第33話 鍛錬

 アリアさんについていくと、体育館ような場所に到着する。


 そして、あちこちで剣や槍を合わせてる人たちがいた。


「なるほど、鍛錬場ですか」


「ああ、そうだ。ここは兵士専用の場所で、ここでは実戦に近い形で鍛錬をしている。前に案内したところと違い、刃がついた状態で稽古をするのだ」


「へぇ、それは身が引き締まりますね」


「そういうことだ。木剣の稽古が悪いとは言わないが、こっちの方が身になるかと」


 アリアさんの言う通り、危険がある方が人は本気になる。

 狩りを上達するために、俺も山の中に放り込まれたりしたし。

 そこに愛があったとはいえ……よく生きてこれたな。


「しかし、怪我をしたら危険では? 元もこうもないというか」


「ああ、分かっている。だから、ここには常に回復魔法の使い手がいるのだ」


「そっか、魔法があるんでしたね」


「なので、遠慮なく稽古をつけて欲しい。いや、お主が教えてくれた型というやつをバカにしてるわけではないが……しっかり練習もしてる」


「そういうことですか……いえいえ、実戦するのも大事ですから」


 女性に対して本気を出していいか迷ったが、その真剣な表情に承諾することにした。

 前も言っていたが、何かしらの事情があるのだろう。

 多分、急がなくてはいけない理由が。


「感謝する、それではお願いしよう」


「ええ、こちらこそ。本気できて構いませんから」


 真剣を持ち、アリアさんと対峙する。

 俺は正眼に構えて、相手を待つ。


「……行くぞ!」


「ふむ」


 振り下ろされる剣を半歩ずれる事で躱す。

 次々と剣がくるが、その全てを難なく避けていく。


「くっ!?」


「それではダメです。剣を振るう時は、足を出すと同時に腕を振るってください……このように」


 腰に剣を構えて、足の踏み込みと同時に腕を振るう!


「くぅ……!」


 剣で受け止めたものの、威力を殺しきれずに吹っ飛び、アリアさんが地面を転がる。

我慢しろ俺……これも、アリアさんのためだ。

俺は心を鬼にして、アリアさんに剣を向ける。


「どうした? 早く立て、敵は待ってはくれないぞ?」


「くっ……ハァァァァ!」


 アリアさんが、剣を上段に構えて振り下ろしてくる。

 なので俺の剣と当たる瞬間に力を抜き、すっと後ろに下がった。

 当然、前のめりになってアリアさんが転ぶ。


「うわっ!?」


「……もうやめるか?」


「ま、まだまだ……!」


「わかった、それならかかって来ると良い」


「っ!? ああっ!」


 次々と繰り出される剣戟を、一撃も食らうことなく対処していく。

時に躱し、時に弾き、地面に転がしていった。

それでもめげずに、アリアさんは一心不乱にかかってくる。

俺もそれに応えようと、真剣に相手をするのだった。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


「この辺りにするか」


「あ、ありがとうございました!」


 そういい、しっかりと頭を下げてくる。

俺もようやく、意識を切り替えた。


「いや、そんなに畏まらなくて良いですよ。もう、いつも通りでお願いします」


「ふふ、お主こそ途中から雑な言葉になっていたぞ?」


「いやぁ……すみません」


「いや、気にしないでくれ。というか……カルラにはタメ口ではないか」


「はい?」


「い、いや! なんでもない! ……それより、きちんと相手をしてくれて感謝する」


「それは当然ですよ」


 どんな相手だろうと、真剣だったら真摯に受け止める。

 それが親父さんの教えであり、俺自身が親父さんにしてもらったことだ。


「そんなことはない。私は女性だし、身分もあるから本気で相手をしてくれる者はいないのだ」


「俺でよければ、いつでも相手をしますよ。どちらにしろ、教える必要もありますし」


「うむ、頼む。その代わり、こちらも便宜を図るとしよう」


 その時、ふと視線を感じた方向を見ると……ローレンスという男がこちらを見ていた。

 しかし、すぐにいなくなった。

 やはり、アリアさんが気になるのか?

 俺には恋愛事はよくわからない。


「どうした?」


「いえ、何でもありません」


「そうか? それじゃ、戻るとしよう」


「ええ、そうですね」


 良い汗を流した俺たちは、ハクがいる場所に戻るのだった。







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