新ダンジョン現る

第21話

 私が足しげく通っている高輪ダンジョンゲート駅にあるダンジョン、通称『高輪ダンジョン』が無期限の活動停止となった。復旧のめども経っていないらしい。イベントで不祥事が起きたんだ。当然といえば当然だろう。


「そりゃそうよね......。身体も疲れてた頃だし、気長に復旧を待ちますか......」


私はのんきなことを良いながらパソコンを付けた。

だが、ふと我に返ったときある疑問点がうかんだ。


「配信どうしよう」


てか、配信できなかったら唯一の収入源なくなるじゃん!!

と、とにかく雑談でも配信しようかな......。


「Dストの配信者、今日はこぞって休んでる......。まじかよ! 逆に、この状況で配信したらバズったりすんのかな?」


私は自分のスマホでSNSを開いてみると、配信者も配信を観ている人たちも、今日は別の趣味にかまけているみたいだ。たしかに、みんなダンジョン配信だけが趣味じゃないもんね......。私も、他の事しようかな。


「でも、なにすればいいんだっけ......」


想えば、大学生時代からの趣味を仕事としてずっとやってきたんだもんね。

そう考えると、すごいことよね。


「とにかく、家にいたら配信のこと考えちゃう。今日はいい機会だしお休みにしよう!」


SNSでもお休みの連絡を入れて、私は今までタンスにしまったきりだったおしゃれな私服を着て外に出た。12月ということもあり、外はかなり寒い。あれ、ていうか今日ってクリスマスイブだっけ? スマホをもう一度覗くと、12月24日と書かれていた。


「うわ。やっぱイブじゃん......。そりゃ街中イルミネーションとか飾ってるわけだ」


私は当てもなく、自分の町中を散歩した。それでも時間は潰せず、今度は駅から電車に乗った。どこへ行けばいいかもわからず、結局いつもの調子で高輪で降りてしまった。


「やってないのに来ちゃったよ。こりゃ、もう職業病ってやつね」


マンションが立ち並ぶ中、ひと際背の高い建物がそこにはあった。いつも見る光景ではあるものの、今日は入り口に立ち入り禁止の看板が立っていた。


「そりゃ、立ち入れないわよね......。あれ?」


私は、ダンジョン近くにある掲示板に張られていたポスターに目がいった。

ダンジョン内の清掃の臨時バイト?

2年以上のダンジョン探索者歓迎って、私いけるじゃない!!

ていうか、バイト代めっちゃ高っ!!


「うーん......。暇だし、行ってみようかな」


私はその看板に書かれていたダンジョン裏口とやらの場所へ向かった。

そこには、いつも受付をしている受付嬢や運営スタッフが立っていた。

周りには、私の他にも何百人もの人だかりができていた。どうやら、私と同じように考えてバイトに来ている配信者もいるようだ。


「皆さま、お集まりいただきありがとうございます。この度は、お騒がせしております。ですが我々は、高輪ダンジョン大型アップデートを予定しております」


おお......。事業再開するつもりなのか。まあ、こっちとしても是非そうしてもらいたいけどね......。一人頷いていると、前のスタッフから腕時計型の端末が配られた。


「そのため、皆様にはアップデートに向けて事前清掃をお願いいたします。しかし、営業外でもモンスターは出現しております。加えて、現状のダンジョンでは皆さまの命の保証はできません。それはもちろん、我々も同じなのですが......。お配りした端末は、我々と皆さまとで連携を取るためのものです。清掃担当エリアの振り分けもそちらで通達しますので、必ず応答するようお願いいたします。それでは、作業を初めてください」


スタッフの言葉と同時に、腕時計が振動しメッセージが届いた。私の担当は51階のようだ。こんな私服でダンジョンを探索するのはいつぶりだろう。ちょっとわくわくしてきた。


「よーし、頑張るぞ!」


「あ、後......」


そういうと、説明していたスタッフがさらに説明を付け加えた。


「配信だけはやらないでくださいね」


そもそもドローン持ってきてねえし......。

気に留める必要もないと、そのまま私は従業員用エレベーターで51階へと向かった。エレベーターを降りると、その先には清掃用具入れのロッカーが並んでいた。

私はそこから残っていた小型の芝刈り機と除草剤数個を取った。

扉を開き、フロア内に入ると草がひざ下くらいまで生い茂っていて、それらを数人が鎌を持って刈り取っていた。みんな武器になりそうなの選んでるってわけね。


「効率より、自分の命ってわけか。まあ、私はさっさと終わらせるに限るけどね」


私は芝刈り機のエンジンを吹かせてじょりじょりと草原を刈り取っていった。

この感じ、結構気持ちいいわね。しばらく壁沿いに刈っていっていると、ひどい叫び声が聞こえてきた。どうも人の鳴き声じゃない。


「うあああああっ!? マンドラゴラァアアアア!!」


そう言っていた男の清掃員の一人が、走って逃げ惑っていた。持っていた鎌も捨ててしまっている。それじゃ、まるで意味ないじゃない。あれ? ていうか、あの人ドローン飛ばしてる?


「誰も助けないなんて、薄情ね......!」


いてもいられなくなった私は、芝刈り機を置いてマンドラゴラの方へ走って除草剤をそいつの目にかけてやった。するとマンドラゴラは先ほど以上の奇声をあげて溶けていった。


「ふう......」


「はぁはぁ......。あ、ありがとうございます......」


「気をつけなさいよね。って、あれ? あなた、どこかで会ったことある?」


男の方も私を見るなり、首をかしげていた。

だが、すぐに思い出したのか手を打ち合わせた。


「ああ! もしかして、僕いつかあなたの配信に凸りました? 自分、【いきなり凸たろう】といいまして。 いやぁ、僕実は人の顔覚えるの苦手で......。あ、サインならいいですよ?」


いきなり凸たろう......。思い出した。こいつ、バズリ出してすぐのころに探り入れてきた奴だ。


「ああ、あの時のあんたか......。あんたのサインなら結構よ。それより、自分が凸った人の顔と名前くらい憶えときなさいよ。いや、私がいうのもなんだけどさ......」


「面目ない......」


私は彼に、持っていた除草剤を渡そうとした。


「これで、マンドラゴラが出てきても問題ないでしょ」


だが、彼はコメントに集中してこちらに気付いていなかった。ただ、すぐに彼はこちらに向き直って土下座をし始めた。


「お久しぶりです! ビキニ姐さん! 衣装を着ていないとはいえ、気づかずすんませんでした!!!」


「ちょ、ちょっと! なにしてんのよ! いいから、早く顔をあげなさいよ」


「うっす!」


私は、凸たろうの脇を抱えて無理やり立たせた。彼はというと、握手してきたりお辞儀をしたりとクソ忙しそうにしていた。


「今日は、清掃バイトで進入禁止のダンジョンに凸ってみた! という企画です!!」


「もしもし、ポリスメン? この人、バイト中に配信してるんだが?」


私は腕時計に口を近づけて今回の清掃担当のスタッフに連絡した。

こいつ、庇う必要ないし......。ちょっとうざいから締め出しとくか。


「ちょ!! ちょっと、姐さん!!」


凸たろうがドローンをしまおうとした瞬間、スタッフが迅速に駆けつけてきた。

そのまま凸たろうはスタッフに羽交い絞めにされて連れて行かれた。

すまん、悪く思うな......。というか、お前が悪い。

そう納得して、私は清掃を続けた。ある程度、自分の足元が見えるようになってくると、ポンと腕時計が鳴った。


「あら、今日はもう終わり?」


私は他の人たちが仕事している中、1階に呼び出されたので1階へ向かった。


「本日はお疲れさまでした。これ、今日の分です」


するとスタッフが、茶封筒に現物を入れて渡してきた。

令和の世に現金現物支給ってある? しかも、封筒とんでもないことなってるし。


「私まだやれるけど、もう終わりでいいの?」


そう言うと、スタッフがにこりと笑う。


「はい。アルバイトが思った以上に募集が多かったので、数人抜けてもらってるんです。それでたまたまあなたが選ばれただけです。......あ、後これ」


というと、スタッフは私にひとつのチラシを渡してきた。

そこには新ダンジョンの案内が書かれていた。


「大阪に新ダンジョン?」


「詳細は我々も不明ですがここでバイトしてくれた人だけの先攻情報ですので、グランドオープンまではご内密にお願いいたします......」


「わ、わかったわ......。ありがたくいただくわ」


私はそのチラシを持って家に戻っていった。

新ダンジョンか......。性懲りもなく、またオープンするのか。

でも、行きたいと思っている自分もいる。旅行がてら、行ってみますか......。

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