59話 砂浜デート
俺は依頼人に荷物を届け、ギルドに報告する。
そして、急いでアリアさんの元に向かう。
アリアさんは言っていた通り、海沿いのベンチに座っていた。
その側では、ハクが番犬のように足元にいる。
「アリア……」
「キャン……!」
俺が声をかけようとすると、ハクが小声で止めてくる。
なので、静かに近寄ると……。
「ハク? ……なるほど」
「すぅ……」
そこには、スヤスヤと寝ているアリアさんがいた。
その無防備な姿は、景色と相まってとても綺麗だった。
「ハク、きちんと守ってくれたようだな?」
「ワフッ」
「いい子だ」
どうやら、トラブル等はなかったらしい。
俺がハクの頭を撫でていると……。
「ククーン?」
「ん? ……ああ、起さなくていいだろう。もう少し、寝かせてあげよう」
「ワフッ」
おそらく、普段は忙しくてゆっくりする時間もないのだろう。
すると、お昼を過ぎたからか人集りが出来てきた。
なので俺も隣に座り、アリアさんの護衛を引き継ぐ。
「……すぅ……」
「……いかんいかん、あんまり見るものじゃない」
綺麗なので、つい見てしまう。
ここが海沿いで、正面に誰もいなくて良かった。
すると、肩に重みを感じ……横を見ると、アリアさんが肩に寄りかかっていた。
「な、な……」
「……うぅー……すぅ」
「ど、どうする?」
髪の香りやら、腕に当たる柔らかな感触に戸惑う。
だが、どうすることもできないので……景色を見ることに集中して無になる。
……無論、無になれるわけがなかったが。
◇
そして、膝に乗ったハクを撫でていると……アリアさんが身じろぎをする。
「ん……私は一体?」
「あっ、起きましたか?」
「……な、なっ〜!? すまない!」
目があったアリアさんが、俺から飛び起きるように離れる。
少し残念でありが、同時にホッとした。
「いえ、お気になさらずに」
「よ、よだれとか……寝言とか」
「別に平気ですよ。それと、ハクがしっかり番犬をしてたみたいですから」
「ワフッ!」
「そうか。ふふ……ハク、ありがとう」
ハクが俺の膝からアリアさんに飛び乗り、頭を撫でられてご機嫌な様子だ。
「さて、この後はどうしますか?」
「そうだな……お腹も空いたが、その前に少し砂浜を歩かないか?」
「キャウン!」
「おっ、どうやらハクも賛成みたいですね。それじゃ、歩きますか」
アリアさんとハクを連れて、すぐ近くにある階段を下りて砂浜を歩く。
ハクは初めての感触が楽しいのか、ずっと砂を踏みつけている。
「ワフッ!」
「そうか、楽しいか」
「キャウン!」
「ふふ、可愛いものだな。こうして遊んでいる様は、恐れられるフェンリルとは思えんな」
……ん? これって良く良く考えてみたら、めちゃくちゃデートっぽくないか?
犬を連れて、私服姿の女性と散歩をする。
今は依頼もないので、俺自身もプライベートな時間だ。
「タツマよ、どうしたのだ?」
「い、いえ、なんでもありません」
下から覗き込まれて、思わず動揺してしまう。
これでは、本当にデートのようではないか。
「ふふ、変な奴め」
「キャンキャン!」
「ハクが早く早くって言ってますね」
「よし、私達も少し走るとするか」
駆けるハクを追いかけ、アリアさんがスカート持ち上げて走る。
俺はその非日常的な景色に見惚れて、しばらく立ち尽くしてしまう。
「ほら! タツマも!」
「え、ええっ!」
慌てて追いかけて、並んで軽く走る。
それだけで、なんだかめちゃくちゃ楽しい。
「それにしても……こうして、のんびりできるのは久しぶりだ。タツマには感謝しないといけないな」
「いえいえ、こちらは付き合ってもらってる身ですから」
「しかし、私が来た意味はお主の監視だったのだぞ? 特に問題も起きてないし、これではただの休みではないか」
「まるで、いつも俺か何か問題を起こして……はい、すみません」
ジト目で睨まれたので、すぐに手を上げて降参のポーズを取る。
確かに、問題ばかり起こしてる気がするし。
「ふふ、今回は何もなさそうで良かったよ」
「いやいや、ダメですって。そういうこというと、何かが起きるので……フラグってやつです」
「うん? それは異世界の知識か?」
「まあ、そんなものです」
「なるほど……ん? あれは何だ?」
アリアさんが指差す方を見ると、海から何かが這い出てきた。
それは海にある船の大きさを超えていた。
……ほら、やっぱりフラグだったじゃないか。
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