幕間

 ~???視点~


 ……ふむ、やってきたか。


 待ちに待った報告を部下から聞くことにする。


「さて、報告を聞こう」


「まずは、奴の戦闘力です。その強さは、コカトリスを単騎で倒すほどの強さを持っております。真実かどうかわかりませんが、毒を食らっても平気だったとか」


「それは凄まじいな。奴の毒を防ぐには、体力数値がAはないと厳しいだろう。つまり、それくらいのステータスの持ち主ということか」


 それはこの国でも、トップクラスに強いということだ。

 冒険者ランクで言えば、S級に匹敵するやもしれん。


「はい、信じられない話ですが……一体、あのような逸材が何処に隠れていたのか。それほどの強さの者が、この辺境の名もなき村に住んでいたなど」


「確か、アリア様の報告ではそうだったな。ただ、あれは嘘だと思っている。私は辺境を支配するために、当初から隅々まで間者を放っている。子供ならともかく、あの男は三十を過ぎているので、今まで見つからないはずがない」


「それは……その通りですね。ただ、アリア様が嘘をついたと? いくら王女とはいえ、この辺境の支配者である貴方に?」


 この辺境において、私はアリア様より強い権限を持っている。

 なので、吐くように行使しようと思えばできるが……それは愚策だ。

 まだ敵対をするべきでないし、今後もしないに越したことはない。


「聞くところによると、命を助けられたそうではないか。あの義理堅い方のことだ、それくらいはするだろう。何か、訳ありの男なのかもしれない」


「他国の刺客や、王女に取り入る者とかの可能性はないのでしょうか?」


「ふむ、その可能性も捨てきれんか。それも含めて、次は人柄についてはどうだ?」


「その人柄ですが、今のところ問題ないかと。住民からも好かれており、ギルドマスターにも覚えも良く、テイマー協会からも信用されています。何より……あの人嫌いのエルフであるカルラが懐いているとか」


「最初に聞いた時は、流石の私も驚いたものだ」


 あの人族を寄せ付けないお転婆娘がな……一体どんな手を使ったのか。

 男嫌いのアリア様といい、相当な女誑しなのかもしれん。

 英雄色を好むとはいうが、そういうタイプということか?


「そうですね……我々も、驚きましたね。どうやら、相当に惚れ込んでいる様子です。今回のコカトリスの件も、元を正せばカルラがきっかけだったとか」


「全く、相変わらずじゃじゃ馬な奴め。はぁ……後は何かあるか?」


「前にも報告しましたが、フェンリルという最強の魔物を従魔にしたこと。ドワーフ族とも交流をし、獣人などにも平等に接するとか」


「相当な変わり者ということか。そんな価値観のある者はそうはいない……ふむ、その可能性があったか」


 タツマという男は、迷い人なのかもしれない。

 それならば、色々なことに説明がつく。


「何かお分かりに?」


「いや、確証がないのでやめておこう。最後に、スラムの事件か」


「はい、ローレンスの件ですね。こちらに来る以前にも、いくつかのむごい犯罪を犯してますから。実家が多額のお金を払ってもみ消しましたが……今回は無理でしょう」


「うむ、そもそも見限られたからここに来たのだからな。最後のチャンスを、自ら逃したというわけだ。まさか、テイマー協会に喧嘩を売るとはな」


 あの協会は、この国の中枢に入り込んでいる。

 民だけでなく、もはや貴族達の生活の一部だ。

 冒険者ギルドと共に、おいそれと手を出すべきではない。


「ええ、彼らは温厚ですが手を出すとえらい目に遭いますから」


「逆に言えば、きちんと手順を踏んでいれば問題ない。引き続き、この辺境の役にたってもらわねばなるまい」


「スラム街をどうにかしようという動きもありますが……如何なさいますか?」


「私自身はどうもしない。あそこに回す余力はないので、アリア様がやってくれるなら助かるほどだ」


 ただ、あそこには独自のルールがある。

 それに手強いボスもいることだ……無法者達を押し付けられるので、私としては便利ではあったが。

 さて、アリア様のお手並みを拝見するとしよう。


「ですが、勝手を許していいのですか?」


「無論——私の領域まで来るようなら考えがある。この辺境の主人は、この私なのだから」


「おおっ! 流石は我らが主人です!」


「ふっ、当然のことだ。この辺境を国王陛下から任されているのだからな。よし、下がっていいぞ。ご苦労だった」


「はっ!ありがとうございます!それでは失礼いたします!」


 部下が出て行った後、私は席を立ち窓辺から外を見る。


 さて、この辺境にどのような影響を与えるか、見極めなければならない。


 


 「ここは、私の国だ」


 しかし、孤高の狼フェンリルを手懐け、気難しいカルラに気に入られ、堅物のアリア様に惚れ込まれる男とは、一体どんな奴なのだ?


 「想像もつかんな……まあ、いざとなれば呼び出せばよい」


 しばらく様子を見て、見極めるとしよう。


 もし、私の邪魔になるようなら……その時は、覚悟してもらおうか。









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