第5話

「夢、だよな?」

 坊太郎はパッと地面から手を放して膝立ちになり、惚けた表情で自分の顔を軽く叩く。ちゃんと頬と手のひらに衝撃を感じ、触覚や痛覚が正常に働いていることが確認できた。


 落ち着くのを待って、坊太郎は先ほど自分の目で見たものを確かめるべく、もう一度這いつくばってログハウスの中を覗き込む。

 中にはやはり人間そっくりの小さな生物が、見える範囲で4体。恐怖に怯え震えながら、それでも互いに庇いあってこちらを見ていた。


(やっぱりどう見ても、小人…だよな。昔読んだ本で、小人の国に迷い込んだ人の話があったけど…)

 胡坐に体を戻して、坊太郎は思案する。

 自分は座敷で寝てしまった。そして今見ているのは夢のはずだ。何故なら、小人なんて現実にいるはずがないからだ。しかし一向に目覚める気配もない。視覚嗅覚聴覚触覚、痛覚や温度を感じる機能も正常に働いているようだ。

 どうもおかしい。そもそも明晰夢なんて見たことがないから、この状態が普通なのか異常なのかがわからない…。


 ――チンチンチンチン!

 堂々巡りに陥っていた坊太郎の思考を断ち切るように、突然小さく甲高い鐘の音が鳴った。かなりの速度で打ち鳴らされており、何か急を告げるものであることが伺い知れる。

 坊太郎が驚きつつ鐘の鳴った方を見ると、遠くから小さな人影がたくさんこちらの方へ駆けてくるのが見えた。手にはクワやカマのような道具を持ち、籠を背負っている者もいる。畑仕事をしていたことがうかがえる格好だ。

 皆叫び声をあげながら、後ろを気にして必死で逃げているらしい。


 その表情が見えるあたりに近づいたころ、小人たちはようやく坊太郎に気付いた。

 ぎょっとした表情を一様に浮かべ、立ち止まる小人たち。坊太郎を見上げてしばらく放心状態になり……やがて、皆へたり込んでしまった。

 尻餅をついて弛緩した表情で空を見上げている者、俯せになり頭を抱えて震えている者、近く同士で抱き合い泣き叫んでいる者…様々だが、絶望しているであろう事は共通だった。


 坊太郎はどうしたものか分からず、その様子を暫く茫然と見ていた。


 間に耐えられず、坊太郎が声をかけようとしたその時、事態は再度急変する。小人たちに続き、新たな存在が勢いよくその場に現れたのだった。

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