60話 提案
俺は目に意識を集中させ、海から出てきた大きなナニかを確認する。
全身が赤い皮膚、大きな頭、足らしきものが8本……それは何処からどう見ても、大きなタコにしか見えなかった。
「キングオクトパスだと!? こんな海域にいる魔獣ではない!」
「ククーン?」
「キングオクトパスですか……」
やはり、タコであってるらしい。
タコ……食べたいな。
たこ焼き、タコチャーハン、醤油で焼いても良い。
カルパッチョ風にしたり、マリネにしても良い。
「まずは、この港の責任者に会わなくてはいけない。すぐに住民達を高台に避難させねば……全く、非番だというのに」
「アリアさん、待ってください。襲われてるあの船は? そして、高台に避難とは?」
俺は慌てて何処かに行こうとするアリアさんを引き止める。
「…あの船の救出は間に合わん。これから魔法部隊を集め、戦闘用の船に乗せる。その頃には、海の藻屑となっているだろう。無論、救助隊は出すが……そして、あの大きさの魔獣が暴れると……わかるな?」
「……なるほど、津波ですか」
「そうだ。堤防があるとはいえ、それを乗り越えて入ってくる可能性もある。何より、奴自身が堤防を破壊することありえる」
「わかりました。それでアリアさんは? 俺にできることはありますか?」
「私は責任者に掛け合って、共に討伐に向かう。タツマは近接戦闘しかできないから……ひとまず、ここで待っててくれ」
……それでは、やはり間に合わないか。
どうにかして、助けることはできないだろうか?
「目の前で人が襲われているのに、ここで待ってるだけか」
「クゥン?」
「タツマ?」
ハクが俺の足元にきて、上目遣いをしてくる。
おそらく、『どうしたのー?』とでも聞いているのだろう。
「ふむ……美味そうだし、俺は冒険者であれは魔獣だ。そして、人が死にそうになっているのは放って置けない……やるか?」
「キャン!」
「おっ、ハクもやる気か? ……よし、失敗してもいいからやってみるとしよう。ハク、今から俺が作戦を伝える。これは、お前にかかっているが……どうだ? やってみるか?」
「ワフッ!」
「タツマ、どういうことだろうか?」
「すみません、少し作戦があるのですが……」
俺は思いついた作戦を、ハクとアリアさんにはに伝える。
すると、ハクが尻尾を振ってやる気を見せたので決行することにした。
ちなみに、アリアさんにはため息をつかれてしまった……しかし、その顔は仄かに微笑んでいた。
◇
ええい! 何もこんな時に!
たまには、私にもゆっくりさせてくれ!
「やはり、タツマといて何も起こらないというとはないか。全く、折角のデート……ではないが、非番だったというのに」
いや、別に今回はタツマは悪くないか。
いかんな……この浮かれた気持ちを抑えなくては。
「しかし、こんな普通の女性のような格好をしていては難しい」
まさか、こんなに楽しいとは。
護衛をぞろぞろと引き連れずに都市の外に出たり、違う街に行って観光や屋台を回ったり。
終いにはハクがいるとはいえ、うたた寝をしてしまうとはな。
「……つい、楽しくてはしゃいでしまったではないか」
まさか、こんな私に女の子みたいな出来事があるとは。
そして、それを悪くないと思っている自分がいる。
そんなことを考えていると、タツマが実験を終えて波打ち際から戻ってくる。
「アリアさん、どうにかなりそうです。それでは、行ってきます」
「何を言っている? 私もいくに決まっている」
「えっ? で、ですが、危険ですよ?」
「危険なのも、足手まといなのもわかっている。だが、この国の王族として黙ってみることなどできない。何より、私がいた方が話が早いはずだ」
「どういう意味ですか?」
「……こんな時に嫌な話だが、勝手に倒したことで文句を言う連中もいる。自分が倒すつもりだったとかな」
倒せれば、その素材は倒した者の物になる。
名声も入るし、命をかける者もいるだろう。
だが、そんなことのために民を死なせるわけにはいかない。
「あぁー……何となくわかりました。では、抱き抱えますが……」
「う、うむ、遠慮しなくていい」
「失礼しますっと」
「っ〜!?」
こ、声を出さなかった自分を褒めたい!
お、お姫様抱っこされてる!?
「へ、平気ですか?」
「あ、ああ、問題ない」
「それでは、ハクは俺の肩に乗れ。この作戦はお前にかかってる……やれるか?」
「ワフッ!」
「よし……行くぞ!」
そしてタツマが、足場のない海に向けて走り出す。
私はタツマの首に腕を回し、ぎゅっと力を入れてしまうのだった。
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