50話 出発

 俺はそのまま、都市の入り口まで連れて行かれた。


 流石に恥ずかしいので、止めることにする。


「お、おい、そろそろ手を離してくれ」


「あっ、忘れてたわ」


「キャン!」


「ハクも挨拶が遅れてごめんね。ふふ、少し興奮しちゃって」


 そういい、ぺろっと舌を出して笑う。

 その美貌と相まって、中々の破壊力だった。

 なんというか、天真爛漫な性格だよなぁ。


「はぁ、もう慣れてきたから良いけど。それで、改めて聞くけど……ダンジョンを案内してくれるんだな?」


「ええ、任せてちょうだい。単独でも言ったことあるし、雇われて行ったこともあるから」


「それなら心強い。先輩、ご指導をよろしくお願いします」


 俺はしっかりと頭を下げる。

 これは正式な依頼であり、相手はA級ハンターだ。

 いくら親しくなろうと、そこはちゃんとしないと。


「ふふ、相変わらず律儀な男ね」


「そりゃ、その道の先達だしな。そういや、何か下準備はいらないのか?」


 武器や着替えは持っているが、食料とかは数日分くらいしかない。

 そもそも、どれくらい期間がかかるとかもわかってない。


「うーん、最初だから奥には行かないし平気だわ。流石に、私と貴方がいて到達できないってことはないし。これは怠慢ではなく、ただの事実として」


「なるほど……わかった」


「それに魔法の壺には食料もあるし、ダンジョンにもあるわ。最悪の場合、私が緊急脱出アイテム持ってるから安心していいわ」


「へぇ、そういうのもあるのか」


「それよりも、確認したいのはハクよ」


「クゥン?」


 カルラに撫でられていたハクが首をかしげる。

 というか、いつの間に撫でられていたんだが……相変わらず、女性に目がないらしい。


「どういう意味だ?」


「この子の、今の強さが知りたいわ。ああはいったけど、遊びって訳じゃないから。という訳で、水晶を借りましょ」


 そのまま小屋に入ると、見覚えのある水晶を持ってきた。


「とりあえず、ハクの手を水晶につけて」


「え?……魔獣でも見れるのか?」


「当たり前じゃない、この世界の生物だもの」


「確かに言えてる」


 俺はハクを持ち上げ、水晶の前に下ろす。

 すると、ハクが水晶に触れ……文字が浮かび上がる。


 ◇


  ハク 氷狼フェンリル


 体力 D 魔力 D+


 筋力 D 知力 D+


 速力 D+ 技力 D


 称号 氷山の覇者フェンリルの子


 ◇


「これが、ハクのステータスか……」


 Dということは、オークも倒せないこともない。

 一般兵くらいの強さは、あるということだ。


「思った通り……凄いわね、幼体なのにEが一個もない。これなら連れて行って問題ないわ」


「強さは充分ってことか?」


「ええ。ダンジョンの低層階なら平気ということ。出てくるのは、ステータスE+~Dくらいだから」


「ワフッ!」


「良かったな、ハク。先輩がお墨付きをくれたぞ」






 その後、門を出る。


「さて、東にあるダンジョンに行くわよ。大体、馬車なら二時間ってところね」


「俺たちは馬車借りてないが?」


「私達なら走った方が速いわ。節約にもなるし、その子の鍛錬にもなると思う」


「ふむふむ、言えてるな」


「という訳で、ハクに合わせるわ」


 俺は膝をついて、ハクの視線に合わせる。


「ハク、お前のペースでいいから走ってみろ。決して見栄や無理はしないように……いいな?」


「キャン!」


「よし、良い子だ。さあ、街道を走ってこい」


 セツは頷き、街道を走り出す。

 俺とカルラも並走して走り出すが……大体、30~40キロはありそうだ。


「こうして、のんびり走るのも良いわね」


「確かに良い天気だしな」


「キャン!」


 街道ということで、魔物もいないようだ。

 聞いたら、定期的に退治しているらしい。

 それも当然で、商人たちが来ないと困るだろう。









 そして一時間ほど走ると……ハクが止まる。


「キュウン……ククーン」


「なるほど、これぐらいが限界か」


「まあ、子供だもの。むしろ凄いわよ」

 

「ハク、精進しなさい」


「ワフッ!」


 ここからは、俺がハクを抱きかかえる。


「では、スピードを上げるか」


「ええ、そうね」

 

 おそらく、60キロくらいの速さで走り続け……三十分くらいで看板が見えてきた。


「このスピードなら、もう着くから歩くわ。下手に突っ込むと、襲撃と勘違いされちゃうから気をつけて」


「わかった。ハク、降ろすぞ」


「キャン!」


 そして10分ほど歩くと、いくつかの建物や出店なとかあった。

 そのまま進んでいくと、大きな岩壁に不自然な扉がある。

 その前には、兵士らしき人がいた。


「あれがダンジョンの入り口よ。ああやって突然に現れるの。そして、中は異次元になっていてるわ」


「なるほど、見た目通りの広さとかではないと」


「そういうことよ。地下が何階あるかは、未だにわかっていないわ。今は70階が最高だったかしら? そこから先は、魔界迷宮と呼ばれる場所よ」


「魔界迷宮?」


「伝承に出てくるような魔物や魔獣、そして数々の罠があることからそう言われているの」


 そんな会話をしていると、兵士達が俺たちに気づく。


「こ、これはカルラ殿!」


「ご苦労様、通っていいかしら?」


「もちろんです、A級ハンターですから、しかし、そちらの御仁は……?」


「初めまして、タツマと申します。ダンジョン初心者なので、カルラさんのご好意により、案内をしてもらっています」


「そんなんじゃないわよ。ただ、暇だったから……まあ、楽しいけど」


「そうでしたか。では、お通りください」


 俺たちは扉を開け、中に案内される。


 ……そこには、見渡す限りの草原が広がっていた。

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