62話 キングオクトパス

 改めて見ると、その大きさに驚く。


 船と同サイズということは、小さなマンションくらいの大きさはあるぞ。


 そいつは俺の登場に戸惑ったのか船から離れ、大きな目と触手をうねうねさせながら様子見をしている。


「フシュー……」


「さて、問題はどうやって倒すかだな」


 来てみたものの、俺には遠距離攻撃の手段がない。

 救出が来るまでの時間稼ぎでもいいかもしれないが……いや、待てよ? 確か、アレをもらっていたな。

 すると、アリアさんが俺の肩に触れる。


「タツマ、そのまま静かに聞いてくれ」


「はい? ……ええ、わかりました」


 俺は目の前のキングオクトパスから目を逸らさずに、少しだけ耳を傾ける。


「船長に聞いたところ、船のあちこちに亀裂が入っているらしい。パニックになるので、まだ一部の乗組員には伝えていないそうだが……」


「なるほど……そうなると、救助を待つ間に沈んでしまいますね」


「ああ、その可能性が高い。短期決戦が望ましいが、できるだろうか? もし私に手伝えることがあれば言ってくれ。彼らは我が国の民なのだ……出来れば、全員救ってあげたい」


 そう言い、俺を真っ直ぐに見つめてくる。

 俺を信頼する瞳と、自分も何かしたいという意志の強さを感じる。

 これで応えないようなら……男じゃない。


「わかりました、やってみましょう。では、俺は敵に集中します……アリアさんはここにいて、もし触手が来たら対処してください」


「うむ、任せてくれ……ふふ、ようやくタツマの役に立てそうだ。いつも、助けてもらってばかりだからな」


「いやいや、俺の方が助けられてますって。ハク、アリアさんのフォローを頼む」


「ワフッ!」


 アリアさんが剣を構え、ハクが足元で臨戦態勢に入るのを確認し……俺は魔法の壺の中から、折れた槍を取り出す。


「タツマ? なんだ、その柄の部分が折れた槍は……槍の先端自体はまだ無事だが」


「これはドワーフのノイス殿に貰ったんですよ。使えなくなった武器を回収して、本来なら再利用するみたいなのですが……それを格安で譲ってもらいました」


「ふむ、そういうことか。しかし、それを一体……」


「まあ、見ててください」


 キングオクトパスは相変わらず様子見をして、こちらに近づいてこない。

 なので、まずはこちらにも遠距離攻撃があることを示す。

 俺はやり投げの要領で肩に槍を構え——勢いよく放つ!


「シッ!」


「キシャャャャ!?」


 俺の放った槍は、相手の皮膚に突き刺さった。

 血も流れているので、そこそこのダメージはありそうだ。

 ただ、決定打にはなりそうにない。

 隙をついて逃げようにも、相手は船の先端側にいるので無理だ。

 船は後ろには下がれない。


「な、なんと!? まるで槍を飛ばす攻城兵器のようではないか!」


「えっ? ……言われてみればそうですね」


「人の膂力で同じ威力を発揮するとは……流石はタツマだ」


「はは……ご期待に添えるとしますか」


 男とは単純なもので、美人さんに褒められるとやる気が出る。

 気を良くした俺は、次々と槍を放っていく。

 すると、相手が痛みに耐えかねたのか……触手を伸ばしながら船に近づいてくる。


「来ました! それでは、作戦通りに!」


「うむ!」


「ワフッ!」


 俺が駆け出すと同時に、八本の触手が次々と襲いかかってくる。

 一瞬だけ後ろを見ると、アリアさんとハクが触手に対応していた。

 だが、長くは保たないだろう。

 何より、再びあいつに距離を取られるとまずい……ここは一気に勝負をつける!


「ふんっ!」


「キシャ!?」


 俺は目の前に迫る触手のみを大剣で切り飛ばし、一気に距離を詰める。

 そして、船の先端を足場にして——大剣を上段に構え思い切り跳躍する。

 俺の体はキングオクトパスの頭上を通過し……。


「ウォォォォォォ!」


「キシャャャャ!? ……ァァァ……」


 落下の勢いのまま振り下ろした大剣は、キングオクトパスを真っ二つに切り裂いた。


 そして俺は、そのまま海へと落下するのだった。




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