外伝~アリア~

 全く、不思議な男だ。


 横にいるタツマを見ていると、よくわからない気持ちになる。


「ん? どうかしましたか?」


「い、いや、なんでもないんだ」


「そうですか? あっ、おかわりが欲しいとか?」


「……タツマを私を何だと思ってるのかな? これは、じっくり聞く必要がありそうだ」


「わぁー! すみませんって!」


 そう言いおどけて謝ってくる様を見ると、何やら心の奥がじんわりしてくる気がした。


 もしかしたら、これがお祖母様が言っていたことなのだろうか。



 ◇



 私の名は、アリア-テスタロッサ。


 こんな形をしているが、一応この国の王女だ。


 こんな口調も男みたいで、格好もヒラヒラしたものも着ないし……憧れは多少あるが。


 実は亡き祖母が、私と同じような感じだったらしい。


 剣を嗜みお転婆であったそうで、ついたあだ名は剣姫だったそうだ。


 そして私は、その祖母の若い頃にそっくりらしい。


 剣も祖母から教わったし、私も少なくともお淑やかではなかった。


 幼い私は正義の騎士を見て憧れ、こうなりたいと思ったのだ。


 結婚などせずに、民を守るための剣になろうと。


 そして剣の修行に明け暮れ、挙げ句の果てに騎士になる!と言い出した。


 その為に、まずは軍学校に入ると……もちろん、周りの人間は大反対だ。


 それはそうだ、王家の女性が軍に入るなど前代未聞だ。


 王家の女性は、それこそ様々な有力者の婚約者として育てられることが多い。


 もしくは、他国の王族に嫁ぐに相応しい身分の者だ。


 私も結婚させられそうになっていたのだが、何とか猶予期間を設けてもらった。


 兎に角、皆が大反対する中、祖母だけが賛成してくれたわけだ。


 自分も、時代が許されたならなりたかったと祖母はおっしゃっていた。


 そして、渋る両親や兄を説得までしてくれた。


 もちろん、私とて王族としての義務を無視してはいない。


 なので、その時が来たなら……覚悟を決めなくては。




 そんな中、父から私に任務が降った。

 何でも辺境伯の監視と、辺境の改革を命じられたのだ。

 どうやら、揉め事や兵士の腐敗などが問題になっていた。

 そして辺境伯が力をつけてきていることも危惧していた。

 王家の私なら、それを緩和できると期待されたようだ。



  まあ、実際はそう上手くはいかない。

 平の兵士達には受け入れてもらえたが、上の貴族達には煙たがられた。

 また貴族が寄ってきても、ローレンスみたいな下心がある奴しか寄ってこない。

 本当に腹がたつ、奴らは女を自分の欲望を満たす道具としてしか見ていない。

 そんな日々に少し嫌になっていた頃、ある不思議な男に出会う。

 異世界人でタツマという男だ。


 最初は男ということで警戒していた。

 だが、裸の私に何もしなかったし、紳士的な男性なのだろうと思った。

 話しているうちに、すぐに気に入ってしまう。

 何より、その優しさと強さをひけらかさない姿勢が……私が憧れる騎士道に近かった。



 更にタツマからは、下卑た視線を感じない。

 なんというか、偶にやらしい視線を感じるのだが嫌な気がしない自分がいたりする。

 何より、女だからと見下す視線を全く感じないのが魅力的だなと。


 恐ろしく強いのに、謙虚で誰にでも丁寧……理不尽な相手以外には、丁寧に接するところも好感が持てる。

 普通は、あれほどの力を急に持てば増長するのだが、そんなこともなかった。

 ……やはり、これはそういうことなのだろうか。

 亡くなる前のお祖母様と、こんな会話をしたことを思い出す。


「アリア、ちょっときなさい」


「お祖母様? どうしたのです?」


「私はあなたの夢を否定しないわ。民を守るのも王族の務めですから。ただ、好きな人ができたらどうするの?」


「そんな者はできません。どいつもこいつも、私の身体と身分にしか興味がないですから」


「ふふ、私もそうだったわ。でもあの人に会って変わった。貴女にも、いつかそういう人が現れるかもしれない。ドキドキしたり、その人のことをふと思い出したり……顔が見たくなったりね」


「……そんな日が来るとは思えないです」


 お祖母様も結婚する気は無かったけど、お爺様に会って恋をしたとか。

 当時の私には、その話はピンとこなかった。

 ただ、今なら少しわかる気がする。

 ……タツマに対して、そのように思ってしまうから。


 ◇


「……リアさん……アリアさん」


「……な、なんだ、タツマ?」


「いえ、いきなりぼーっとしたのでどうしたのかと……疲れましたか?」


「……ふふ、そうかもしれないな。では、少し肩を貸してくれ」


 私は隣に座るタツマの肩に寄りかかる。

 その大木のような安心感と逞しさに、なんだか身体がふわふわしてくる。


「お、俺ので良ければ……その、いつでも力になりますから」


「そんなこと言ってはダメだぞ? 私がとんでもない要求をしたらどうするのだ?」

 

「そんなこと言う人は、無茶なことは言いませんよ。ただ、貴女は俺の心を救ってくれました。だから、その時が来たら頼ってください」


「……ありがとう、タツマ」


 タツマはまだまだ世界のことを知らないし、私が付いていないとだめだ。


 いや違うな……ただ、私が側にいたいと思う。


 せめて今だけは、こうして普通の女性として生きてみたい。

 

 ……そう思うのはいけないことだろうか?
















 

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