第19話
いよいよ最終ラウンドとなったクリスマスイベント。というより、これはもうデスゲームだ。残った参加者は、顔だけで強者で登録者もたくさんいる人たちばかりとなっていた。
『今、何時くらい?』
次のゲームが開始される前に、私はコメントと交流していた。
イベントが始まってから、一体どれくらい経ったのだろう。自分でもわかってない。
【袋】『今、22時くらい。多分、2時間くらいは撮ってるんじゃね?』
【酒バンバスピス】『そんなに経ってるの?』
【元冒険者】『ここまで来たからには、ね?』
【シーランド】『目指せ、優勝!!』
そう言っているうちに、グレムリンたちが出現した。だが、今度はそれとは別でスタッフたちが駆けつけてきた。
「おお! やっとスタッフが来たぜ!!」
イベント参加者の一人が、それに気づいて嬉々としているとスタッフは私達に説明を始めた。
「皆さん! ここまでのイベントは、我々スタッフの管轄外で行われておりました。皆様には多大なるご迷惑と、被害を出してしまい申し訳ございません。係員の指示に従って、緊急避難してください!」
その言葉を信じて、数人がスタッフについて行こうとするとグレムリンたちが彼らの行く手を阻んだ。
「おいおいおい、ゲームはクライマックスだぜ? ここで降りるのか? それでも、探索者かよ!?」
「うるせぇ! こちとら死にかけてんだ! 俺は帰らせてもらうぜ。運営、早く道案内しろ」
運営スタッフの近くにいたコワモテの男性がスタッフに声を荒げて避難しようとする。どうしよう......。私も、リタイアした方がいいのかな......。
「負けるのが怖いのか? 人間。 俺達はいつだって、負けてきた。そして、倒されてきたんだ。それでも、人間に戦いを挑むのはなぜだと思う? 俺達も、悔しいんだよ......。いつでも、負け犬じゃねえんだよ。人間に勝負できんのは、今しかねえんだよ! 逃げんなよクソがっ!!」
「言わせておけば!!」
「退避してください! これは非公式イベントです! 運営の管理できないイベント、乱闘は禁止です! 速攻退避して下さい!」
いろいろカオスになってきたな......。私も配信さえしてなければ帰ってるところだけど、今更引き返すわけにもいかないしなぁ......。
「まあまあ、みんな仲良くしようよ」
「う、うわあぁっ!? か、管理人!」
「げ! ネクロマンサー!!」
カオスな喧嘩に仲裁したかのように突然、地下666階で出会った管理人のネクロマンサーが出現してきた。もしかして、この異常事態に駆けつけて来たのか? ネクロマンサーはグレムリンと運営スタッフを取り持つように彼らの肩を抱く。
「モンスターがイベント開くなんて面白いじゃないか。ていうかこれ、僕の案なんだ。なにか、ご不満かな?」
「そ、そうならちゃんと運営に報告してください......。ただでさえ未知の施設で管理が大変なんですから」
「だから、1000年ここにいる古参の僕が管理人として引き受けたんじゃないか。モンスターと人間の交流の懸け橋になるようにね。だから、ちょっとは僕たちのことも信用してよ。だったらさ、このゲームは君たちも混ざらないかい? ゲームは、君たちの言うクリスマスにちなんで『プレゼントゲーム』ってのはどう?」
運営スタッフたちは、探索者である私達を見た。当然、私はゲームを続けたいと思っている。それは他の大多数の探索者が思っていることでもあった。
「......。皆様がいいのであれば。ですが、強制退室はなしですからね」
呆れたようにため息をついた運営を見て、ニヤリとして管理人は突如として出現した大きめのプレゼントの箱を持ってゲームのルールを説明しはじめる。
「強制退室はね......。じゃあ、ルールを説明しよう! ここに、爆弾の入ったプレゼントボックスがある。これを、みんなで輪になって音楽が鳴っている間回し続ける。音楽が止まったときに持っていたプレイヤーは、一人指名する。その人と二人で10秒間渡しあう。そして、爆発したときに持っていたプレイヤーは輪から抜ける。これでどうだい?」
『爆弾で死ぬ可能性は?』
私は思わず、口をはさんでしまった。
すると、ネクロマンサーは目を合わせることなく淡々と補足する。
「......大きな音と紙吹雪がでるだけのジョークグッズだ。基本的には、死なないよ。じゃあ、ゲームスタート!」
彼の言葉に合わせて、クリスマスっぽい音楽がプレゼントから聞こえてくる。時計回りに、プレゼントがだんだんと私に近づいてくる。そして、私はそのまま隣の人に渡した。音楽はまだ流れ続ける。一体、いつ終わるんだ? そう思っていると、音楽がやんだ。持っていたのは、例の管理人であるネクロマンサーだ。
「じゃあ、先ほど質問してきた彼女で」
そう言って、私を指さした。まじ? いきなり私かよ!!
私たちは輪の真ん中に立った。すると、ネクロマンサーはプレゼントを渡さずに眼を瞑っている。
『は? 何してんの? 早く渡しなさいよ! それとも自爆する気?』
「はい」
私に渡されて、私はすぐに彼に渡した。彼が受け取った瞬間、爆発音がした。さらに、紙吹雪が舞っていった。管理人は少し悲しそうな表情を浮かべて肩を落とした。
「残念。10秒経ったと思ったのに......。じゃあ、後は楽しんで」
そう言うと、彼は忽然と姿を消した。私たちは茫然としていた。
気を取り直すように、運営が私を呼び止めて輪の中にまた入り直させた。
そっか、まだ終わりじゃないのか。 ていうか、これっていつ終わるのよ......。
「じゃあ、再開しましょうか......」
それから一人、また一人と脱落者を増やしていき、プレゼントゲームは少しずつ本来のイベントの空気感に戻りつつあった。私も綺麗な紙吹雪でだいぶ気が緩んでいた。人数はまた10人と半分に差し掛かり、自分が持つタイミングも増えてきていた。今は音楽が続いてプレゼントは2周目に突入していた。その瞬間、音楽が止んだ。プレゼントを持っていたのは、スタッフジャケットを着た運営の一人だった。その人は無作為に探索者の一人を選び、10秒間渡しあいを続けた。
その時だった......。
ドカンッ!!
爆発音とともに、運営の一人が倒れていた。
先ほどまでの音とは違い、さらには煙と焼けた匂いが周辺に舞う。
「あの......」
運営に選ばれていた探索者の一人が、倒れ込むスタッフに駆けつけて体をゆする。すると、その身体は灰のようにサラサラと消失していったのだった。これは、本物の爆発......!?
「な、なんで......!? ど、どうして!!」
真ん中に立つその探索者が、顔を描きむしりながら床にしゃがみ込む。
最悪の事態が起きた......。あの管理人は、ウソをついたってことになるじゃん。
『やっぱり、ダンジョンモンスターは信用できないってことね』
私は一人納得していると、爆破したものと同じ梱包がされたプレゼントが私の頭上に降りてきた。さらに、プレゼントの中から音楽が勝手になり始めた。ゲームは計らずとも、強制的に再開されたのだった。
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