第15話
地下50階で一息ついた後、私はナナフシギチャンネルのナナちゃんに連れられてさらに地下である地下100階に着いた。静かに歩いて、あたりを調査していく姿は今までの「しおりんオタク」を彷彿させない凛とした表情だ。黙ってれば私くらい美人なのに......。どうしてこうなった......。
「それでは、お姉さま。準備はいいですか?」
「準備も何も、何すればいいの?」
「普段通りでいいですよ?」
ナナちゃんはドローンを起動させて、自身の配信を開始させた。
すると、すぐにコメントが私のイヤホンに音声となって共有され始めた。
【謎活おじさん】『待ってた』
【うーほー】『待機中』
【酒バンバスピス】『コラボと聞いて』
【おれんぢ】『いらっしゃい』
『お姉さま、知ってますか? モンスターは討伐してもまた転生するって』
『いきなり始まるわね......。物は言いようだけど、要は私たちがモンスターに倒されても復活するようにモンスターもまたしかりってやつでしょ? それがなに?』
『それなら、そのドロップアイテムは何が落ちて来たんでしょうね......?』
ナナちゃんは、私の持っていたアイスブロックゴーレムのドロップアイテムを指さした。考えたことなかったけど、私は適当にあしらった。
『あれは、戦闘中に剥がれた体皮とか粘液とかそういうことなんじゃないの? ていうか、挨拶とかなし?』
『なるほど、流石お姉さま。鋭い観察眼とツッコミです......』
『全肯定が渋滞してるわね』
【おってん】『ゆるい漫才好き』
【ごろう】『ずっと見てたい』
【謎活おじさん】『壁になりたい』
『というわけで、今日は最近話題になってるダンジョンビキニアーマー配信無双さんに来てもらいました! 今日はよろしくお願いします!』
『なにがというわけなのかわからないけど、引き続きよろしくね。で、今日は何を調査するの?』
『今日は、地下444階よりさらに下! 地下666階の正体について調査します! お姉さま、地下444階についてはよくご存じですよね?』
『まあね。行ったことあるけど、あれって結局なんだったの?』
『その答えが、地下666階にあると思うんです! だから、この地下100階のフロアボスを倒してさらに下を目指します!』
まだ企画が読めないけど、ここのフロアボスさえ倒せばわかるでしょ......。私たちはサウナのように熱いエリアを汗を垂らしながら歩いていく。
『これなに......。クソ暑いんだけど?』
『多分、モチーフは灼熱地獄といったところでしょうか......』
要所要所では、マグマが川のように流れていて驚いたけどナナちゃんの言葉により説得力が増してきた。そして、大きくたくさんのレリーフの掘られた扉の前にした。
『この中に、フロアボスのケルベロスがいます。それを倒せば、さらなる地下【コキュートス】へ行けるという噂があるのです』
『本編はその先、ケルベロスは瞬殺ってことね』
私は、指の骨を鳴らす。ナナちゃんはというと、首と肩を回して準備を整える。そして、私達は目の前の大きな扉を押した。ギギギギという不気味な音を立てて、開かれると一本道の両端にあった燭台が明かりを点けだした。
『おしゃれな歓迎ね』
『デートだと思えば、いいですね』
『あんた、私のなにがいいの?』
自分が嫌いってわけじゃないけど、ここまで限界化されると逆に心配になるわ。
『え? おっぱいが大きいのもそうですけど、強さと美しさを併せ持つ体つき......。え? 考えただけでエロ過ぎませんか?』
エロい目で見すぎだろ......。
『恥ずかし......。キモ......』
呆れ返り、一人スタスタと歩いていると暗闇の中からうなり声が聞こえる。すると、大きな犬の頭が3つ私たちの前に現れた。
『来ました! ケルベロスです! 風の魔法を応用させて、音の魔法を使います! 耳を塞いで! 合図したら、魔法で攻撃してください!!』
私は頷いて、耳をふさぐとナナちゃんは魔法陣からマイクのようなものを錬成して大きく口を開いてマイクに声を乗せていた。ケルベロスはその声であたふたし、混乱し始めた。ナナちゃんの口から血が垂れていくと、彼女は私に合図を出した。彼女が心配だが、ここは一気に片を付ける!!
『エンチャント・コピー!!』
私はたちどころに飛び上がり、短剣に魔法を付与する同時に同じ武器が二つ錬成される。その三つを、魔法を使い狙いを定める。
『コントロール・スパイラル!』
私はケルベロスの後頭部に狙いを定め、殺傷性を高めた短剣を投げ入れる。短剣は揺れるケルベロスの頭部それぞれに刺さっていく。ケルベロスはその痛みに暴れていく。
『これで終わりだ! グラビティ・エンド!』
落ちていく自分の身体に、魔法を付与させてケルベロスの胴に落ちたと同時に重力をかける。ケルベロスは押しつぶされ、ついには消失する。
『よし、アイテムゲット! あれ、なにこれ。鍵?』
『それはこの先の扉を開く鍵だと思います。ここからは、私も未開の地なので......。げほっげほっ......』
魔法の後遺症が残っているのか、血を吐きながら歩きだす。私は初歩的な治癒魔法を使って、彼女の喉を治した。一応、吐血は治ったみたいだけどまだ声がザラザラしたままだ。
『だ、大丈夫?』
『さっきより楽になりました。さすがです、お姉さま』
『初歩治癒魔法だが?』
何度も見たテンプレ展開に辟易としながら、私達はさらに最深部へ向かう。すると、鍵を刺す穴の空いた台のようなものが道の端に佇んでいた。
『差し込んでみる?』
『あからさまに罠くさいですが、行き止まりのようなのでやるしかありませんね』
『ええいままよ!』
私は鍵穴に鍵を差し込んで回転させた。すると、目の前の壁が動き出してエレベーターがあらわになった。私たちはそれに乗り込んだ。エレベーターは私たちを乗せると、下へ下へと向かっていく。ドアの上についた掲示板は『B444』を通り過ぎ、例の『B666』で止まった。
『ここが、地下666階?』
『そのようですね。あれ、なんでしょう......』
ナナちゃんが指さした先には、熱を帯びた機械のようなものが動いていた。それは心臓のようにドクドクという音を立てていた。
『あれが、ダンジョンの秘密?』
私が近づこうとすると、それを妨げるように奥にある機械から人間が現れた。
「ダンジョンのコアへようこそ。深淵を覗きし者たちよ!」
『誰ですか!』
「私はこのダンジョンの管理人......。字はネクロマンサー......」
ネクロマンサー......。死者を自在に操るモンスターだったはず。そんなのが、このダンジョンの管理人?もしかして、復活できることに関係あるの?
『あんたが、モンスターや私たちを生き返らせてるの?』
「生かすのも殺すのも私の自由。生と死の
なんだか、裏ボスみたいなやつが出てきたな......。警戒しつつ私たちが武器を取り出すと、ネクロマンサーは微笑んで見せた。
「ふふふ......。なんてね。嘘だよ......。君たちは死んでいるようで、実は死んでいない。仮死状態になっているだけだ。このダンジョンないでの攻撃は、このコアによって制御されている。即死攻撃もしくは、死に至りそうなときアイテムや金品の強制排出によって脱出させているんだ。機械的な処理で、不満かい?」
『い、いや......。奇妙なこと言われるよりかは納得がいく......』
『時折、謎は謎のままでいいっていうけど、こういうことがあるからね......』
「がっかりさせたならすまない。でも、これは公式パンフレットにも載ってることだし、こうやって討伐報酬としてツアーを用意しているぐらいなんだ。やましいことをしていないクリーンな娯楽事業だってことをもっといろんな人に知ってほしいからね。さ、二人とも上に戻ろっか」
管理人、ネクロマンサーに言われるがまま私たちはいつの間にか1階に戻っていた。
「あれ、いつの間に? あ!! ドローンの配信切れてる! しかも、途中からノイズばっかりになってる!!」
「ええ~!? じゃあ、さっきの地下666階の管理人のくだりは?」
「だめだ。全然復旧できない......。なにが、クリーンな事業よ。隠す気マンマンじゃない......」
「うーん。もしかしたら、あれはたどり着けた人たちだけの特権ってだけなのかも?」
「さすが、お姉さま! と、言いたいところですけど、それにしては強引すぎます。でも、撮影できなかったのは仕方がありません。再潜入するまでです!」
ナナちゃんの若さが彼女の瞳をさらにきらきらと輝かせる。私はその神々しさにやられそうになる。私たちは、仕方なく新たに枠を立ててコメントしてくれていたファンの人たちにお詫びを入れてしばらく雑談して配信を終了した。
「今日はありがとうございました」
「いえ、私もちょっと刺激になったわ。ありがとうね」
私は、彼女に手を差し伸べて握手した。彼女は両手で握手し返した。しばらく、放してくれなかったけど、肩を優しく叩いて放してもらった。
私たちは、またそれぞれの道へ戻っていったのだった。
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