四章

42話 ハクの成長と人気

 早いもので、あの事件から二週間が過ぎた。


 ちなみに、奴がどうなったのかは聞かないことにした。


 俺はその間に依頼を受けてお金を貯めたり、こちらで知り合った方との交流を深めていた。


 あんなことがあったが、いくつか良いこともあった。


 それはハクの成長である。


「ハク! そっちに行ったぞ!」


「ワフッ!」


「ギャー!?」


 ハクの爪の一撃により、ゴブリンが魔石となる。

 もはや、ゴブリン程度では相手にならないくらいだ。

 大きさも子犬から中型犬くらいになっていて、流石は最強の魔獣と呼ばれるだけのことはある。


「ハク、偉いぞ。ゴブリンなら何体来ても問題なさそうだ」


「ククーン……」


 いつもなら撫でて褒めると喜んで尻尾を振るのたが、今回は落ち込んだ様子だ。

 俺の見た所、ミスらしいミスはなかったと思うのだが。


「おいおい、どうした?」


「ガウッ!」


「何やら不満そうだな? 参ったな、俺はお前のいうことはわからんし……よし、聞きに行ってみるか」


 俺はハクを抱いて、急いで門へと戻るのだった。






 ここに来て約一ヶ月が経ち、門番とも顔見知りになった。


 段々と、この世界の住人として認められたような気がして嬉しくなる。


 ただ、その一番の原因が俺ではなくて……ハクにあることだけは納得がいかない。


「ハクちゃんよぉ〜!」


「こっち向いてー!」


「可愛いぃぃ!!」


「キャン!」


「「はぅ!?」」」


 ハクが愛想を振りまくと、それを見た女性陣がハートを射抜かれていく。


「おい! ハクじゃねえか!」


「ほれ! これでも食ってきな!」


「馬鹿やろー! ハクちゃんはうちの飯を食うんだよ!」


「ワフッ!」


「す、すまねえ!」


「大丈夫! おじさん達は仲良しだぜ!」


 このように、屋台にいるおじさん達にも大人気である。

 俺? 俺には誰も話しかけてきませんが?

 嫌われてるわけではない、ハクの人気が凄すぎるだけだ。

 多分、ハクの飼い主って認識なのだろう……別に良いけどさ。


「ワフッ?」


「いや、何でもないさ。みんなに可愛がってもらって良かったな?」


「キャン!」


 あの事件があったから、ハクを自由にさせるかは迷った。

 でも本来なら、テイムされた魔獣が襲われることは滅多にないらしい。

 何故なら、重罪に値するからだ。

 ハクの成長を縛るのも良くないので、ここ最近は放置するようにしていた。

 その所為か、このように人気者になってしまったというわけだ。


「まったく、羨ましい限りだよ」


「ワフッ!」


「あっ、ドヤ顔したな? このぉぉ〜!!」


「ハフハフ」


 両ほっぺをムニムニすると、満足そうな顔をしてくる。

 うん、相変わらず可愛い。

 これは人気が出るのも仕方ないというものだ……ちょっと親バカだったか?


「タツマにハク、道の往来で何をやっているのだ?」


「ワフッ!」


「アリアさん! 良かった! 貴女に会いたかったのです!」


「そ、そうか……私に会いたかったら会いにくればいいのに……」


「いえ、あんまり押しかけるのも迷惑になるかなと」


「むぅ……私は気にしないが」


 なにせ、この都市の兵士達のまとめ役だ。

 本来なら、俺みたいなよくわからない者に関わる時間はないはず。

 ご好意は嬉しいが、それに甘えすぎるのも良くない。

 ……今回はハクについて相談があるいう建前だからセーフである。


「いえいえ。それで、今日はお一人ですか?」


「ああ、書類仕事に飽きたので散歩を兼ねた巡回中でな。それで、私に会いたいとは……」


「実はハクが何か言いたいことがあるみたいで。ただ、俺にはよくわからないのです。なので、カレンさんのお力を貸してくれないかと」


「……つまり、私ではなくカレンに会いたかったと? 私は、そのついでだと?」


 何やらアリアさんの顔が険しくなっていく。

 なんだ? 何を間違った?


「ア、アリアさん?」


「ふんっ……お主という奴は。まあいい、付いて来るといい」


「ワフッ……」


 ハクが俺の足をポンと叩き……顔が『やれやれ』と言っていた。


 何故か今だけは、何を言っているのかわかった気がする。







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