クリスマスデスゲーム

第17話

 マンネリしないように奮闘しているのは、配信者もダンジョン運営も変わらない。最近のダンジョンでのイベント開催は特にそう思う。そして、今回もまたイベントが開催されることになった。今度のイベントはクリスマスでのイベントらしい。


「20時からのクリスマスイベント参加の方は、65階エレベーターホールに集まり下さい!」


私は、その案内に従ってエレベーターで65階に向かった。65階に行くと、クリスマス衣装の配信者たちが浮かれた様子でイベントを待ち望んでいた。私も雰囲気を楽しみたいので、クリスマスによくある赤いニット帽子だけ買って被っている。


「ん? 浮かれてるっていうか、なんかザワついてる?」


どうやら、楽しみでがやがやしていたわけではなく何やらトラブルがありそうだ。


「あの、何かあったんですか?」


私は、近くにいた配信者っぽい男の人に声をかけてきた。向こうは私の容姿ビキニアーマーを見て、びっくりしたものの丁寧に答えてくれた。


「もうそろそろイベントの時間なのに、スタッフの方が全然見当たらないんですよね......。あの、もしかしてビキニアーマー配信無双さん?」


「う、うん。まあ、こんな衣装着てる時点でわかるか......」


「あ、あの......!」


彼がなにか言いかけた瞬間、ダンジョンの照明が突然消えた。私を含めたフロア内にいた探索者が慌てだす。ど、どうなってるの? 何も見えていないものの、私は周囲を見渡す。すると、奥の方から照明が点灯し始めた。それは、普通の照明というよりイルミネーション的な煌びやかなものだった。


「よかった......。イベントの演出だったのかな」


ホッとしているのも束の間、奥からバイクや車のような排気音が聞こえてきた。さらに、暴走族のようなクラクションを鳴らしながら何台ものバイクがこちらに向かって来た。バイクに乗っているのは、なにか緑色の小さいモンスターのようだ。


「な、なにあれ......」


「ぐ、グレムリンだぁ~~~~!!」


探索者の一人が錯乱し始めると、バイクに乗ったモンスターたちは私たちを引き殺すかのごとくこちらへ向かってくる。私達は叫びながら逃げ惑った。モンスターたちは、私達をこのフロアの奥の方へ追いやっていった。バイクは止まり、一匹のモンスターが操縦席の上に立ち上がった。


「どうも~! みなさんご存じ、グレムリンでーす! これから、人間の代わりにクリスマスイベントを開催しまーす! ただし、少しでも俺達に逆らおうとしたら、殺すから」


私達のざわついた声が一斉に鎮まった。こ、殺す? いや、でも復活できるからなとは思いつつ、このグレムリンの言葉に恐怖を感じる。ピリつく会場に、グレムリンは改めて進行を進めていった。


「じゃあ、人間たちと俺達グレムリンによるクリスマスデスゲームやってこー! ルールは簡単! 俺達と3つのゲームをして、最後まで生き残った人間が優勝! でも、一度でも敗北すれば最後。二度とダンジョンへは入れませーん! もしかしたら、人生もなくなっちゃうかもな......。それでは、第1回戦! 『だるまさんがころんだ』でーす! 俺の居る場所より先に着いた人が1回戦進出でーす!」


グレムリンの1匹は、私達の立つ場所から直線距離で30mくらい先に立ち後ろを向いた。


『はじまるのね......。でも、さすがに本当に死ぬわけないよね......?』


私は嬉々としてドローンを起動させ、今起きていることを配信する。それは、他の配信者も一緒だ。私たちはもう死と言う概念さえ簡単に捉えすぎて、狂ってしまっているのかもしれない......。


「だーるまさんがー」


グレムリンが大きな声で言い始めると、配信者たちは急い走り出す。中には、押し合いへしあいで争う人たちもいた。他の人に当たらないように、そしていつでも止まれる姿勢で......。


「こーろんだ!」


グレムリンが振り向いた途端、ざわついた声や動きがピタリと止まる。首さえ動かすこともできず、右に左に視線をかわす。どうやら、目は動いていても大丈夫らしい。他の人たちも無事なようだ。グレムリンは少し残念そうに再び背中を向ける。


「だーるまさんが、ころんだ!」


くっ! フェイントッ! 動きそうになったが、振り向きざまに座り込んだため難を逃れた。だが、私の近くにいた一人の身体がふらついてしまっていた。


「動いたな」


グレムリンの声色が代わり指を差した途端、周りにいたグレムリンがその人に向けて銃で発砲した。え? 銃火器はレギュレーション違反になったんじゃないの!?

銃声と共に、悲鳴とどよめき、そして一瞬の怯みが体を動かしてしまう。連鎖反応だ......。それにより、何人もの人が凶弾に倒れる。だが、そこは腐っても探索者と言うべきか......。すぐに立ち直り、6人ほどの犠牲者で止まった。それにしても、その6人の遺体、アイテムにならずに倒れたままだぞ? もしかして、これが......死?


「だーるまさんが」


かんがえる余地もなく、グレムリンは背中を向いて唱え始める。ゲームに参加している配信者や、探索者は顔面蒼白になりながら必死にグレムリンの背に近づこうとする。30mなんてすぐだと思ったのに、まだ10mも行っていない!


「ころーーーーーーーーんだ!」


グレムリンは、一人の例外もなく動いたものを処刑していく。その間も絶対に動いてはいけない。ドローンがふわふわと動く中、私達は機を伺いつつ少しずつグレムリンに近づいていく。


「だるまさんがころんだ!」


グレムリンに近づく人が増えて、だるまさんが転んだのリズムが短くなっていく。それでも一人、また一人と先を越す人たちが出てきた。私も、もう少し......。でも、このゲームは焦ったら負けだ。


「だーるまさんが」


『しゃべっちゃダメってわけじゃないのに、しゃべれないわ......』


「ころんだ!」


話に気を取られて、グレムリンのそばで止まってしまった。焦るな、もうすぐだ......。



こういう時だけ、沈黙が長く感じる。くそっ! 早くしなさいよ!



「だるまさんがころんだ!」


転がり込むように、私はグレムリンのさらに先に座り込む探索者たちと目があった。やった! これで私、2回戦進出ね!!


「だるまさんが転んだ!」


振り返ると、200人くらいいた参加者は2回戦進出者を含めてももう半分以下くらいになっていた。ようやっと、自分たちの置かれている危険な状況に冷や汗が噴出し始める。その間も、続々と脱落者と生存者が分かれていく。生き残れるのはただ一人、なんてならなきゃいいけど......。


「はい、しゅーりょー! では、点呼! おっけー。全員で80人か、意外としぶといねー! 人間さん達よぉ......。じゃあ、次のゲームのお題が決まるまで軽く休憩! じゃ、またね~!」


そう言うと、グレムリンたちは乗っていた乗り物に乗って颯爽と帰っていった。

残ったのは、私達生存者と脱落した人たちの屍だけだ。それらは、アイテムも残らずに消えていった。まじか、強制退室ってことか......。


『どうやら、負けたら本当に二度とダンジョンに踏み入れられないっぽいわね。アイテムが残らないって、そういうことだもんね......』


【袋】『なにやってんだ! 運営!」

【酒バンバスピス】『ていうか、これってイベント退室できないの?』

【元冒険者】『ど、どうだろ......。こんな異常事態、初めてだし?』

【烈矢】『仕込みじゃないの? 運営がグレムリンの着ぐるみきてるとか、そんなんじゃないの?』


『着ぐるみだといいんだけどね......』


自分の不安をコメントしてくれるファンたちとの交流で和らげながら、私は次のゲームに臨む準備を整えようとしていた。どうしようもなく高鳴る刺激と、高揚感に乗せられて......。








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