第16話

 私はまた、いつもの調子で配信をしていた。でも、寒いエリアでもないのにこの冷え加減は異常だ。リアルでもコートが必要になってきたな......。


『寒くなってきたよね~......。みんなは風邪とか気を付けてね~? あ、へ、ックチッ!』


【ぐわんぐわん】『おん?』

【袋】『言ったそばから......』

¥500【酒バンバスピス】『これが「くしゃみ助かる」ってやつか」

¥500【シーランド】『くしゃみ助かる』


『誰か噂した? ていうか、今日探してるさ黄金の聖水ってマジでレアなの?』


今探しているのは売れば数十万単位で取引される万能調味料、通称『黄金の聖水』というものだ。どうやらダンジョングルメ配信者がよく欲しがるらしい。


【酒バンバスピス】『モンスター肉でもなんでもうまくなるって聞いた』

【元冒険者】『食ってみな。飛ぶぞ! ただし、スライムゼリー、てめえはだめだ』

【袋】『ダンジョン飯気になるけど、ゲテモノ感ある』


『まあ、イメージそんな感じよね。わかるわ。でも、ダンジョン潜るならちょっとくらい嗜むのが粋ってやつなのかもねー』


適当に喋りながら、私は宝箱が散乱するこの33階を歩いていく。だけど、どの宝箱を開けても回復ポーションばかりだ。しかも回復量が微量のものばかりだ。こんなの売っても二束三文だし、使うほどのものでもない。調合のうまいひとならハイポーションとして再生成できるかもしれないけど、私にはその技術はない。


『あーだめだ......。飽きてきた......。なんか面白い事起きないかな』


宝箱を開けてもミミックは出てこないし、ポーションばっかりだし......。そうやっていろいろ探していると、目の前に大きなガチャガチャが置いてあった。


『え、なにこれ......。初めてみるんだけど』


【元冒険者】『レアガチャだ! うわ、珍し!』

【ドエロ将軍】『これがガチャ? 人の身長くらいの大きさのカプセルじゃん』

【袋】『なにこれ?』

【シーランド】『なにって、ガチャでしょ。ここからレアアイテム出たりするらしいけど』


『レアアイテム出るの? ラインナップは?』


私はその巨大ガチャマシーンに近づくと、ラインナップが張り付けられていた。


『あ!! 黄金の聖水ある!! でも、確率が1%になってる!』


【ぐわんぐわん】『でも10連で確定レアでるってよ』

【袋】『めっちゃソシャゲで草』


『ここは引くしかねえなぁ!』


私は、カードの差込口に自分自身のDクレジットを差し込んだ。10連分の5,000円が入金されると、大きなカプセルがゴロンと排出された。排出の衝撃か、カプセルは簡単に開き、アイテムが散乱した。


『え、ビキニアーマーあるの!?』


始めに目についたのは、青色のビキニアーマーだった。

ていうか、今着てるやつの色違いじゃん......。


【袋】『wwwwwwwwwww』

【ぐわんぐわん】『めっちゃ好かれてて草』


『笑うなよ!! ま、ピンクの今よりかはマシなのかな......』


気を取り直して、次のアイテムに映ろう。次は、なんだろう......。素材っぽいな。なにかの羽のようだ。コメントの微妙な感じを見る限り、レアリティは低そうだ。次は......。お、魔法石だ。売値はバカにならないからラッキーだ。


『魔法石、よくわからない羽。次は......。うお、マンティスの鎌! 武器にしたらくそ強いやつじゃん! 待って! これ......』


私は、たくさんあるアイテムの中からひと際輝くものを見つけた。それは、ガラスのビンに入っていた。これって、黄金の聖水じゃね? 鑑定スキルが無くてわかんねえ!


『ねえ! これ、黄金の聖水じゃない?』


【元冒険者】『おおおおお! 可能性ある!!』

【シーランド】『黄金の聖水とよく似た【味王】の可能性もあるで』

【袋】『とりま全部、受付で鑑定してみよう!!』


『そうね! じゃあ、受付に行ってくる!! ごめん、一旦配信切るね!』


私は早速、1階まで戻ってガチャで手に入れたアイテムすべてを受付嬢に渡した。受付嬢は機械的に全部のアイテムを鑑定していく。だが、その結果はあまりに残念なものだった。


「お疲れさまでした。アイテムの鑑定ですが、すべて合わせて3500円となります」


「え? 5000円ガチャして損することある? というか、これって黄金の聖水じゃないの?」


「ああ、ええ。そうなんですが、最近は黄金の聖水の分析調査も進み人工的に量産できるほどになったので、天然もの以外は2~3000円くらいです。それで、すべてクレジットに換金しますか?」


ま、まじか......。

うーんでも、全部換金しちゃうのもなぁ......。そういや、前に討伐したミミックの舌が残ってるんだった。これ、もしかしておいしくいただけたりする?


「い、いや......。聖水とミミックの舌はこのままで。他は換金で大丈夫です」


「承知しました。それでは、ライセンスを提示願います」


私はライセンスを提示すると、そのカードのクレジットカードの部分に入金された音が聞こえた。カードが戻り、私は1階にある調理室へと向かって配信枠を作り直した。


『おつかれ~。聞いてよ。これさ、黄金の聖水だったんだけどさ......。人工聖水だって......』


【シーランド】『やっぱ味王で草』

【元冒険者】『あー、味王......。おいたわしや、お姉様』

【酒バンバスピス】『ここって、調理室? もしかして、飯つくるのか?』


『今さ、ミミックの舌余っててさ。焼いて食べてみようと思うんだよね。まあ、牛タンとかそんな感じ?』


私はカバンの中から、味王とミミックの舌を取り出した。調理室は、自分が集めてきた素材を調理できるのもそうだけど、ごはんや野菜も買えるスーパーみたいに使えるから便利だ。


『さて、どうしよ......。ま、いっか! 一口サイズに切って、焼くか』


私は調理室に並んでいる包丁を取り出して、ミミックの舌をさばいていく。あまり家では調理しないのでお世辞にもうまいとは言わないが、料理は好きだ。


【袋】『ヒュッ』

【ぐわんぐわん】『左手が怖えよ』

【元冒険者】『左手は猫の手やで』


『猫? なにそれ......』


コメントの注意を受け流しながら、私はがっちりと舌を持ったまま切っていく。

綺麗にカットした後、菜箸を使って肉を焼いていく。


『下手でもさすがに焼き加減間違わなきゃまずくはならんでしょ』


【酒バンバスピス】『ほんとぉ?』

【シーランド】『すごいフラグ』


コメントの揶揄に負けず、私は片面の焼けたミミックの舌をひっくり返す。さらに、また数分くらい経ちようやく肉がいい匂いを放ち始めた。お、これはいけるか?


『仕上げに、黄金の聖水を垂らす』


ジュッといういい音を鳴らし、少し焦がす。いい感じに焼けたので、私はミミックの舌をすべて取って皿に盛った。


『あ~、いいにおい! いただきます!』


私は、一口そのミミックの舌を一枚口に入れた。その瞬間、なんとなく塩レモンのような味がした。その後、肝を食べたような苦みが襲った。


『あ? ん”ッ”!? うん?』


【袋】『どういう感想?』


『も、もう一口......』


よくわからない味で、今度はもう少し黄金の聖水をかけて食べてみた。今度は、焼き肉のたれのような味だ。なんだこの調味料は......。でも取れないのは最後に引く肝を食べたときのようなエグみだ。つまり、これは素材の味ということになる。多分、そうだ。


『黄金の聖水は、かける量によって味変わっておもしろいんだけどさ、肝心の素材が微妙かも......。くそーー! ハズレ引いたわー』


【ぐわんぐわん】『ええ......』

【シーランド】『ミミックの舌、微妙なのか......』

【ドエロ将軍】『こればっかりは、焼き加減が下手だったのか素材の味だったのかわからないでござるな』

【元冒険者】『俺も食ったことねえからわかんね』


『また、他のモンスターの部位ドロップしたらチャレンジするわ......。じゃあ、今日はこれで終わりにしまーす......。 じゃあね~』


今日は、料理でうまくマンネリ回避したけど、取れ高としては微妙だったな......。

次の配信では、もっと面白いイベントがあればいいな。そう思いながら配信を切って帰り支度をしたのだった。

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