41話 アラフォー料理人は、この世界で生きていく

 そして、どうにか全ての住民達に炊き出しが行き渡った。


 しかし、まだまだ余裕はある。


 今度こそ、自分の分を焼くために調理を開始する。


 すると、ハクが二人を連れてやってきた。


「おじさん! 美味しかったですっ!」


「おっちゃんうまかった! あんがとな!」


「ワフッ!」


「そいつは良かった。ハク、引き続き二人をよろしくな」


「キャン!」


 お腹いっぱいになった三人が、星空の下で追いかけっこなどをして遊ぶ。

 その姿を見ていると、こちらの心まで暖かくなってくる。

 そしてその姿を見て、他の子供達も元気に遊び出す。


「やはり、子供は元気が一番だな」


「ふふ、そうだな」


「アリアさん、ありがとうございました」


「なに、礼を言うのはこちらの方だ。これがきっかけで、スラム街の問題に着手できそうだ」


「その……領主の方とかは?」


 本来なら国もそうだが、領主の仕事だと思うのだが。


「あぁ、あいつはな……領主としては優秀だが、いかんせん堅物で堅実な男なのだ。この辺境都市をうまくまとめてはいるが、このスラム街のことは静観の構えを取っている」


「そうなんですね。まあ……できることには限りがありますか」


「それもある。そのうち、会うこともあると思うが……おや?」


 アリアさんの視線の先を見ると、何やら言い争うをしながら向かってくる二人がいた。

 というか、ドワーフのノイス殿と、エルフのカルラだった。


「ちょっと! 何をついてきてるのよ!」


「うるさいわいっ! 儂は美味い飯を食いにきただけだっ! お主は肉が食えないのだから引っ込んでおれ!」


「何よ! 私だってお祭りに参加したいわっ! みんなばかりずるいじゃない!」


「ええいっ! 耳元でキンキンうるさいわいっ!」


「うるさいのあんたよ! 野太い声して!」


 ……なんというか、相変わらず仲が悪いようだ。

 いや、この場合は仲がいいというべきか?


「はぁ、相変わらずの二人だな。まったく、ドワーフとエルフはこれだから」


「相容れない関係でしたっけ?」


「ああ、食べる物も性格も全く違うからな」


 そんな会話をしていると、二人が俺にの前に到着する。


「タツマ! 何か面白いことをやってるって聞いたわ!」


「何やら美味そうな匂いがしたと思ったら、やはりお主じゃったか」


「お二人とも、こんばんは。良かったら食べていきますか?」


「もちろんじゃわい!」


「では、ご用意しますね」


「ずるい! 私も何か食べたい!」


「はいはい、わかったって」


「ふふ、賑やかになってきたな」


「ええ、本当に」


 ノイス殿には俺と同じものがいいだろう。

 醤油、酒、みりんを混ぜたタレに、肉を少し浸す。

 それを焼いていく。

 すると、香ばしい香りがして食欲をそそる。


「うん、いい香りだ」


「くぅー! 美味そうな匂いだわい! 酒が進みそうじゃ!」


「ええ、これは良く合いますよ。エールもあるので、そちらで乾杯しましょう」


「うむっ、それは最高じゃ」


 すると、隣にいるアリアさんが恨めしそうに見てくる。


「むぅ……」


「大丈夫ですよ、アリアさんの分もありますから」


「そ、そうか」


「私のはっ!?」


「わかったから、すぐにできるから待てって」


 その間に、果実の盛り合わせを用意する。

 そこにハクに凍らせておいた三色ぶとうを、手で粉々にしつつふりかける。

 するとキラキラとした粉が果実に降り注ぐ。


「わぁ……綺麗……赤い雪みたい」


「これで完成だ。フルーツの盛り合わせ~バルサミコソース~ってところか」


「たべてもいい!?」


「ああ、氷が溶けないうちに食べると聞い」


「ありがとう! いただきます……はむっ……っ!?」


 すぐに表情が輝き、俺の背中を叩いてくる。


「なにこれ!? 果実の甘みが深まってるわ! いつもより美味しい!」


「それはそうさ。甘さを引き出すために、酸味のあるソースを添えたんだ」


「へぇ……! そんな知識があるのね!」


 どうやらお気に召したらしい。

 エルフはデザートなんかは好きそうだから、そういうのも作ってみるか。

 そうしている間に、肉が焼けたようだ。

 それを串に刺していき、俺もようやく食べることにする。


「では、みんなで乾杯でもするか?」


「いいですね」


「賛成じゃ!」


「いいわねっ!」


 アリアさんの声に満場一致し、カレンさんが用意してくれた椅子に座る。

 カレンさんの分も用意したので、五人でお酒を持って乾杯をする。


「タツマ、お主が乾杯の音頭をとってくれ」


「えっ? 俺ですか?」


「そうだ。ここにいるメンバーは、お主の元に来たのだ。普段なら関わることない種族たちが揃ったのは、短い期間とはいえお主の力だ。エルフ、ドワーフ、人族、獣人と……それに身分も関係なく」


 その言葉に他の三人が頷く。


「ふんっ、儂はこんなだからのう。割と人に避けられるんじゃ。別にそれで良かったが……お主とならたまには悪くない」


「素直じゃないドワーフね。でも、私も避けられてたり変な奴に絡まれたりするから……タツマみたいな自然体の人は楽だわ」


「私もですね。貴方はアリア様の側にいる私に対して、何も気にしていませんでした。たとえ、貴方がどこの誰であろうと、その事実が嬉しいですね」


「私もだ。色々としがらみがある立場だが、タツマ殿は気にしないでいい存在だ。その、あれだ……良かったら、今後もよろしく頼む」


「……皆さん」


 俺が言葉に詰まっていると、ハクたちもやってくる。


「ワフッ!」


「おじさん! 俺たちもありがとう!」


「うんっ! ありがとう!」


「……ああ、こちらこそ」


 そうか……感謝をされるって嬉しいことなんだな。

 生まれてから三十年、必死に生きることだけを考えてきた。

 これからは自分の好きなことをしつつ、誰かのために生きるのも悪くない。


「みなさん、今日はありがとうございます。この都市に来て日が浅く、まだ短い付き合いですが濃い時間が過ごせたと思います。俺はこの、もしよろしければ引き続き仲良くしてもらえたら嬉しいです……それでは乾杯!」


「「「「乾杯!」」」」


 エールを一気に飲んで、待ちに待った焼き鳥にかぶりつく!

 胸肉は噛むと弾力があって楽しく、そのさっぱりとした味わいは濃いめのタレと合う。

 モモ肉は柔らかくジューシーな脂が口全体に広がる。

 砂肝はコリコリとした食感と、噛めば噛むほど味がじわっと出てくる。


「とにかくうめぇ!」


「かぁー! こいつはいい! 砂肝が絶品だわい!」


「これは美味しいですね……! 特にもも肉が気に入りました」


「私は胸肉がいいな。さっぱりして食べやすい」


 なるほど、それぞれの種族でも好みがあると。

 ふむふむ、面白いな。

 これから、色々と試してみよう。


「どうしたのだ?」


「いや、この世界なら楽しく料理ができそうだなと」


「ふふ、それはこちらも楽しみだ。すぐに手配をするから、もう少し待ってくれ」


「ええ、わかりました」


 生きるだけで精一杯だった人生の中、突然異世界に飛ばされて、わけもわからなかった。


 でも、今では感謝している。


 ここでなら、俺が俺らしく生きることができそうだから。


 親父さん、俺はこの世界で生きていくよ。


 あなたに教わった心意気を胸に、料理を作りながら……。





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