!


「ア”、ア”ア”ア”ア”......」


山道の方へ歩いていくと、なにやらくぐもった奇声が聞こえ始めた。

なにかが、こっちを見ている。でも、どこにいるかわからない。


「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!!!」


山道脇の茂みから見えたのは、くねくねと揺れ動く影だった。影と奇声がどんどん近づいてきて、大きくなる。こっちに近づいてくる!!


『な、なんなのこいつ!!』


顔と言うものがなく、頭にはうずまきのようなものがうごめいていた。

八尺様とは違う、別の邪悪さを感じる。とにかく、距離を取らないと!!


『サンダー・クラッシュ!!』


雷が横一線にそのうずまき野郎に轟いていく。うずまき野郎は、雷を浴びてしばらく麻痺して動きを止めた。


『なんなの、こいつ......』


「あれは、クネクネと呼ばれるものなのです! あの方にも勾玉を奪われたのです!!」


私の肩に乗ってびくびくと体を震わせてコマイヌが語り始めた。こいつ、マジでかわ......だめだだめだ! かわいさに惑わされるな! こいつはチャンネルを奪いかねない強敵! さっさと追い返す!! そのためには、あのクネクネだっけ? あいつを倒さないと!


『クネクネが動き出した......。とにかく、近づかれたらまずい気がする。魔法で倒しきるしかない! ファイア・バースト!』


炎の柱が自分の拳からまっすぐクネクネの方へと伸びていく。

ただ、クネクネはどうも体力バカなのか中々瀕死にまで持っていけない。


『一体いつになったら倒れんのよ! こうなったら! フローズン・エッジ!』


魔法を唱えるとクネクネの足元から凍り付いていき、ついには全身が凍り付いて行った。でも、これやると私頭痛くなるからやりたくないのよね......


『いててて......。でも、やった甲斐はあった! このまま、壊す! エクスプロージョン!』


爆破魔法と共に、氷漬けになったクネクネを殴るとすぐに氷ごと散り散りになっていった。クネクネは見事消滅してまたしても勾玉が出てきた。


『よし、二つ目ゲット!』


【おふとりさま】『こま犬ちゃん、やったね!』

【袋】『おめ~!!』

¥500【ローズ】『コマビキコンビ一生続いてほしい』


『スパチャありがとね~。でも、この二人のコンビはここで見納めだから!』


私はコメントを返しながら、さらに山の上の方へ向かった。しばらく行くと、山道のど真ん中に箱のようなものが置いていた。


『宝箱? こんなところに?』


「開けてはダメなのです! これは怪異なのです!! これはコトリバコなのです! 勾玉は箱の中なのです!!」


『え? じゃあ、開けて取ればいいんじゃないの?』


私が箱を取り上げようとした瞬間、目の前が真っ暗になった。

ここはどこ? もしかして、私......死んだの?


「まずいのです! 箱の中に閉じ込められたのです......」


コマイヌの声が聞こえるってことはどうやら、まだダンジョンの中のようだ。

私は闇の中、炎の魔法で周りを照らして歩いていく。少しすると、遠くの方にぼんやりとした明かりが見えた。


『あの辺になにかある......』


「行っちゃだめなのです!!」


コマイヌの言葉は聞こえていた。でも、身体がそっちに吸い寄せられていっていた。

光源が近づくにつれ、その吸い寄せられていく方向に蛇のようなものがいることに気付いた。そいつは、私を獲物を見える目で見つめていた、危機を察知して、周りを照らしていた炎を引き寄せられていく方へ打ち放った。すると、上半身が女で下半身が蛇の怪異がそこに立っていて光に怯えていた。



「ぎゃああ!!」


『犬! あいつ、誰?』


「犬ではないのです! あれは、姦姦蛇螺ゴルゴンなのです! この箱のヌシなのです!!」


ゴルゴンって、さっきまでの和風要素はどうしたのよ! もうこのダンジョンネタ切れなの!?


『まあ、なんでもいいけど! アクア・カッター!!』


円盤状に薄くなった水の塊を高速回転させて、ゴルゴンに向けていくつも解き放つ。ただこれ、かなり近距離じゃないと戦えないのよね!


「ぐあああ!? ぐああああ!!!」


ゴルゴンは、傷つきながらもこちらにしっぽを使ってなぎ倒してきた。


『きゃぁ!!』


さすがに暗闇に目が馴れていない私にはこのフィールドは不利か......。

魔力もさっき使いすぎた反動か、うまく制御できない......。


¥3,000【おふとりさま】『がんばえー!』

¥2,000【酒バンバスピス】『がんばれー!!』

¥5,000【ドエロ将軍】『照らせーーーー!!』

¥10,000【ぐわんぐわん】『ぶっ倒せ!!』


倒れる私に、応援して支えようとしてくれるコメントが聞こえてきた。

私、こういうのにはたとえ体力も魔力もつきそうになっても応えたくなっちゃうのよね......!


『やってやるわよ! 明るく照らせ! ザ・シャイン!!』


閃光が手元から強く輝きだす。ずっと暗闇にいた彼女ゴルゴンは、私の比にならないくらいに怯え、ひるみ出した。一瞬の隙をつき、私は短剣を取り出してその蛇の身体に突き刺した。


『これで終わりよ!!』


「ぐあああああああああああああ!!」


ゴルゴンは悲鳴をあげて、その身体が塵となっていった。その影響か、暗闇だったこの領域も消えて行ってさっきいた山道へと戻ってきた。山道に落ちていたコトリバコも同じく塵となって消えていく。その中、勾玉がその場所に出現した。


『よし!』


「やりましたね! これで3つめなのです! 残るは2つ。この調子なのです!!」


『ええ、先を急ぎましょうか』


「はいなのです!」


私はコマイヌを肩に乗せて、そのモフモフを撫でながら山の方へ向かっていった。


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