第18話
『このゲーム、もう少しだけ続けようかな......』
私は、自分で言った言葉に恐怖を抱いていた。逃げてもいいはずなのに、私は戻れないでいた。配信をしている限り、私は永遠にダンジョンを潜り続けることだってやりとげると思う。
【ぐわんぐわん】『大丈夫かなぁ?』
【ドエロ将軍】『拙者、姐さんが一生見られないのは嫌でござる。引き返せるなら引き返してほしい』
【ぽっぽっぽ】『ゲームに勝ってほしいという気持ちと、引き返してほしいという気持ちがある』
【酒バンバスピス】『心が二つある~』
『大丈夫。私、勝つから』
みんなを安心させると同時に、自分に言い聞かせていた。心臓が張り裂けそうなほどに脈打つ自分自身に。コメント欄と交流していると、グレムリンたちがまた乗り物に乗ってこちらに来た。今度はコック帽を被っている。なんで、コック帽?
「みんなー! こんにちはーーーーー! 逃げてるやつはいねえな。流石は探索者。肝が据わってやがるぜ。さて、第2回戦は、見ての通り料理対決になった。俺達3人が審査する。最低2人がおいしいと言えば見事合格だ。調理テーマは自由! ダンジョン内のものなら何をつかってもいい! 調理場も、調味料もある程度は提供する! 不合格者は一からやり直し。あまりにもまずいものを提供したものは消すので注意しろ! じゃ、始め!」
グレムリンの言葉に、配信者や探索者が一斉に動き出した。私も負けじとこのフロア内にいるモンスターを探した。食用アイテムがドロップするモンスターは意外と限られている。その中でも、人気なのはドラゴン系だ。ひと際おいしく、A5ランクの牛肉のようだという人もいる。食べたことないからわからないけど......。
『あ、ユニコーンだ』
私の目の前を横切っていったのは、白い毛並みの美しい一角獣ユニコーンだ。馬刺しっておいしいのかな? 私は、短剣を取り出してユニコーンを追いかけた。
『投てき魔法で仕留める! コントロール・エイム!』
短剣を投げ入れると、蛇行するユニコーンを追尾しながら加速していく。とうとう追い詰めて、ユニコーンのお尻に当たって悲鳴があがった。そのまま私は、短剣を引き抜いて頭部に刃を切りつける。ユニコーンは倒れて消滅したかと思うと、アイテムが転がっていった。その中には、ユニコーンの角の他に肉があった。よし、食材ゲット!!
『おけ! 氷の魔法で氷漬けにしておいて......。調理場に急げ!!』
走ってフロア内に仮設された調理場へ向かおうとすると、他にも数人がアイテムを持ってきていた。ケロべロスの脚、グリフォンの翼、マンドラゴラ......。
『後は、料理するだけ! あ、走っているうちに解凍されてる......。ラッキー! じゃあ、このまま捌いちゃお』
私は慣れない手つきで包丁を握り、ユニコーンのどこともわからない肉をさばいていく。コメントからはまたも悲鳴が上がっていく。
【コックジョー】『ひぃ~~~~!!』
【袋】『冷凍されてたのにこの血しぶきなに? スプラッタ?』
【酒バンバスピス】『ま、また左手がぁあああああ!?』
『も、もう! なによ、うるさいわね。配信ミュートにするわよ!?』
気にせず私は皿に盛りつけて、調理場に置いていた醤油やワサビを別皿に盛り付けてみた。うん、おいしそう! 私は笑顔でグレムリン3人の前に提供した。
『はい、お待たせしました。ユニコーンの馬刺しです......』
そういうと、一番左にいたコック帽を被ったグレムリンがボソッと一言言い放つ。
「あ、僕いいです」
『はぁ?』
「いや、僕ベジタリアンなんで。しかも、皿に血がついてる。見た目にこだわりを感じない。食べるに値しないですね」
何こいつ、料理評論家か?
目を細めて彼を見つめていると、真ん中の太り気味のグレムリンが一口食べ始めた。
「うん、うまい!!」
「おまえはなんでもうまいっていうからなぁ......」
右端の眼鏡をかけたグレムリンが、真ん中グレムリン評を怪訝そうにしながら恐る恐る馬刺しを口にした。
「うーん。普通......。はい、やり直し! 次!!」
『え、ええええ!?』
ぐぬぬぬぬぬぬ!!!! あいつらに料理の何が分かんのよッッ!!
私は悔しさに歯をグッッと噛みしめながらまたも食材探しに向かった。
『うおおおおおおおお! どこじゃああああ!!』
鬼気迫る表情と奇声に、モンスターたちは私を避けるように怯えて逃げ出していく。私は焦りからさらに、走る。
「もうすぐラストオーダーでーす! お腹いっぱいになってきた......」
ま、まずいッ! 早くモンスターを見つけないと!!
キョロキョロとしていると、目の前にスライム数体がぷるぷるしながら立ち止まっていた。
『仕方ない......。スライムゼリー、作るか』
私は、目の前のスライムに電撃を加えてささっと倒して調理場へ戻った。アイテムであるスライム(食用)は、ボウルの中で少し混ぜただけで液体からプルンとした固形物に変化した。
『レシピは知らないけど、簡単にできるけど味気はなさそうね。でも、時間がない。適当に砂糖とはちみつ足して冷蔵庫入れちゃえ』
私はかき混ぜたスライムに砂糖適量、はちみつ適当に入れた後、その液体をワイングラスに綺麗に盛り付け冷蔵庫に数十分放置した。その後、私は冷蔵庫から固まったゼリーを取り出した。
『よし、いい感じ。これで、おまけにパラソルつけてトロピカルっぽい感じにしてごまかしとこ』
私はまたしてもグレムリンたちに自分の料理を提供した。
『スライムゼリー改め、ナタデスライム入りカルピーゼリーです』
すると、左端のグレムリンがスプーンを素早く取り出して一口含んだ。
「くっ......。スライム......」
まずい、スライムゼリーっておいしくないんだっけ?
「ど、どうして俺の好物がっ!! うまいって言うしかないじゃねえか! 卑怯だ......。うっ、か、母ちゃーーーーーーん!!」
急にな気だしながら食べ始める。それを見た真ん中のグレムリンが手に取り始めた。
だが、その顔は苦悶に満ちていた。
「うえぇ。あまいいいい......」
「ああ、ああ、ああ......。甘いもの苦手って言ってたじゃないか。さて、僕も一口」
眼鏡グレムリンが一口食べると、目を見開き手が震えだし眼鏡を落としてしまった。
『え。そ、そんなにまずいの?』
「うっひょー! うへ、うへ、キャハハハ! お、おまえ! スライムが俺達グレムリンの好物だって知ってたのか? スライムにふく、含まれるスライモロゲンは俺達グレームリンたちを興奮させるんだゼッ!!! 久しぶりすぎてキマるぜぇ~! うまい!!」
『な、なんだかわからないけど......。クリアしたみたいね』
グレムリンの狂喜乱舞の中、第二回戦は終了した。それにより脱落者は多数となっていた。
「残るは20人かぁ~。以外に残ってるな~! よーし、脱落者のみんな! じゃ、お疲れさん!!」
グレムリンが指を鳴らすと、調理中だったり採集の途中だった人たちが消失した。イベントは2回戦進出者の約4分の1を残して最終ラウンド、第3回戦へと進んでいったのだった。
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