第14話

 準備は整った。いざ、若さを取り入れて配信に色を足す作戦開始!


『みんなー! 元気してた? おはダンジョン! ダンジョンビキニアーマー配信無双です! 今日は、地下50階に来てます! そして!』


『ダンジョンの謎を暴く! ミステリーハンターのナナフシギチャンネルです! 今日は、私の憧れ! ダンジョンビキニアーマー配信無双さんとコラボさせていただきます! よろしくお願いいたします!』


『ナナフシギさんの枠にも私がおじゃまするので、よろしくねー!』


【袋】『おおー! 珍しいコラボ!』

【謎活おじさん】『ビキニの人だ!』

【伝説】『珍コラボ』

【ドエロ将軍】『ん? ちんこらぼ?』


なんかカオスになってきたけど、それ以上にカオスなのは私とナナちゃんの距離感だだ。なんか、近くね?


『さっそく、地下50階のボスの討伐に挑みたいと思うんだけど......。ねえ、なんか近くない?』


ナナちゃんは、なぜか私に腕を絡ませて私の肩に頭を乗せている。さっきまでそんな感じじゃなかったじゃん......。まあ、いいか。別にカワイイ女の子に腕組まれるのは絵になるし。


『寒いんだしいいじゃないですか、別に! それよりほら、ここのボス倒すんでしょ? いきましょう!』


私はそのまま彼女とカップルのようにくっつきながら歩いて行った。それにしても、寒いな......。壁も、床も凍ってるみたいだ。じゃあ、ここのボスは雪女とかかな?


『ねえ、ナナちゃん。ここにいるボスの事、知ってたりする?』


『うーん......。大移動で印象が変わってしまったのでわかりませんが、寒い場所を得意とするモンスターでしょうね』


『そんなの誰でも気づくわよ』


『お姉さま、ツッコミもうまいんですね!』


そこは、反論してよ! しかも別にツッコミじゃねえし!


『なんか、あんたと話してるとおかしくなりそう』


【冒険者】『天然後輩に振り回される先輩感あっていい』

【謎活おじさん】『間に挟まりてえ』

【おってん】『やめておけ、死人が出るぞ。てめえが死人だがな!』

【酒バンバスピス】『逃げろ! 百合カプ厨だ!』


『百合って、まだ私たちほぼ初対面だけど?』


『でも、出会い方は運命的だと思いますよ? ......あ、いましたよ! フロアボス』


ナナちゃんの指が差す方を向くと、そこには冷気を発するブロックを体躯にしたゴーレムがどしどしと歩いていた。あれはブロックゴーレムのレア種、アイスブロックゴーレムだ。


『ブロックゴーレムの氷属性版か......。ここは炎属性魔法で!』


『待って!』


彼女の制止など聞かず、私はそのまま手のひらから浮き出る魔法陣から火炎を放射させる。だが、アイスブロックゴーレムが消失することはなかった......。たしかに蒸発した音は聞こえたはずなのに!!


『なんで? 効いてないじゃない!』


『だから待ってっていったじゃないですか! アイスブロックゴーレムは、炎属性を無効にできるほどの防御魔法を持っているんです。つまり』


『炎耐性持ち......。それでだめなら、剣で!』


『それも多分、無駄かと。あのゴーレムは、剣で攻撃しても周りの空気を一瞬で冷やして再生します。打撃か、雷、爆発系の魔法で粉々にするのを推奨します』


『さすがフロアマスターね』


『いえ、私なんて......。でも先輩なら、もっと褒められたいな』


そう言って、彼女は背中に持っていた大きなハンマーを取り出し私の前に出てきた。


『大丈夫なの?』


『フロアマスターですので!』


こいつ、完全に調子に乗ってる......! まあいいか。彼女の力を知るチャンスってことで彼女に任せてみるか。私が微笑んで見守っていると、彼女はハンマーを振り回してアイスブロックゴーレムを一瞬にして粉砕した。


『どうですか! お姉さま! 私もやるでしょ!』


だが、アイスブロックゴーレムはその粉々になった体でさえも集めていって再生してしまった。なんか嫌な予感したと思ったけど......。


『危ない!』


アイスゴーレムの拳がナナちゃんに振り下ろされようとした瞬間、私は飛び出して彼女を助け出す。お姫様抱っこのようになってしまうものの、ナナちゃんはまんざらでもない表情で頬を赤く染めている。


『ぐへへ、いい匂い~』


『降ろすわよ』


『あ~。足が、あしをくじいたー』


嘘クサい演技に、私は呆れて彼女をゆっくり下す。


『ならここで待ってれば?』


『あーん、いけず~~!』


なんとでも言ってろと思いながら、私はずっと試行錯誤していた。その間、アイスブロックゴーレムが大人しくしているはずもなく攻撃はやまない。さすがのナナちゃんも俊敏にゴーレムの攻撃の当たらない場所へ移る。私も攻撃を避けつつ、私はあいつの確実な討伐方法を考えた。ここは、爆発系の魔法でいくしか!!


『エクスプロージョンは、対象物を爆弾に変える魔法なんだっけ......。なにか、いいものは』


私は雪の積もっている場所へ移動し、そこから雪玉を作った。そして、その雪玉に魔法をかける。


『エクスプロージョン・ボム......。よし、いけ!』


私はその魔法でバフのかかった雪玉を投げた。その雪玉がアイスブロックゴーレムに当たった途端、大きな音と共にゴーレムが爆散する。


『やったわ、お姉さま!』


『これで討伐されてたら、始めので終わってたわよ! 今度はあんたも手伝ってよね!』


『もちろんです!』


遠くで機を伺っていたのであろうナナちゃんが、こちらに向かって来て隣あわせになる。さて、どう立ち向かう。


『なんか、手ある?』


『私の攻撃と、お姉さまの攻撃で一瞬見えたものがあります。まだ確証ではありませんが、弱点な気がするんです。この謎さえ解明できれば、討伐できそうなのですが......』


つまり、私におとりになれってことね......。

彼女の私への信頼の厚さも、冷静な判断力も恐ろしいものね。敵に回したくないわ。


『私が時間を稼いで、もう一度爆破させるから。あんたはちゃんと見てなさいよ?』


『感謝します。頼りにしてます、先輩!』


どうにも、私はその『先輩』という言葉に弱いらしい。なら、弱いなりに先輩の意地見せてやりますか......。


『任された! 来い! ゴーレム!』


ゴーレムに聞こえるように叫ぶと、ゴーレムはこちらを向いて向かって来た。私はさっきより大きめの雪玉をつくり、アイスブロックゴーレムに投げつけた。だが、ゴーレムは危機を察して防御陣を形成。雪玉は形成された防護シールドによって阻まれてしまう。私はナイフを取り出し、そのまま特攻した。


『うおおおおお!!  スパイラル・インパクト!!』


防御陣を突き破り、私はアイスブロックゴーレムの足先にナイフを突き立てる。ナイフは絶対お釈迦になるけど、今はこれしか方法がない!


『チェーン・エクスプロージョン!!』


ナイフから起爆し、爆裂が連鎖していく。連鎖反応は、アイスブロックゴーレムの体まで破壊していく。だが、その途中ですぐに再生されていく。くそっ、やっぱりまだ駄目かっ!!


『お姉さま!! ゴーレムの頭部に、青い玉が!! きっとあそこが本体です!! 私が、爆裂魔法で再生を遅めておきます!! だから、決めて!!』


私の周りで爆発が起きる。だが、私はナナちゃんを信じて戦うしかない。

私はひたすらに走った。爆発が起きるたびに、ナナちゃんの言っていた頭部の青い玉がうごめいていた。私はジャンプしながら、頭部まで近づいていく。


『これで終わりだ!! ライトニング・ショート!!』


雷撃が、本体へ直接攻撃される。そのおかげか、再生能力がなくなり氷はびくともしなくなる。そして、本体もまた消失してアイテムとなった。


『やりましたわ! お姉さま!!』


そう言って、ナナちゃんは私に向かって走りのけぞるくらい抱きしめられた。私は、嫌々ながらも彼女の頭を撫でる。


¥6,000【酒バンバスピス】『こういう距離感、いいよね』

¥5,000【謎活おじさん】『間に入れる隙もなく、今はただ壁となりたい』

¥10,000【うすたー】『成し遂げたぜ。おめでとう!!』

【元冒険者】『アイスブロックゴーレム、かなり強敵だったな』



『みんな、見てくれてありがとうね。じゃあ、私の配信はこれくらいにして次、ナナフシギチャンネルの配信で会いましょうね~』


『私のチャンネルでは、宣言通り地下444階のさらに下の真実について検証します! よろしくお願いします。では、また~』


配信を切るとすぐに、私たちはスイッチが切れたかのように地面に座り込んだ。


「お疲れ様です!」


「お疲れ~。あ、でもまだあるんだったよね......」


「そうですね。最後まで、お付き合いくださいね?」


ナナちゃんは、恍惚とした表情で私を見つめる。

私は辟易としながら、エレベーター近くの自販機を指さしながら


「ちょっと休憩していかない?」


と言うと、彼女は勢い余って口を滑らした。


「え、休憩? それ、ホテルに行くってことですか?」


「違うわよ。いかがわしい妄想しないでよ、変態」


「すいません、もう一回いいですか? 録音するんで」


「勝手にやってろ......」


頭を抱えながら、私は自販機まで行ってお茶を買ってそのまま飲み干す。

ナナちゃんも近づくので、私はため息をついてお茶をおごってあげた。


「こういう休憩も、いいですね」


「......そうね」


次の配信もなんか不安になってきた......。





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