第40話 イチャイチャ?

 人が整列を始めると同時に、仕上げに入る。


 カレンさんが責任者となり、子供と弱ったご老人から順番に整列していく。


 今回は、コカトリスが美味いということを知ってもらうため、あえてシンプルに作る。


 ニンニクと玉ねぎにつけておいた肉に、塩を少し振ってからフライパンで焼いていく。


 弱火でじっくりと焼いていると、食欲をそそる香りが鼻をくすぐる。


 その香りは俺の知っている鶏肉に近い。


「おおっ……! あの肉とは思えないな! そもそも、色からして違う。これは、どういうことなのだ?」


「アリアさんなら問題ないですかね。実は、俺の目は特殊らしいです。どう倒したら毒が抜けるとかわかるみたいで」


「なに? ……鑑定みたいなものか?」


「多分、似たようなものかと……よし、問題なさそうですね」


 火口は三つあるので、もう一つで同時に焼いていく。

 そして待っている間に、スープをよそっていく。


「タツマ殿、私も手伝おう」


「ええ、お願いします」


 二人で協力をして、次々とスープを用意していると、俺の鼻が肉の焼けた香りを感知する。

 アリアさんにその場を任せ、楊枝を肉にさして確認する。

 そこから血が流れていないので火が通った証拠だ。


「よし、いいだろう……みなさん! お待たせしました!」


「は、早くくれ!」


「お腹減ったよぉ〜」


「落ち着いてください! 全員分あるのでご安心を!」


 何せ元は、四メートルを超えるコカトリスだ。

 百人くらいだったら、足りないということはないだろう。

 それぞれの部位を、串に刺していく。

 それをスープと一緒にトレイに乗せて、みんなに配っていく。

 すると、すぐにみんなが食べ出す。


「あったかいスープ……美味しい……お母さん! 美味しいよぉ〜!」


「ええ……ええ、本当に………良かった」


「なんだこれ!? めちゃくちゃ柔らかい!」


「こっちはコリコリしてるぜ! 肉汁が溢れてうめぇ!」


 今回は胸肉、もも肉、砂肝の三種の焼き鳥にした。

 特に胸肉と砂肝は栄養素が豊富なので、彼らにはいいだろう。

 何より鳥肉というのは、豚や牛と違って重さが少ない。

 空きっ腹の彼らでも、無理なくたべられるはず。


「ふむ、問題なさそうだな。しかし……美味そうだ」


「はい、アリアさんも食べてください」


 並んでる人の分を用意しつつ、アリアさんにも串を差し出す。

 スープならともかく、これなら作業しながらでも食べられるし。

 今はみんなに行き渡って、ちょうど良いタイミングだ。


「そ、そうか……では、頂くとしよう」


「ええ、どうぞ……へっ?」


 アリアさんは髪をかきあげ、そのまま俺の持つ串にかじりついた。

 いわゆる、アーンというやつである。

 なんだこれ、めちゃくちゃ色っぽい。


「これは美味しい……噛むと弾力があって、噛むたびに味が染み込んでくる。こっちはモモ肉か? 柔らかくジュシーだが、しつこくない。砂肝はコリコリして食感が楽しめるし、ほんのり苦味があるのも悪くない」


「え、ええ、そうですか」


「むっ? なんだ? 料理の感想が下手だったか?」


「いえ、そうではなくて……自分で食べると思ってたので」


 結局、俺が差し出した分を食べきってしまったし。

 いや、可愛かったからいいんだけどさ。


「……ふぇ?」


「ふぇ?」


 なんか、聞いたことない可愛い声が聞こえた。


「し、しまった……! 私としたことが……」


「……あぁー、なんかすみません」


「あ、謝るでない! すぐに忘れろ!」


「えー!? 無茶ですって!」


「ぐぬぬ……」


 そういい、何やら悔しそうな顔をしている。

 すると、なんだか胸がぽかぽかしてきた。


「はいはい、楽しんでるところすみませんが……」


「た、楽しんでなどない!」


「とりあえず、二週目が来たので提供してください」


 周りを見ると、いつの間にか人々が再び並んでいた。


 しかも、なにやら暖かい目を向けている。


 俺とアリアさんは慌てて、再び作業を行うのだった。




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