49話 ハンターギルドにて

 苦しい……息が出来ない?


「ブハァ! ハァ、ハァ……ハク、またお前か」


「クゥン?」


「いや、なにか?みたい顔されても……俺を窒息死させる気か?」


 どうやら、また俺の顔に乗っかっていたらしい。

 そりゃ、苦しいに決まってる。

 しかも、だんだんと大きくなってるから尚更だ。

 

「キャン!」


「はいはい、お腹が空いたんだな」


 部屋を出て二階のキッチンに行くと、エルルとカイルが待っていた。

 その側にはドランがいて、椅子に座って読書をしている。


「にいちゃん! お腹減った!」


「タツマさん、おはようございます」


「おはよう、二人共。すぐに出来るから待ってなさい。ハク、二人と遊んでやれ」


「キャン!」


「「わーい!!」」


 知り合ってから少し経って、この二人も変わった。

 というより、本来の性質に戻ったという方が正しいか。

 兄であるカイルは意外と甘えん坊で、エルルの方が意外としっかりしてそうだ。

 きっと、カイルは妹を守るために気を張ってきたのだろう。

 なので、少しくらい甘やかしてもバチは当たるまい。


「さて、スープとハンバーガーにでもするか」


「コホン! タツマよ……」


「くく、わかってるよ。ドランの分も用意するさ」


「おおっ! 感謝する!」


 そして、俺の隣に立ってくる。


「タツマよ、今日から我は休みだ。お主が良ければ、ダンジョンへ行ってくるといい」


「なに? ……それじゃ、行くとするか。ハクは連れて行って平気だろうか?」


「幼いとはいえフェンリルだ、そこまで問題はあるまい。むしろ、野生的な勘が必要な場面もある。ただし、誰か案内役を雇うことをオススメする」


「案内役……そうだな、命には変えられない」


「そういうことだ。いくら強くとも、死ぬときは死ぬ」


 その言葉を肝に命じつつ、俺は調理を続ける。

 オークの余った肉と骨、そして野菜を煮込んだスープ。

 オーク肉をミンチにして調味料を混ぜて薄べったく焼き、それをトマトと共にパンに挟む。

 出来上がったら五人で朝食を食べる。


「朝から美味い食事にありつけるとは!」


「美味しい!」


「にいちゃん美味い!」


「そいつは良かった。本当は、もっと朝食っぽくしたいのだが」


 どうやら、この世界の料理はあまり発展していない。

 まさか、ベーコンやウインナーまでないとは思わなかった。

 おそらく魔法の壺と、魔法があるから保存食が発明されなかったのだろう。

 発酵食品などは海を渡って輸入されてくるらしいので、もしかしたら他の大陸にはあるのかもしれない。




 ◇



 食事を済ませたら、二人に説明をして宿を出る。

 寂しそうにしていたが、これも二人の成長のためでもある。

 甘やかすだけが子育てではないと、親父さんから学んでいるし。

 そして、ハンターギルドに入り受付に向かう。


「こんにちは」


「あっ、ギルドマスターの……ご用件はなんでしょうか?」


「えっと、ダンジョンに行きたいのですが……案内人とか雇えますかね?」


「少々お待ちください!」


「えっ? ……なんだ?」


 受付の女性が奥の扉に入り、すぐに入れ替わりでギルドマスターが扉から出てくる。


「すまん、待たせたな」


「い、いえ、全然ですよ。それより、なんでギルドマスターが?」


「お主は少し特別なのでな。何か特殊な依頼や受注があれば、俺に伝えるように徹底させてある」


「は、はぁ……」


 なんか、問題児扱いされてるのは気のせいだろうか?

 なんか、受付の人の見る目も違うし。

 他のハンターたちも、俺を見てヒソヒソしていた。


「お主は突然現れ、新人にしてコカトリスを単独で倒したのだ。C級にも最速で上がったし、その辺りの自覚を持ってくれ」


「す、すみません」


「まあ、威張り散らすよりはいい。それで、ダンジョンの案内人が欲しいと?」


「はい、初めてなので。ハクも連れて行くので指導してくれる人が欲しいですね」


「ワフッ!」


「良い心がけだ。いくら強くとも、あそこは特殊な場所だからな。さて、そうなるとC級以上のハンターが必要に……」


 そのとき、俺の背中に何か柔らかなモノが当たる。

 同時に、顔に絹のような綺麗な金の髪が触れた。


「ヤッホー! タツマ!」


「……カルラ、いきなり背中に乗らないでくれ」


「なんでよー? 別にいいじゃない」


「はぁ……」


 こちとら、耐性がまるでないのだから。

 というか、今の俺が気配にも気づけないとは……流石はA級ハンターってところか。


「おい、話の邪魔をするな……ん? 丁度いいのがいたな。タツマ、カルラに案内してもらえ。こいつは斥候役でもあるから、罠なども探知できる」


「なになに? なんの話?」


「タツマがダンジョンに行きたいらしい。んで、その案内人を探してるってことだ」


「なにそれ!? めちゃくちゃ面白そうじゃない! なんで私に言わないの!」


「だから、こうして言ってるだろうが」


「わかったわ! タツマすぐにでも行くわよ!」


「ちょっ!? 引っ張るなって!」


「こっちの方で受注とかはしとくからなー! では気をつけて行ってこい!」


 俺が何も言わないうちに、全てが決まってしまったらしい。


 そうして俺は、ハンターギルドから連れ出されるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る