第31話 上級ハンターの覚悟

ギルドに入り受付に報告すると、そのまま併設している解体部屋に通される。


そこで待っていると、怪訝な顔をしたゼノス殿がやってくる。


「……受付から報告が来たが、本当に依頼を達成したのか? 今朝出て行ったばかりだろう?」


「ええ、本当よ。それはもう見事な戦いだったわ。というか、ギルドカードは不正できないじゃない」


「いや、わかってはいる。ただ、まだ一日も経っていないというのに……とにかく、まずは見たほうが早いか。タツマ殿、ここに出してくれるか? 大型魔獣解体用の台だから平気だ」


「ええ、わかりました」


俺は目の前にある大きな台に、壺から出したコカトリスを置く。


「お、おお……! 確かにコカトリスだ……しかも、かなりの大物だ。これをソロで倒したとなると、実力的にはB級以上ということになるか」


「いえ、それ以上よ。私と同等以上の実力があると思って良いわ」


「なに? ……人に厳しいお主が言うなら間違いないか。しかし、いきなりA級というわけにはいかんぞ? 上級冒険者は、ただ強いだけではダメだからな」


「それはそうね。とりあえず、C級にあげたら良いんじゃない? B級になるには、アレをする必要があるんたけど……多分、タツマはしてないわ」


C級ってことは、A級の依頼も受けることは可能ってことか。

しかし、アレとはなんだ?

何か特別な試験でもあるのだろうか。


「ほう、その歳にしては珍しいな。いや、田舎暮らしの狩人とか言ってたから無理もないか」


「なんの話ですか?」


「いや、今は気にしなくて良いわ。あとで説明するから。それより、どうなの?」


「ああ、上級じゃないC級なら問題ない。俺の方で許可を出しておこう。むしろ、強いハンターは大歓迎だしな」


「……ありがとうございます。それでは、よろしくお願いします」


「ああ、明日には手続きと新しいカードを用意しておくから取りに来ると良い」


その後、コカトリスの血抜きを確認し、解体を頼んでギルドを後にする。

一時間くらいで終わるから、後で取りに来ると約束した。


「さて、お腹空いたけどアリアのところに行こうかしら」


「その前に、さっきのはなんだったんだ?」


「ああ、アレね……B級に上がると色々と面倒なこともあるのよ。それこそ、賞金首を捕縛したり、立場のある人を護衛をしたりね」


「立場のある人の護衛はわかるが……賞金首?」


「いわゆる密猟者ね。絶滅危惧種の魔獣を乱獲したり、食糧になる魔獣をむやみに殺したりする奴ら。ハンターギルドは、それらを止めるためのギルドでもあるから」


……なるほど、前の世界でも問題になっていたことか。

ハンターギルドが、それを抑える役目を担っていると。


「それは重大な依頼だな。不正やわざと見逃す場合もありそうだし。となると、信用できる人というのがB級の条件ってことかな?」


「それもあるけど、もっと単純な話……相手を……人間を殺せるかどうか。いや、いざという時に殺せる覚悟があるかね」


「……人間を殺せるかどうか……その覚悟」


「ええ、そうよ。犯罪者は、基本的に一生出てこれない鉱山送りになるわ。結局、そこで過酷な作業をして死ぬことになる。だから死に物狂いで抵抗してくるわ。そういう相手は実力差以上に執念が違う。その時に相手を殺せるかどうかが重要になってくるのよ」


……確かに相手が殺すつもりなのに、こちらが殺すつもりがなかったら危険だ。

隔絶した力の差がないと、こちらが危険な目に合う。

しかし、俺に人が……現代の日本で育った俺にできるだろうか?


「そうか……」


「まあまあ、そんな顔しないで。別に、好きで殺しをしなさいってことじゃないから。そういう覚悟を持ってればいいわ」


「……わかった、心に留めておく」


「ええ、それくらいで良いわよ」


人を殺すか……出来ればしたくはない。


だが、その時が来たなら……覚悟を決めなくてはいけないのか。










 

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