48話 お礼に頼みごと
仕上げに入る頃、セバスさんも仕事を終えてやってくる。
「これはこれは良い香りですね」
「ありがとうございます。もう仕上げに入るので、席に着いてください」
これで全員が揃ったし、仕上げに入るとしよう。
最後に、バターと小麦粉を入れてとろみをつける……これで料理の完成だ。
パンを用意して、全員でテーブルに着く。
「では、どうぞ。これが、オークの赤ワイン煮込みです」
「おおっ、感謝する……ッ!? う、美味い! ブトウの酸味と肉の甘みが混ざり合い、絶妙なハーモニーを奏でている!」
「そいつは良かった。おかわりもあるから沢山食べていいぞ」
「なんと!? ぐぬぬ……! これは何かしなければ、我の気がすまないぞ」
「だから、そういうのはいいって」
ふと横を見ると、セバスさんが綺麗な所作で食べていた。
その姿は英国紳士のようである……英国紳士見たことないけど。
「これは……美味しいですね。あのオーク肉が、これほど柔らかくなるとは」
「玉ねぎと一緒に炒めると、お肉が柔らかくなりますから」
「ほほう、そんな効果があるのですね。いやはや、いくつになっても新しいものは良いですな」
よし、大人組の評判は上々だ。
さて、この三人は静かだが……問題なさそうだ。
「もぐもぐ……ごくん」
「熱っ……もぐもぐ」
「ハフハフ……」
ほぼ無言で、ひたすら食べ進めていた。
ワインをよく飛ばしたので、子供でも平気そうだ。
「さて、俺も食べてみるとしようか……美味い」
オーク肉が口の中でほろほろと溶けていく!
とろみがあることにより、味が綺麗に纏まっている。
オーク肉は割と庶民的なもの……これはメニューに加えて良いかもしれない。
その後、みんな満足いくまで食事を済ませる。
ハクと二人の子供は、端っこのソファーでスヤスヤと寝てしまった。
セバスさんはお礼を言って仕事に戻ったので、ドランと共にお茶をすることにした。
「とても
「いやいや、料理人にとって最高の褒め言葉だよ。こちらこそありがとう」
「ふっ、お主は変わり者だな。獣人を保護し、我を恐れない。さらに、フェンリルまで連れているとは」
「わかるのか?」
「我らにも伝わっておる、出会ったなら絶対に敵対してはいけないと。その爪は全てを切り裂き、神速の動きは瞬間移動のよう。気がついた時には、もう死んでいるとか。なにせ、我らの神である龍とも対等に渡り合える存在だからな……なのはずなのだが」
「ピスピス……」
俺とドランの視線は、お腹を出してスヤスヤ寝ているハクに向けられる。
なんか、みんな同じ反応をするよなぁ。
やっぱり、イメージと違うのだろう。
「やれやれ、伝承とはあてにならん」
「はは……この子は特別なのかも。実は、一人でいたところを拾ったんだ」
「ふむ、不思議なこともあるものだ」
「それより、龍が神ってどういうことだ?」
「この見た目通り、我らの祖は龍だと言われている。大昔、邪神が現れて世界を滅ぼそうとした。その時、偉大なる神龍が分体を生み出して力を貸したと言われている。その人物こそが、我々の祖だという話だ」
「おおっ……神話の話ってやつか」
やはり俺も男なので、そういう話は好きだったりする。
なにせ田舎だったし、親父さんは娯楽には厳しかった。
邪神とか、神龍とかワクワクする単語だ。
「いや、実際に合ったことなのだ。多分、ハイエルフの奴らなら当時のことを知っているはず。それに我らは寿命が三百年ほどしかないが、里にいる光龍様は一万年を生きておられる」
「……すごい話だ。一万年もびっくりだが、竜人は三百年も生きるのか」
「エルフなら千年単位、ドワーフなら二百年といったところだ。人族と獣人は六十から八十前後だろう」
「ふむふむ、面白いな」
「こんなもので良ければいつでも話そう。それより、我はお主に礼がしたいのだが……これは受け取って貰わねば、我ら竜人の名折れである」
その目は真剣で、とてもじゃないが断れる気がしない。
おそらく、そういう義理堅い種族なのかも。
「そこまで言うなら……普段って何をしてるんだ?」
「我はダンジョンに潜ったり、未開の地を彷徨ったり、この都市で食べ歩きをしたりしている。休みの日は読書を嗜んたり、部屋にいることが多い」
「なるほど……それじゃ、休みの日でいいんだけど、カイルとエルルの面倒を見てくれるか? 特に何かしなくても良いんだけど、気にかけてくれるだけで良い。その間に、ダンジョン探索をしようかと思って」
「ふむ……この幼子二人だと、奴隷商人の格好の餌食であろうな」
「やっぱり、そうだよな」
そういう話は、スラムの説明を受けた時にも聞いた。
魔法が使えない獣人の立場は弱く、それでいて身体は頑丈。
労働力や奴隷として適してるということらしい……反吐が出る。
「承知した。事前に言ってくれれば、数日の間は面倒を見よう」
「ありがとう、ドラン」
「そ、その代わりと言ってはなんだが……」
「わかってるよ。また作るから安心してくれ」
「おおっ友よ! 感謝する!」
その現金な姿に、俺は思わず笑ってしまうのだった。
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