第22話

 年末の帰省ラッシュの新幹線。私は自由席の人込みに圧倒されながら2時間くらい揺られて、配信用の荷物を持って大阪に来ていた。

ここには、ついにグランドオープンした新ダンジョンがあるという。

で、どこにあるんだっけ? 私は前回もらったチラシに目をやる。


「梅田の8番入口......? 出口じゃないの?」


私は地下を歩いていき、なんとか8番と書かれた入口を探す。

梅田周辺って迷いやすいって聞いてたけど、たしかに入り組んでんな......。


「あ、あった。って、これ鳥居だけど大丈夫?」


【8番入口】と黄色い看板に書かれた先には、鳥居が数十個びっしりと並んでいた。

確かに、異世界っぽいな。鳥居の先へ行くと、一人の女性が両手を前に組んで立っていた。


「おはようございます。お参りですか?」


チラシにも書いてたけど、合言葉があるらしい。

私は即座に答える。


「いや、お宮魔入りで」


「かしこまりました。それではどうぞ」


そういうと、女性は右手の扉を開けた。

扉の先は、ダンジョンの受け付けとなっていて男性の受付が立っていた。


「ようこそ、異界ダンジョンへ。探索許可証はお持ちですか?」


「東京のやつでも大丈夫です?」


「ええ。すぐに確認します」


そう言って、私が渡した探索許可証をパソコンに読み取り始めた。

すると、すぐに照会が取れたのかものの数秒で返却してきた。


「宇津呂木様。当ダンジョンは初めてですが、ご説明をお聞きになりますか?」


「基本的には変わらないでしょ?」


「ええ。ですが、当ダンジョンは東京のタワーマンション型ではなく異界転送型となっております。ですので、どの異界へ行くかは完全にランダムとなります。ですが、ご安心を。どの異界でも、確実にここへ戻ってくることができます」


「ほーん。よくわかんね。ま、いけばわかるでしょ?」


「そうですね。東京でのプレイ時間もプロ並みですし、宇津呂木様でしたら習うより慣れろだと思います。探索服に着替え終わりましたら、お好きなシャトルへお乗りください」


私はワクワクとした気持ちで、更衣室に向かった。

必要なものだけを鞄につめて、私は新しく買った青色のビキニアーマーを装着した。ガントレットには、赤や青の新品の魔法石がちりばめられていて輝いている。


「心機一転、がんばりますか!」


意気揚々と更衣室を出て、いざシャトルに乗り込むぜ!

シャトルと言うからには、やっぱりスペースシャトルとかそういうのかな??

好奇心が膨れ上がりそうなところで、私は立ち止まった......。


「こ、これがシャトル?」


シャトル乗り場には、機能性と移動だけに特化したような人一人が寝転んで入れるくらいの黒い箱が並んでいた。これじゃ、棺桶じゃない......。私が近づくと、シャトルの天面が開いて乗り口が見えた。私はそこに、寝そべった。するとすぐに天面が閉じゆっくりと発進していった。


「うほおおおおおおお!!!」


次第に速度が速くなり、景色の見えないまま数十分で乗り物が止まってまた天面が開いて光が差し込んできた。私はまぶしさに目を細めながら、異界の大地を踏んだ。


「ここが、異界??」


到着した場所は、どうやら線路の上だった。しかも、駅にちょうど止まっていた。

私はその無人駅のような場所へよじ登った。


......こ、これって......!?


「きさらぎ駅じゃん......」


まさか、いきなりベタな異界にくるとは思っても見なかった。

私は早速ドローンを飛ばし、配信の準備を始めた。


『チェック、チェック......。みんな~。これ、配信できてる? 音聞こえてる?』


私はドローンに向かって手を振ってみた。すると、イヤホンからコメントが読み上げられてきた。


【袋】『おつでーす』

【酒バンバスピス】『年末って、もう早くないですか?(威圧)』

【ドエロ将軍】『クリスマス配信無かったけど、一人で過ごしてた?(煽り)』


『クリスマスのことはいいから! 今日はダンジョンで年越し配信するから! はい、始めるよ! おはビキニ! ダンジョンビキニアーマー配信無双です! 今日は、巷で話題の大阪の新ダンジョンに来てます! というか、今きさらぎ駅っす』


【シーランド】『ファッ⁉』

【猫は液体】『きさらぎ駅ってあの?』

【生茶】『大阪にようこそ! 歓迎するやで!』


コメントもかなり動揺が目立つ。そりゃそうだ。私だって、困惑してる。

ただ、困惑よりも好奇心や高揚感が勝っているのも事実だ。

私は、きさらぎ駅から降りて田舎のような原風景を歩いていく。

日本のどこかにありそうなんだけど、それが絶妙に気味が悪い。

モンスターとも遭遇せず、歩いていると数メートル先に白くて大きななにかが道の真ん中に立っていた。私はそれに少しづつ近づいていく。その白くてツバの広い日差し帽に白いワンピースの最たるまでが見えるほどまで......。うん。これはどう見ても、どう考えても八尺様じゃん。


「ぽ......。ぽぽぽ......」


『ほんとに「ぽぽぽ」って言うんだ......。それで、これは討伐対象でいいのかしら?? え、八尺様殴っていいの?』


【猫は液体】『八尺様って魔法効くのかな』

【宮坂ゆるり】『え? 怪異殴るの?』


『試してみるか、魔法......』


私は試しに彼女へ火球の魔法を放ってみた。すると、彼女はダメージを受けたのか少ししゃがんで痛がる。少しして、彼女は立ち直って手を輝かせて見せた。すると、私が八尺様に引き寄せられていった。その長い腕に捕まれ、首を絞められていく。


『ま、まじか......!!』


私は意識の飛びそうな中、電撃の魔法で八尺様の腕の力を緩めた。解き放たれて、息を整えた私はすかさず八尺様に魔法で生成した岩を投げつけながら距離を保つ。

八尺様は、またも「ぽぽぽ」と言いながら私を追いかける。


『これでも食らえ! アイス・クラッシュ!!』


つらら状に生成した氷を複数八尺様に投げつけると、八尺様の動きがどんどん鈍くなっていった。しめたと言わんばかりに、私はそのまま八尺様の胸部に向かって短剣を突き刺した。


『悪く思わないでよね!!』


「ぽ!? ぽぽぽーーーー!!!」


¥4,000【生茶】『うおおおおおお!?』

¥3,000【猫は液体】『倒しちゃった』

¥10,000【袋】『やったぜ!! 八尺様を倒したぜ!』


八尺様は奇声を上げたかと思うと、その大きな巨体が消失した。このシステムは前と変わらないのか......。でも、アイテムが一つしか出てきてない......。


『ん? 勾玉?』


手に取ると、それは光る勾玉のようだった。こんなアイテム初めてだ。

すると、私の目の前に宙に浮く犬が現れた。


『うわぁっ!? え、みんな見えてる? この犬......』


「勾玉を取り返してくれてありがとう! 探索者さん!」


しゃ、喋った......。上級モンスターかな......。


『え、喋ってる? というか、私に言ってる?』


「はい!」


その犬は、宙に浮きながらもしっぽを振って目を輝かせていた。

なんなんだ、この犬。


『あなたは?』


「僕はこのきさらぎ駅ダンジョンの案内犬「コマイヌ」なのです! これから探索者さんには、その勾玉と同じものを後4つ、このダンジョン内にいる悪い怪異さんたちから取り返してほしいのです!」


『なんだか凝ったダンジョンね。まあ、目的があるのはわかりやすくていいわね。じゃあ、配信枠延長しないとね。みんな、今回の配信はここで終わるけど、また戻ってくるから! それまで、待機しててね~』


私は、一度ドローンを停止させて配信を切った。

それにしても、勾玉集めか。大変そうだけど、面白くなってきたじゃない。

私は目の前にいるコマイヌのモフモフした毛並みを撫でながら次の配信に向けて準備を始めたのだった。

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