第34話 都市の闇

 翌日の朝、いつものように朝食を済ませる。


 ちなみに、今日も起きるなり顔はべちゃべちゃだった。


どうしてかって? それはハクが舐め回すからです。


 しかも成長が早いからか、少しずつ重くなってきた気がする。


「さて、顔も洗ったし……今日はどうするか」


「クゥン?」


「いや、ハンターギルドに新しいギルドカードを貰いにいくが……その後の予定をどうしようかと思ってな」


 昨日の夕飯の時に、家については少し待ってくれと言われた。

 もちろん、こちらが頼んでいる身なので待つつもりではいる。

しかし、少し手持ち無沙汰なのは否めない。


「ワフッ!」


「おっ? ……その顔は散歩に行きたいのか?」


「キャウン!」


 言葉が通じたからか、ハクが嬉しそうに俺の足元にじゃれつく。

 それを見ていると、俺の方も嬉しくなってくる。


「そうだな、昨日は放っておいてしまったし。それじゃあ、ギルドに行ったら散歩に行くか」


「ワフッ!」


「ただし、それが終わったら訓練に行くぞ? 今度こそ、戦いに連れて行けるように」


「っ!? ……アオーン!」


「良し、良い子だ」


 今日の予定が決まったので、まずはハンターギルドに向かう。

 そこでコカトリスの素材と新しいカードを、ギルドマスターから直接受け取る。


「これでタツマ殿もC級ハンターだ。ここからは、こちらから依頼を頼むようなこともある。引き続き、よろしく頼む」


「はい、こちらこそよろしくお願いします」


「……ほんと、腰の低い男だ。俺個人としては好ましいと思うが、それでは舐められる場合もあるぞ?」


「……ええ、わかってます」


「ふむ、それなら良い」


 確かに、抑止力として力を見せておくことは悪くはないと思う。

 ただどうしても、そういう人間が好きになれない自分がいる。

 ギルドマスターの忠告を肝に銘じ、俺はハクの散歩に出かけるのだった。


「クンククーン〜」


「随分とご機嫌だな?」


「ワフッ!」


 昨日離れていたのが寂しかったのかもしれない。

 どうやら、少し甘やかしすぎたか?

しかし、愛情を注ぐことは大事だと思うし。


「うーん、この辺りの調整は難しい」


 もっと、厳しくする必要もあるか?

 強くなるためには、そういうことも必要だし。

 俺自身も、親父さんにはそういう風に育てられたから今がある。


「クゥン?」


「……可愛い奴め!」


「アオン!?」


 首を傾げてこちらを見てくるので、思わず膝をついて顔をわしゃわしゃしてしまう。

 やれやれ、厳しくするのも大変そうだ。

 その後、屋台でブルスカの串焼きを買って食べ歩く。

 こいつは豚の味がするから、一度狩りに行きたいところだ。


「美味いか?」


「ワォン!」


「そいつは良かった。そういえば、こうして二人で散歩するのは初めてか」


「クゥン?」


「ほら、案内はしてもらったけど、こうして自分達だけで歩くのは初めてだろ?」


「ワフッ!」


「そういや、まだこの世界に来て数日しか経ってないんだよなぁ」


 なんか、めちゃくちゃ濃い時間を過ごしているからそんな気がしない。

 慣れてはきたが、まだまだしらないことばかりだ。

 道を適当に歩いていると、何やら寂れた場所にやってくる。

 知らない場所で気になったので、道を進んでいくと……。


「この辺りはひと気もないし寂れているな……さて」


「ガルルッ……!」


「ああ、囲まれてる……なにか用かな?」


 視線には気づいてはいたが、害はないと思って放っておいた。

 すると建物の陰から、みすぼらしい格好をした女の子が現れた。

 その姿はやせ細っていて、思わず当時の自分を思い出してしまう。


「あ、あのぅ……」


「今だっ!」


「おっと……」


「わわっ!?」


 とっさに、後ろから襲ってきた男の子を片手で捕まえる。

 軽いので片手で持ち上がってしまう。


「なるほど、悪くない手だ。片方が引きつけ、その間にもう一人が物を盗ると」


「は、放せよっ!」


「ご、ごめんなさいっ! お兄ちゃんを殴らないで!」


 俺は女の子の方に、男の子を軽く放り投げる。

 よくよく見ると、この二人は獣人のようだ。


「あいたた……」


「これくらいで済ませてやる。ただし、次にやったらわかってるな? あんまり、妹を悲しませるなよ?」


「う、うるさいっ! お前なんかに何がわかるんだ!? 僕たちがどれだけ食べてないかと……」


「その気持ちはわかるさ、痛いほどに。ハク、良いだろうか?」


「ワフッ!」


「ありがとうな」


 俺は彼らに近づき、膝をついて目線を合わせる。


「なんだよ? な、殴るなら僕にしろ!」


「わ、わたしが悪いのっ! お腹が空いたってお兄ちゃんに言ったから……」


「いや、殴らないさ。さっきのは教訓として少し痛い目に合わせたけどな。世の中には、もっと酷いやつらが沢山いる。ほら、これを食べると良い。ただし、取られないように今すぐに食べると良い」


 俺は口をつけてない串焼きを二人に手渡す。

 しかし、相手はおどおどして受け取ってくれない。


「へっ? ……良いんですか?」


「き、気をつけろ! 人族の男は、そうやって油断させて女の子を誘拐するって!」


 ……参ったな、警戒心が強すぎる。

 俺が困っていると、ハクが前に出てきた。

 確か獣人は意思疎通ができるとか……ここはハクに任せるとしよう。


「ガウッ! ガウッ!」


「なっ……この人は良い人だって?」


「このワンちゃんは、お腹を空いて死にそうなところを助けられたって……」


「ワフッ!」


「「………」」


 すると、二人が顔を見合わせ頷く。

俺はハクを助けた覚えはないのだが……まあ、良いか。


「本当にいいのか?」


「た、食べてもいいの?」


「ああ、もちろんさ」


 二人が俺から串焼きを受け取り、すぐにかぶりつく。


「……はぐはぐ……うぇぇーん!」


「お、美味しい……! グスッ……」


「ゆっくりで良い。大丈夫だ、誰もとらないから」


 俺は安心させるように、二人を見守る。


 お腹が空いてる時に食べる飯の美味さは、誰よりも知っているから。







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